表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅶ ルビーの月
122/181

116

 主寝室の窓から、ひと筋の夏の朝日が射し込む。

 ベッドで眠っていたニースは、おもむろに身体を起こし、長い耳に垂れかかる髪を掻き上げつつ、緩く編んだ三つ編みの結び目を解く。

 すると、そこへ控えめなノックとともに、サーヴァがやってきた。


「おはようございます、坊っちゃん。今朝のお目覚めは、いかがですか?」

「おはよう、サーヴァ。悪くない朝だよ」


 ニースたちが献花から戻ってきて、ひと月あまりが経っている。それなのに、どうしてサーヴァが当然のようにガニュメデス邸にいるのか。

 別段、深いわけでもない。何かある度に往復させるのも忍びなく、また、屋敷に居てもらうと何かと便利であるから、執事として雇い直すことにしたのである。ちなみに、サーヴァが休憩に使っている部屋は、この主寝室のすぐ隣である。起こってほしくは無いが、もし、ニースが就寝中に何らかの異変があった場合、真っ先に駆け付けられる距離でもある。

 

「今朝は、写真館から封筒が届いております。こちらです」

「ありがとう。そこのナイフを取ってくれ」

「はい、どうぞ」


 サーヴァはチェストからペーパーナイフを取り出し、それを両手で差し出した。ニースは、それを受け取って封筒の口を切ると、逆さにして中身を取り出した。

 包んである薄い紙を開くと、中には二葉のモノクロ写真が入っていた。


「細かいところまで、綺麗に写っている。君も見てごらん」

「ほぉ。近頃のカメラは、よく撮れるものですね。ハンサムでございますよ」

「そこはいいから、ガッタを見てくれ。元々は、のちのちガッタに送るつもりで撮ったものなんだ」

「そうでしたか」

「こういう展開になるとは、予想していなかったからね。そこのフォトフレームを取ってくれ」

「こちらですか?」

「そう、それだ。どうも」


 サーヴァは、マントルピースの上に伏せて置いてあったフォトフレームをニースに手渡した。受け取ったニースは、裏面の留め金を慎重に外し、ペーパーナイフの刃先を差し込んで蓋の端を持ち上げ、出来た隙間に指を引っ掛けて蓋を開けた。

 そして、元々入っていた写真と届いたばかりの写真を入れ替え、再び留め金を嵌めてから表へ向けた。


「これは、あとでガッタに見せることにして、こちらは、どうしたものだろう」

「別のフレームをご用意しましょうか? 奥様がお買い求めになったまま、使われていない品がございます」

「そうか。それでは、適当なものに入れておいてくれ」

「承知いたしました」


 サーヴァは、ニースの手から古い写真を受け取ると、一度、表を向けて何が写っているか確かめ、遠き日を懐かしむような目をしてから、ベストの胸ポケットへと入れた。 

 伏せたフレームに入っていたのは、若かりし頃のニーズと、山猫のような耳と尻尾を持ったリンクス属の女性、マオが、カメラに向かって希望に満ちた笑顔を浮かべているという、貴重な一枚である。ニースは陽に当てないようにしていたが、すっかりセピアに褪せていて、時間の経過を容易に窺い知ることが出来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ