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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅲ アクアマリンの月
41/181

041

 ガッタが、ルナールたちとディナーを楽しんでいる頃のこと。

 ニースは、学会発表を終えようとしているところだった。


「……よって頭痛や生理痛への効果が期待され、なんとなれば、神経系に作用して緊張を和らげ、血行が促進されると期待されるためです。ただ、この副作用として、ご指摘の通り、睡眠が誘発され、慢性的に使用すれば、依存症に陥る危険性も十分に考えられます。――これで、よろしいでしょうか?」

「結構です」

「他に質問がある方は?」


 ニースは、視線を会場内の左右に走らせたが、手を上げる者はいなかったので、話をまとめにかかった。


「以上で、紫薔薇の精油に関する身体的効用の可能性についての個人的考察の発表を終わります。長時間のご清聴、ありがとうございました」


 学会発表の後は、立食パーティーが開かれた。

 ニースが、チーズとキャビアが乗ったカナッペを口にしているところへ、イグアナかトカゲのような尻尾を生やしたバジリスク属の男性が、背後から声を掛けた。男性のすぐ側には、牛のような角を生やした筋骨隆々のカウ属の女性もいる。声を掛けた方はタキシード姿であり、もう片方は詰襟姿で、ポケットや肩に数多の徽章を下げている。


「ニースさんとおっしゃったね。遠いところ、わざわざお呼び立て申し訳ない」

「いえいえ。――そちらは?」


 ニースが視線をタキシードから詰襟に移すと、詰襟の女性は、自分は海軍で有名な連隊の隊長であり、兵卒たちの健康管理に腐心していることを告げた上で、次のように話を持ち掛けた。


「貴殿の研究には、刮目させられるばかりであります。その明晰な頭脳は、是非とも国家の発展に寄与すべき存在であります」

「お褒めいただき、恐縮です」

「しかしながら、個人での研究には限界があるところ明白でありまして、望むならば、今秋に新造される予定の自然科学研究施設に招聘したいと思う所存であります。如何でありましょうか」

「はぁ……」

 

 ニースが返答に窮していると、タキシードの男性が話を継いだ。


「あとは、僕の方から補足しましょう。要するにですね。ただいま、海軍の予算を割きまして、新しく大型の科学研究施設を拵えてる真っ最中でしてね。この秋には、施設が完成する手筈になっているんです。そこで、新たな研究所にふさわしい、フロンティア精神に満ちた方をリクルートしているという次第なのです。悪い話ではないと思うのですが、お考え願えませんでしょうか?」


 妙に粘着質な言い方で、タキシードの男性は、ニースの顔色を窺うような素振りをしながら問い掛けた。その横では、詰襟の女性が、睨み付けるような鋭い眼光を光らせている。

 ニースは、考える時間稼ぎと喉を潤す目的で、カナッペの横に並んでいるスパークリングが入ったグラスを一つ手に取り、それを半分ほど飲み干してから、回答を口にした。

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