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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅱ アメジストの月
15/181

015

 ガッタが最初に発見されてから、一ヶ月近くが経った。

 その間、駐在からは音沙汰なく、またガッタの保護者を名乗る人物も現れなかった。

 

「追肥もした、苗も育ってる。ひとまず、これで良いだろう」


 温室で水やりを終えたニースは、じょうろと軍手を作業台の上に置き、トレンチコートを羽織り、結露しているガラス戸を開けて外へ出た。

 すると、そこにニースを待ち構えていた人物がいた。


「ゆうびんで~す。サインおねがいします!」

「いつから郵便屋になったんだい、ガッタ?」


 ニースはガッタの手からポストカードを受け取りつつ、ガッタが被っているペリカンのマークが刺繍された帽子に注目する。

 と、そこへペリカン属のしゃくれ顎の青年が駆け寄り、ガッタの頭から帽子を取り上げる。青年は、帽子と同じマークの刺繍が施された郵便鞄を、肩から斜めに掛けている。


「やれやれ、やっと見つけた。悪戯しないでくれよ、お嬢ちゃん」

「いいじゃない、ちょっとくらい。――おにいさんより、にあってたでしょう?」

「そういう問題ではない。仕事の邪魔してはいけない」


 同意を求めるガッタに対し、ニースは軽く窘めると、青年から伝票を受け取ってサインした。青年は、ニースから伝票を受け取ってサインを確かめると、挨拶もそこそこに両腕の翼を広げ、助走を付けて急いで飛び去って行った。

 ガッタは青年を追いかけようとしたが、とても追いつきそうにないと分かると、残念そうに見送りながら不満げに頬を膨らませた。


「むぅ。にげあしのはやいとりさんだ」

「足止めするんじゃない。彼等だって忙しいのだから」

「おとなって、みんないそがしいのね」


 訳知り顔でガッタが言うと、ニースはフッと口の端で笑ってから話題を替えた。


「今朝は、キッチンに行かなかったのかい?」

「ううん、いってきた。おてつだいすることないから、こっちにきたの」

「そう。ルナールは、何を作ってたんだい?」

「きょうはひらめにおびえるのよって、ルナールがいってた。どういういみか、わかる?」


 それは、ムニエルの間違いだろう。ニースは、あえて訂正せずにスルーすると、旧市街の煉瓦の街並みが描かれたポストカードをコートのポケットにしまい、ガッタと共にダイニングへと移動した。

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