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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅹ オパールの月
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168

 秋の日は釣瓶落とし。夕暮れが迫る中、いの一番にミオの別荘へ到着したのは、ガッタたち四人でも、シュヴァルベたち三人でもなく、指輪を持ってきたフィーユであった。

 フィーユは、挙式会場として使う予定のダンスホールで、グレンツェとともに設営を手伝っていた。


「重くないか、レンズ? もっと人手が増えてからでも準備は間に合うから、無理しなくていいぞ」

「ご心配なく。力仕事には慣れてますから」

「そうか? それなら、運び込んでしまおう」


 二人は、祭壇代わりのテーブルを出入り口から一番遠い場所へ置き、続いて、花嫁が歩く身廊として真っ赤なカーペットを敷いた。それから、イスを並べたり、祭壇の上に清潔な白いクロスを掛けたり、出入り口の両サイドに花瓶を設置したりしているうちに、ディナーを準備しなくてはいけない時間になったので、グレンツェは途中でキッチンへと向かった。

 残ったフィーユは、ダンスホールというだけあって、天井が高く窓の大きな開放感たっぷりの部屋を全体的に眺めたり、壁際に寄せられているチェンバロの黒鍵を押してみたりしたあと、並べたイスの一つに座り、腕を組んで満足そうに頷いた。


 フィーユがダンスホールで納得している頃、シュヴァルベたちは汽車に乗ったところであった。コンパートメントに荷物を置いたあと、シュヴァルベとオンサは、オンサの叔父に荷物番を頼み、先にビュッフェ車で簡単にディナーを摂ることにした。

 

「なぁ、オンサ。義叔父さんは、普段は何をしてる人なんだ?」

「さぁね。あたしが小さい時は、うちの店を手伝ってたけど、あたしが店を手伝うようになってからは、たまにハガキを送るくらいで、ほとんど会ってなかったんだ。――キノコも食べろ」

「そっかぁ。まぁ、所詮は親戚って、そんなもんだよな。――気付かれたか」


 付け合わせのポルチーニ茸を行ったり来たりさせつつ、このあと二人は、明日のことを考え始めた。

 

 一方、オンサたちとは別の汽車の中で、ガッタは一人、気になっていた。

 大きな荷物は、あらかじめ配達されているので、手元にあるリュックやバッグには、貴重品や小間物くらいしか入っていない。ニースも、トランクには大したものは入っていないと言っているのだが、同時に、決して中を開けて見てはいけないというのである。

 こういうとき、念を押されると余計に何が入っているのかと興味が湧いてくるのが、人情というもの。ガッタは、運良く誰もコンパートメントにいないタイミングを見計らい、ニースのトランクに近付いた。そして、留め金を外して開けようと指を掛けるが、トランクはビクともしない。オカシイと思って持ち手の下を見てみると、そこには小さな鍵穴があった。

 

「ムムッ。かぎが、かかってる」

「そこで何をしているのかな、ガッタ?」

「ヒャッ! ニース!」


 ガッタが振り返ると、用足しに席を外したはずのニースが、いつの間にか真後ろに立っていた。

 このあと、ディナーから戻ってきたルナールとサーヴァは、説教するニースと納得できないガッタが議論を闘わせるのを目撃するのであった。

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