004
ルナール特製のジンジャースープを飲んだガッタは、血液循環が良くなったせいか、表現も豊かに、ニースへ矢継ぎ早に質問をしはじめた。どうやら、元来は社交的でお喋りが好きだったようである。
「ニースのおみみは、どうしてとがってるの?」
「これは、エルフ属の特徴だ。同属は皆、このような耳をしている」
「ニースのおめめは、はれたひのきれいなうみみたいにあおいわね。どうして?」
「これは、生まれつきだ。故意に青くした訳ではない」
「じゃあ、かみがかいがらみたいにしろいのも、おんなじなの?」
「そうだ。これも、生まれた時点から、こういう色をしていたのであって、加齢によって白化した訳ではない」
「かれい、おいしいよね。ひらめもすき」
「待ちなさい。君が言う鰈は、僕の言った加齢とは違くてだな……」
誤解しているガッタへ向け、ニースが平易な言葉を探しながら説明を続ける。一方、ルナールは、無邪気に思い付くまま言葉を発するガッタと、その機関銃のような攻撃でタジタジになっているニースを見比べつつ、口元を片手で押さえながら上品に笑った。
「ずいぶんな好かれようじゃありませんか、ニース様」
「一方的に気に入られ、勝手に懐かれてるだけだ」
「ねぇ、ニース」
遠慮なしに頭に浮かんだことを伝えようとしたガッタの上下の唇を、ニースは利き手の人差し指一本で同時に押さえ、話の主導権を取り戻す。
「君からの質問は、そこまでだ。ここからは、僕の質問に答えてくれ。ガッタ。君は、今いくつだ?」
「なにが?」
「何歳になったかを聞いてるんだよ。歳は、分かるかい?」
「それならわかる。ななさい!」
「七歳か。君は、一人でここまでやってきたのかい?」
「ちがう。ニースがはこんだんでしょう?」
「いや、それより前の話だ。こことは別に、どこか知ってる場所はあるかい?」
「うみ!」
「海? 君は、海の近くに住んでたのかい?」
「わかんない。でも、おさかなはすき」
この後も、ニースは根気よく質問を続けたが、要領を得ない返答が繰り返されるばかりだったので、最終的に、ガッタはどこで生まれ育ち、どうしてこの高台まで来られたのか覚えていないようだと判断した。
せめて、保護者の見当でも付けばよかったのだが。ニースはルナールと相談の上、しばらくガッタを屋敷で預かることに決めたのであった。