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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅱ アメジストの月
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「さて。手始めに何をするべきか」


 ひとまず、雪を詰めた氷嚢と洗面器、タオル、乾燥させた薬草を作業台の上に並べて用意したニースは、キッチンに立ち尽くし、顎に指を当てて思案していた。

 

 発熱は、環境の変化による精神的ストレスと、寒冷地へ対応していない身体に負担が掛っていたことが原因で誘発された結果なのだろう。

 麓の医者へ連絡しようにも、電話嫌いで電話線を引いていない。それに、この雪道を麓まで降りて登ってくるまで、ガッタを一人にしておくのも良くない。

 今日はサンの日だから、ルナールは明朝までやって来ない。

 ブレックファースト用に、昨夜のうちにルナールが作り置きしたブイヨンスープと、水に浸した豆がある。


 原因と状況を把握し直したところで、ニースは作業台から離れ、鍋を火にかけ、スープ作りを始めた。

 枝を足して火加減を調節しつつ、沸騰したところで、水を切った豆を鍋の中へ投入する。

 ひと煮立ちさせたところで火を弱め、鍋を火から離して置き、蓋をする。


「あとは、何をすべきか」


 ニースは腕を組み、伸ばした指で二の腕をトントンと意味もなく叩きつつ、子供の頃、今は亡き両親に看病された遥か昔のことを思い出そうとする。

 だが、記憶は霞が掛かったように曖昧模糊としていて、よく熱を出したことは覚えていても、何をしてもらったかまでは思い出せないようである。

 

「まさか、幼子の看病をすることになるとは」


 こんなことなら、日常生活に関係する広範な知識を身に付けておくべきだった。それとも、若いうちに結婚して妻を迎えるべきだったか。そんな、今更どうしようもない後悔の念が湧いて来たニースだった。

 だが、すぐに頭を切り替え、隙間に立て掛けてある銀盆を引き出し、そこへ作業台の上に並べた物を洗面器に入れて乗せたあと、食器棚に向かい、戸棚からスープ皿、抽斗からスプーンを取り出す。そして、スプーンを銀盆にのせた後、スープ皿を持って鍋に向かい、鍋の蓋を開け、横の小皿に置いてある玉杓子でスープをよそい、玉杓子と蓋を戻し、スープ皿を銀盆に置く。

 ブイヨンスープからは、ホカホカと湯気が立ち、食欲をそそる仄かなハーブの香りがしている。


「大人しく寝ていると良いのだが」


 片手で銀盆を持ったニースは、忘れ物が無いかキッチンを一瞥してから、ドアを開け、廊下をゲストルームへと歩き始めた。

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