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写真を撮り終えた三人は、慰霊塔の近くに戻り、今度は裏手へ回った。
塔の窓がある側と反対の壁の前は共同墓地になっていて、立ち並んだ石碑には、戦災で亡くなった者の名前が百人ずつ列記されている。
ニースは、ガニュメデスで終わる二つの名前が刻まれた石碑の前に立つと、その場に片膝をつき、文字を一つ一つ確かめるように揃えた指先でなぞる。そして、そのまま石碑に片手をついたまま、グッと瞼をきつく閉じ、俯いて黙祷を捧げた。
ガッタとルナールは、そこから三歩ほど離れて見守っている。ニースの横顔は、その場からは長く垂れる横髪に遮られるため、窺い知ることは出来ない。ニースに邪魔しないように言われた手前、ガッタはルナールに小声で質問する。
「ニース、どうしちゃったのかな?」
「きっと、お亡くなりになったご両親と心を通わせているのでしょう。そっとしておきましょうね」
「はーい」
それから一分ほど、ニースは同じ姿勢のまま微動だにしなかったが、そのうち満足したのか、キッと目を見開き、立ち上がってガッタたちの方へ戻ってきた。
「待たせたね。悪いが、もう一人だけ挨拶させてくれ」
「こんどは、だぁれ?」
ニースは、純粋に疑問を投げ掛けてくるガッタに悪いと思いつつ、スッと目線を逸らして無言のまま移動した。ガッタは、ねぇねぇと言いながらニースのベストの尾錠から伸びる紐を引っ張って食い下がろうとしたが、すぐにルナールが止めに入った。
「ガッタちゃんにも、この人とずーっと一緒に居たいというお相手が現れたら、今のニース様の気持ちが分かるわ」
「えーっ! そんなに、さきのはなしなの?」
背後で何を囁き合っているのか気になりつつも、時おり丘から湖へと渡る涼風に掻き消される声量なので、ニースは知らないフリをすることにした。それよりも、ニースは目的地へ向かうにつれ、何やら言語では形容しがたい嫌な予兆めいたものが、ひたひたと現実に迫ってくるように肌で感じ取れるのが気がかりであった。
そして、ニースの悪い予感は、またしても的中するのであった。
かつての恋人の名前が刻まれた石碑の前には、顔を覆い隠すレース付きの帽子を被った女性が佇んでいるのだが、その女性は、山猫のような耳と、艶やかな尻尾を持っているのである。




