表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅱ アメジストの月
18/181

018

 そろそろニース様は、頭痛が出たところだろうか。ランチは、あまり刺激の強い料理をお出ししない方が良いかしら。

 そんなことを考えながら、ルナールは出窓の下枠に肘を乗せて頬杖を突き、怪しい雲行きを観察していた。

 そこへ、外したリボンを手にしたガッタが、半泣きになって戻ってきた。

 ルナールは、この半時間も経たないあいだに何があったのかと心配しつつ、正面からガッタを抱きしめた。そして、背中をさすったり目元に溜まった涙を拭いたりして、なんとかガッタの昂ぶる気持ちを落ち着かせると、事の次第を聴き出すことにした。


「どうしてリボンを外しちゃったの、ガッタちゃん?」

「ニースにね。かわいくないのね。にあってないのね」


 支離滅裂なワードから、ルナールは直感的に、素直に「可愛いよ」とか「似合ってるよ」なんて口に出来ないニースのシャイで煮え切らない反応を、ガッタがマイナスの意味で誤解してしまったんだと勘付いた。

 

「センスの良さを、ニース様に褒めてもらえなかったのね?」

「そうなの。ニースね。ムッとした顔してたの」


 やはり、頭痛が酷くなってたか。予想が当たったことで、ルナールには、半時間前にガッタとニースのやり取りがすれ違っていく光景が、ありありと想像出来てきた。

 あとは、ここでガッタちゃんの誤解を解いて、ランチの席でニース様の口から持病について説明する機会を設ければ、円満解決するだろう。ルナールは、そう心積もりしつつ、落ち込んでしまったガッタを励まし始める。


「あのね、ガッタちゃん。私の勘が正しければ、ニース様は、リボンをしたガッタちゃんのことを、心の中では好いているはずだと思うの」

「えっ、どうして?」

「ニース様は、ああ見えて結構な照れ屋さんなのよ。だから、あまりにもガッタちゃんが可愛すぎて、素直に気持ちを伝えるのが恥ずかしくなっちゃっただけなのよ」

「ほんとう? ニース、おこってるみたいだったよ?」

「それは、ガッタちゃんの思い違いよ。ニース様は、どんな顔をして良いか分からなくなると急に無表情になるし、なんて声を掛けて良いのか分からなくなると急に無口になる性格なの」

「そうなんだ。な~んだ」


 今泣いた子供が、もう笑う。ガッタはルナールの言葉に元気づけられ、元の笑顔と自信を取り戻した。ルナールは、その眩そうな表情を見て安堵し、ガッタの手からリボンをスルッと抜き取ると、襟元に結び直しはじめる。


「ごめんなさいね、ガッタちゃん。先に教えてあげてたら良かったわね」

「ううん。わかったから、もういい」


 ガッタが言い終わったとき、その腹からキュ~ッという虫の音が聞こえた。


「あらあら。安心したら、おなか空いちゃったのね」

「そうみたい。ランチは、なぁに?」

「牡蠣と蓮根のクリーム煮よ。そろそろお野菜に熱が通って、食べ頃になった頃かしらね」

「わぁい、おいしそう。はやくランチにしようよ」


 メニューが頭に浮かんだガッタは、ルナールの手を引き、ふたりは早足でキッチンへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ