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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅹ オパールの月
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 そろそろムードが甘過ぎて胸やけしそうになっているかもしれないので、ここから先はダイジェストでお送りしよう。挙式の流れは、一般的なチャペルウェディングと概ね同じである。

 牧師であるサーヴァが祭壇の前でスタンバイし、ガッタやニースほか、ゲストが入場して着席。このときグレンツェは、サーヴァのアシスタントとして一歩離れて待機している。

 そのあと、新郎であるシュヴァルベが先に入場し、祭壇の前で新婦であるオンサを待つ。このあいだ、シュヴァルベの表情は、いつものニヤケ面からは想像できないほど硬く強張っていたので、ルナールは「シュヴァルベでも緊張することがあるのだ」と密かに驚いていた。

 そして、いよいよ新婦が叔父と腕を組んで一歩ずつ祭壇に近付き、オンサが祭壇の前まで来ると、叔父は組んでいた腕を解いてオンサのそばを離れる。それから、シュヴァルベとオンサはサーヴァのほうを向き、問い掛けに対して順に結婚を誓約する。そののち、グレンツェが運んできた指輪を新郎から新婦へ、新婦から新郎へと交換。このあと、新郎、新婦、牧師の三人が手を重ね、サーヴァが祈りを捧げたり、結婚誓約書にサインしたりといった段階を、サーヴァの進行で順調にこなしていったあと、いよいよクライマックスへ。


「では最後に、お二人向き合い、誓いのキスを」


 サーヴァに促され、シュヴァルベとオンサが再び向かい合うと、サーヴァは、頭が真っ白になっているシュヴァルベに、小声でベールを上げるよう指示をした。

 言われたシュヴァルベは、片足を後ろに引いて軽く膝を曲げ、軽く俯いて待っているオンサに対し、震える手でベールを持ち上げる。すると、オンサは顔を上げて立ち上がり、シュヴァルベの肩に手を添えながら、耳元で囁いた。


「目を閉じて、肩の力を抜いてろ。じれったいから、あとは、あたしがやる」


 シュヴァルベが指示通りにすると、オンサは震える唇に、そっと自分の唇を重ねた。

 このキスは、時間にして僅か数秒間のことであるが、新郎新婦だけでなく、周囲で見守る全員の記憶に残る光景となった。


 さて。誓いのキスまで終わってしまえば、あとは消化試合のようなもの。サーヴァは、二人の結婚が無事成立したことを、ゲスト全員に報告した。

 ここまでくれば、一般的には新郎新婦は腕を組み、ゲストの拍手を受けながら、ゆっくりと身廊を歩いて退場するものである。だが、ここは教会ではなくダンスホールなので、ゲストが出口の外で待ち構えてライスシャワー、というわけにはいかない。そこで、代わりの演出が考えられた。


「レンズさん。例のアレを配ってください」

「はい」

「お集まりの皆さんは、お手数ですが、ご起立の上、身廊を挟むよう一列にお並びいただき、レンズさんから包みを受け取ってください」


 ゲストたちは身廊を挟むように列を作り、一人ずつグレンツェから包みを受け取った。


「ねぇ、ニース。これから、なにがおこるの?」

「その答えは、サーヴァが教えてくれる」


 包みを受け取ったガッタが、不思議そうに首を傾げながら隣に立つニースに質問していると、受け取っていない人が居ないことを確かめたサーヴァは、包みを開け、中身を両手の掌に乗せるように指示した。サーヴァの言う通りにしたガッタは、包みから出てきた何枚もの紫の花びらを見て、目を丸くして驚き、再びニースに話し掛けた。


「わっ! これ、ニースのおはなじゃない。いつ、よういしてたの?」

「フフッ。光に当たると色が褪せるし、時間が経つと乾燥してしまうから、出掛ける直前だよ」

「あっ、わかった。あのトランクでしょ? あたり?」

「その通り。落とすといけないから、しっかり両手を合わせておくように」


 サーヴァのアイデアというのは、フラワーシャワーである。新郎新婦が出入り口へ向かって歩いて行く途中、通り過ぎるタイミングで花弁をまくことで、最後まで祝福ムードを壊さないようにしようと考えたのである。

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