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「パイは美味しいかい、ガッタちゃん?」
「おいしい。さっきのカボチャが、もっとあまくなったね」
フォークで焼きたてのパイを頬張りながら、ガッタは片手を口に添えて幸せそうに微笑んだ。カリーネは、そんなガッタのキュートな仕草に癒され、スチームオーブンから発せられる輻射熱と格闘した苦労が吹き飛ぶ思いがしたのであった。
さて。ガッタがダイニングで、カリーネと一緒にカボチャのパイに舌鼓を打ち、ルナールが使用人部屋でガッタのために秋物を用意しようと型紙を起こしている頃、ダイニングへ向かっていたサーヴァは、途中でニースに呼ばれ、ガッタと分かれて庭へ向かっていた。庭といっても、いつもガッタが遊んでいる風見鶏が見える側ではなく、屋敷を挟んで反対側にある裏庭である。
蛇足ながら付け加えておくと、シュヴァルベは皿洗いを終えたあと、ポプリンやオックス、ツイルなど、色柄も素材も違う生地を使用人部屋まで運び込むのを手伝わされ、更に力仕事を代行させようとするルナールから逃げるように飛んで帰った。
「この通り、こちら側は陽当たりの悪さと土壌が粘土質であることが重なって、すぐ泥濘が出来るんだ。水捌けを良くすれば、ガッタの新たな遊び場として使えると思うんだが、どうだろうか?」
「そうですねぇ。なだらかな坂にして排水を促す、砂利を敷く、側溝を作るといったところでしょうか」
「なるほど。ひとまず砂利を敷くだけでも、これを履く必要が無くなりそうだ」
そう言って、ニースは足元を見た。ニースとサーヴァは、庭へ出る前にロングブーツに履き替えているが、二人とも爪先から踝の上あたりまで泥だらけである。もし、履き替えていなかったら、スラックスがドロドロに汚れていたことだろう。
「庭師を呼びましょうか。それとも、採石場の方がよろしいでしょうか?」
「砂利だけ持って来られても困るから、誰か信頼できる庭師を呼んでくれ」
「承知いたしました。では、三名ほど、心当たりに相談してみます」
「頼んだよ。急ぐ必要はないんだが、できれば日が長いうちに着手してもらえると助かるんだ」
「はい、心得ます。ところで、こちらの庭の図面は、書斎にありましたでしょうか?」
「あぁ、どうだったかな。無いと困るかい?」
「正確な面積が分かりませんと、庭師の方も細かな見積もりが出来ませんので、比較する際に、いささか不便が生じる惧れがあります」
「わかった。すぐに探してみよう」
サクサクと段取りが決まったところで、ニースとサーヴァは裏庭から離れ、屋敷の方へと戻って行った。




