099
遊歩道を歩くこと、三十分あまり。ミオ、ニース、ガッタ、それからルナールの四人は、湖畔の景色にマッチしたクラシックホテルへ辿り着いた。ホテルには彩り豊かな庭園が隣接し、ロビーやカフェの窓から一望できる景色は、メハジキの薄紫やウイキョウの黄色が目にも鮮やかである。
ホテルに到着してすぐ、ミオはフロント付近に居たボーイへ、ニースたちに紅茶でも出すよう命じ、自分は着替えたいからと言って、そそくさと宿泊している部屋へ行ってしまった。
残された三人は、額に一本の短い角を持ったユニコーン属のボーイの案内で、猫脚の優美なソファーや一枚板の立派なローテーブルが並ぶ、華やかなカフェスペースへと移動した。
「こちら、アフタヌーンティーセットでございます」
「わぁ、かわいい!」
「本当。食べちゃうのがもったいないわね、ガッタちゃん」
「紅茶も軽食も、ご入用でしたらおかわりをお持ちいたします。お気軽にお申し付けくださいませ」
「どうもありがとう」
ガッタとルナールが、銀で出来た三段のティースタンドに並ぶスコーンやサンドイッチに目を奪われている隙に、ボーイはニースにアイコンタクトを送り、控えめに人差し指と中指を親指と擦り合わせた。そのサインに気付いたニースは、ベストのポケットから金貨を一枚出し、二人に気付かれないよう、ソファーの背もたれを衝立代わりにして、さり気なく渡した。チップを受け取ったボーイは、営業スマイルを崩すことなく、慇懃に一礼してその場を立ち去った。
「ねぇねぇ、ニース。どれ、たべたい?」
「取ってくれるのかい? それなら、一番下の段にあるマドレーヌにしよう」
「へぇー。このかいがらみたいなの、マドレーヌっていうんだ」
ガッタは、洋ばさみのような形をしたケーキトングでマドレーヌを挟むと、ニースの取り皿の上に置いた。だが、ニースがナイフとフォークで食べようとすると、ガッタはアーッと声を上げて止めた。それからガッタはニースの手からフォークを奪い、それでマドレーヌをひと口分切り分け、それをニースの口元へ持って行く。
「はい、アーンして」
「ガッタ。僕は、自分で食べられるよ。介護の必要は無い」
「あつくないから、だいじょうぶだよ。さぁ!」
どこまでもマイペースなガッタに困惑しつつ、ニースは控えめに口を開けた。
そんなニースとガッタの微笑ましい姿は、キルト製のティーコージーをポットから外して三人分の紅茶を注いでいたルナールだけでなく、到着した宿泊客のトランクを運んでいたユニコーン属のボーイも、遠巻きにこっそり観察していた。




