表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

或る男、陰陽師に嫁ぐこと。1

ここから先の展開に以下の要素が含まれます。

閲覧の際にはご注意ください。


・女性の男装、男性の女装(描写は軽め)


 今日もまた、駄目だった。

 私は、腹から込み上げるものをなんとか押さえ込みながら、宮中を出た。口を袖で隠し、なんとか貴族の体裁を保っている。体は左右に小さく揺れ、歩くのも覚束ないということがわかってしまう。

 同僚たちはそんな私を見てくすくすと小さな笑い声を上げている。


「まただ」


「頭中将はいつもこうだ」


 頭ではわかっている。毎日毎日、体調を崩して宮中を辞しているのだ。厄介者と思われているのは当たり前のことではないか。


「顔だけは良いのだがな」


「身分もよいが、これでは娘の夫にはなあ」


 老齢の貴族たちが私を見て囁いている。

 わかっているのだ。こんな私では結婚をすることすら難しいのだと。顔と家柄以外に取り柄がないのだと。

 清涼殿を出て、暫くすると小間使いの乙吉が私を迎えに来た。彼に誘われるまま、牛車に乗り込むと、途端に涙が溢れ落ちた。どうしてこのようなことになってしまったのだろう。どうして私は、満足に生きることもできないのだろう。これならば、深窓の姫君に生まれついた方がよっぽどよかった。


「何故、私は生きているのだろうな」


 御簾の外に流れる景色を横目に、私は小さく呟いた。



 私は、今をときめく右大臣家の長男として生まれた。父右大臣は帝の覚えもよく、名君と呼ばれた。母北の方はかつて宮中で花を咲かせた美姫と名高い玉緒の君。その間に生まれた私は、望まれて生まれた子だと信じていた。

 そう、信じていたのだ。

 私は、幼い頃より別邸で育てられた。乳母と共に、右大臣家の持ち家の一つで親とは離されて育てられた。とはいえ、父も母もよく会いに来てくれたものだから、捨てられたのだなととは考えたこともなかった。乳母に、「若様はお体が弱いから」などと言われ続け、ああそうなのかと疑いもせずに。

 元服して家に戻された私は、順調に出世を重ねた。頭中将に任命されてからは「流石右大臣家の跡取りだ」と褒め称えられたものだ。


 それがいまはどうだ。


 変わったのは、元服して二年ほどした頃だっただろうか。ある秋の日、私は宮中で倒れた。息をすることができず、喉に餅でも詰められたような心地になり、そのまま……。

 それ以来、私は外に出る度に謎の苦しみに悶えた。ある時は頭を掻き回されるような鈍痛、ある時は胃の中を全てひっくり返されるかのような不快感、またある時は首を絞められるような苦しみ。心配されたのは五度まで。それ以降は白い目で見られた。それもそうだ。仕事もろくにせず病だと言って宮中を出る。毎日、毎日。それでいて禄はもらう。憎まれても仕方がなかった。

 私が倒れる度に、父右大臣も蔑まれる。母北の方も憐れまれる。父も母も「気にせずともよい」と微笑んでくれるが、それが私には苦しみであった。悲しみであった。

 何故私なのだろうか。何故私がこのような呪いを背負わねばならぬのだろうか。

 私は、慟哭した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ