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月の後半に差し掛かり、第二サンの日を控えた前日のこと。
キッチンには、ガッタとルナールの姿があり、キッチンへ続くドアには「男子の立ち入りを禁ずる」という張り紙がされている。張り紙がされてからは、ニースは一度もキッチンへ足を踏み入れていない。
はてさて。そこまでして、二人がキッチンで何をしているのか。
「ガッタちゃんにクイズです。アメジストの月の第二サンの日は、何の日ですか?」
「おせわになってるひとに、かんしゃするひ!」
「正解。まぁ、正確には、恋人に贈り物をして想いを伝える日なんだけど、ガッタちゃんに恋愛は早いものね」
「こいは、つちのあじがするから、おいしくないよ?」
「魚の鯉とは別よ」
二人の目の前にある作業台の上には、ボウルに盛られたオレンジとキウイフルーツ、紙袋に入った小麦粉や砂糖、ガラスカップに入れられた卵黄、柔らかくしたバターなどの材料が置かれている。作業台の端には、麺棒やナイフなどの調理用具もある。少し離れたオーブンでは、予熱が始められている。
「それじゃあ、まずはタルト台を作りましょう。これは、あとでフルーツを入れる部分になります。最初は、バターが硬くならないうちに、お砂糖を入れて混ぜます」
「はーい」
ルナールは、ボウルにバターを入れ、スプーンで適量の砂糖を振り入れると、木ベラをガッタに渡す。
「これで、バターと砂糖を混ぜていきます。バターの塊を切るようにするんですよ」
「わかった」
ガッタは、不慣れながらも木ベラを握りしめ、バターにヘラ先を差し込み、真っ二つにするように混ぜていく。ルナールは、ある程度バターと砂糖が混ざったところで、卵黄を入れ、さらに混ぜるように指示する。ガッタが真剣な眼差しで混ぜている間に、ルナールは小麦粉を紙の上で篩にかけ、篩った粉を紙ごと持ちあげると、ガッタのボウルにそれを投入し、木ベラに手を添えて制止した。
「ここからは力がいる作業だから、私が代わるわね。生地が出来上がるところを、よく見ててね」
「おまかせね」
ガッタは、木ベラをルナールに渡すと、生地を押し付けるように混ぜ、ひとまとめにしていく様子を、じっと観察していた。
やがて、全体に小麦粉やバターが混ざって生地が完成すると、ルナールは生地を入れたボウルを窓辺に持って行き、出窓の下枠の上に置いた。
「このまま、しばらく生地を馴染ませます」
「きじが、なじむの?」
「さっきまでバラバラだったバターやお砂糖が小麦粉と仲良くなるまでには、ちょっと時間が掛かるのよ」
「なかよしになるまで、そっとするのね?」
「そうそう。そのあいだに、今度はフルーツを用意しましょう。ナイフを使うから、右手には立たないでね」
そう言ってルナールは、ボウルに用意した果物を手前に寄せ、ナイフを片手に皮を剥き始めた。ガッタは、ルナールの手元で茶色掛かったグレーの皮から鮮やかな黄緑の果肉が現れる様子を、口を半開きにしながら食い入るように見ていた。




