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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅵ パールの月
103/181

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 ミオの発言が、あながち無根拠なデマカセでないことは、ガッタの名前を当てたことでも明らかだろう。だが、この要求は、容易に飲み込めるものではない。

 そう思いながら、ニースは苦虫を嚙み潰したようような表情をしている。そんなニースを、ガッタとルナールは固唾を呑んで見守っている。ニースの視線の先では、ミオが勝ち誇ったように得意満面を浮かべている。


「聞こえなかった? 今すぐココで跪いて謝るなら、ホテルまでついて来ても良いと言ったの」

「クッ。足元を見るような真似をするとは、落ちぶれたものだな」

「なんとでも好きにおっしゃい。まっ、プライドの高いあなたには、はなから無理な相談かしらねぇ。あなた、他人に頭を下げられたことはあっても、他人に頭を下げたことは無いんじゃなくて?」


 悪役令嬢もかくやという高飛車ぶりで、ミオはニースへの積年の恨みをぶつけた。ニースが口を開きかけた刹那、ルナールはツカツカツカとニースの前に立ちはだかり、腰に手を当ててミオに言い返そうとした。


「ちょいと、あなた。昔、何があったか存じませんけど、いくらなんでも」

「そこまでだ、ルナール」

「しかし、ニース様。言われっぱなしでは」

「いいから、下がりなさい。それから、ガッタの目を塞いでおいてくれ」 

「……はい。承知いたしました」

「わっ。まっくら!」


 ルナールは、ニースの眼にいつもの優しさが消えているのに気付き、ハッと胸を突かれ、耳と尻尾を垂れて出過ぎた真似をしたと反省しながら三歩下がり、ガッタの両目を両手で覆った。ニースは、ルナールとガッタの様子を横目でチラと確かめてから、小さく咳払いして謝罪の言葉を述べた。


「マオとは結婚を約束していながら、戦中戦後と一度も姿を見せなかったことを、心よりお詫びし、また、薬師でありながら必要な手当をせずに放置し、取り返しのつかない状況に陥る原因を作ったことを、深く反省いたします。遺族であるミオの精神的苦痛を緩和するケアを怠ったことも、申し訳なく存じます。ごめんなさい」


 言い終わると、ニースはスラックスのセンタークリースを少し摘まみながら片膝をつき、立てた膝の上に片肘を載せて深く頭を下げた。

 そのまま、そこだけ時が止まったかのように、一分間ほど誰も動かなかった。


「顔を上げなさい。私が泊まってるホテルは、こっちよ」


 ミオは、無意識に首元のスカーフに手をやり、結び目を少しずらすと、クルッと一八〇度方向転換し、湖畔の遊歩道へ向かってスタスタと歩き出した。

 

「もういいよ、ルナール」

「はい。――ごめんね、ガッタちゃん。おめめ、ちゃんと見える?」

「あー、うん。みえる、みえる」


 ルナールが手を離すと、ガッタはパチパチと数回瞬きしながら返事をした。

 このあとニースは、ガッタの手を引いてミオのあとに続き、ルナールも、その更にあとを追い駆けた。

 四人の真上に広がる空は青く澄み、湖面は、つい先程まで吹いていた風が止んだことで、小波が綺麗サッパリ消えていた。

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