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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅸ サファイアの月
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 押し葉作りからフィーユの来訪まで目白押しだった日から、一夜明けた朝のこと。早起きしたガッタは、サーヴァが宛名を書いて三枚の葉を封入した手紙を、いつも配達に来るペリカン属のしゃくれ顎の青年に渡した。


「だいじな、だいじな、おてがみだから、かならずレンズにとどけてね」

「わかったよ、お嬢ちゃん。ちゃんと届けるから、安心してくれ」

「レンズ、よんでくれるとおもう?」

「大切な手紙なんだろう? だったら、きっと読んでくれるさ。ひょっとしたら、返事を書いてくれるかもしれないから、ひと月ぐらい楽しみに待っててごらんよ。それじゃあ、また」 

「いってらっしゃーい! きをつけてね~」


 青年は、ペリカンのマークが描かれた郵便鞄を背中に回すと、両腕の翼を広げ、助走を付け、温室の近くの庭から飛んで行った。ガッタは、青年が去った方角を見上げ、しばらく両手を左右に大きく振っていたが、だんだん人影が小さくなり、やがて見えなくなると、腕を下ろし、遊びを再開した。


「よーし。こんどこそ、おおきいのつくるぞ~」


 そういって、ガッタは泡立つ液体が入れてあるバケツのそばに近付き、中にあるエル字に曲げられた取っ手を持つと、それを慎重に上へと持ち上げた。

 すると、取っ手の先に円形の枠が現れた。円の内側の領域には、境界を含め、虹色に光が乱反射する幕が張られている。ガッタは、水平に持ち上げた円形の枠が垂直になるよう、取っ手を持つ手首をクルッと捻ると、タッタッタと駆け出した。

 ここまで書けばお分かりだろうが、バケツに入れてある水溶液に含まれる溶質は石鹸で、ガッタは、より大きなシャボン玉を作ろうとしているのである。

 風をはらんだ石鹸水の幕は、慣性の法則に従ってガッタの進行方向の後方へと流れたあと、表面張力によって大小さまざまなサイズの球体へと姿を変えた。


「あー。どうしても、バラバラになっちゃうなぁ」


 空中に浮かぶシャボン玉が、ふよふよと風に漂いながら、屋根の上へ持って行かれたり、地面へ落ちたりしていく様子を見ながら、ガッタが不満そうに呟いでいると、横からニースが声を掛けた。


「おはよう、ガッタ。郵便屋の青年には、手紙を渡せたかい?」

「あっ、おはよう、ニース。ペリカンのおにいさんなら、ちゃんとおねがいしたよ。おへんじ、くるとおもう?」

「さぁ、どうだろうね。ひょっとしたら、返事が来るより先に、本人に会えるかもしれない」

「えっ、なんで? レンズ、ここへくるの?」

「いや、向かうのは僕等のほうさ。昨夜のうちに、ミオへ別荘の一室を貸して欲しいという旨の手紙を認めて、今朝、温室へ青年が来た時に渡しておいた」

「ベッソウって、どんなところ?」

「さすがに秋だから、サマーハウスではないだろうが、どこか景色の良いところさ。そもそも借りられるかどうか未定だけど、頃合いの別荘を貸してくれると信じているよ。一応、ガッタがレンズくんに会いたがっているという話も、盛り込んでおいたからね」

「じゃあ、わたしもミオをしんじる。レンズにあえたら、いいなぁ」


 ガッタは、近い将来への期待を小さな胸にいだいた。

 ニースは、希望が叶うことを祈りつつも、近くにあるバケツとガッタの持っている針金の枠に目を付け、質問した。


「その手にしている枠は、どうしたんだい?」

「あっ、これ? ママがつくってくれたの。そうだ! ねぇ、ニース。もっと、おおきなのがつくれるようにならない?」

「フゥム。見た感じだと、石鹸を融かしただけのようだね。少しキッチンを借りて、丈夫なシャボン玉が作れるようにしようか」

「えっ、そんなことできるの?」

「可能だよ。ついておいで」

「は~い!」


 ニースがバケツを持って屋敷へと向かうと、ガッタも枠を持ったままあとへ続いた。

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