或る男、陰陽師に嫁ぐこと。1
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閲覧の際にはご注意ください。
・女性の男装、男性の女装(描写は軽め)
今日もまた、駄目だった。
私は、腹から込み上げるものをなんとか押さえ込みながら、宮中を出た。口を袖で隠し、なんとか貴族の体裁を保っている。体は左右に小さく揺れ、歩くのも覚束ないということがわかってしまう。
同僚たちはそんな私を見てくすくすと小さな笑い声を上げている。
「まただ」
「頭中将はいつもこうだ」
頭ではわかっている。毎日毎日、体調を崩して宮中を辞しているのだ。厄介者と思われているのは当たり前のことではないか。
「顔だけは良いのだがな」
「身分もよいが、これでは娘の夫にはなあ」
老齢の貴族たちが私を見て囁いている。
わかっているのだ。こんな私では結婚をすることすら難しいのだと。顔と家柄以外に取り柄がないのだと。
清涼殿を出て、暫くすると小間使いの乙吉が私を迎えに来た。彼に誘われるまま、牛車に乗り込むと、途端に涙が溢れ落ちた。どうしてこのようなことになってしまったのだろう。どうして私は、満足に生きることもできないのだろう。これならば、深窓の姫君に生まれついた方がよっぽどよかった。
「何故、私は生きているのだろうな」
御簾の外に流れる景色を横目に、私は小さく呟いた。
私は、今をときめく右大臣家の長男として生まれた。父右大臣は帝の覚えもよく、名君と呼ばれた。母北の方はかつて宮中で花を咲かせた美姫と名高い玉緒の君。その間に生まれた私は、望まれて生まれた子だと信じていた。
そう、信じていたのだ。
私は、幼い頃より別邸で育てられた。乳母と共に、右大臣家の持ち家の一つで親とは離されて育てられた。とはいえ、父も母もよく会いに来てくれたものだから、捨てられたのだなととは考えたこともなかった。乳母に、「若様はお体が弱いから」などと言われ続け、ああそうなのかと疑いもせずに。
元服して家に戻された私は、順調に出世を重ねた。頭中将に任命されてからは「流石右大臣家の跡取りだ」と褒め称えられたものだ。
それがいまはどうだ。
変わったのは、元服して二年ほどした頃だっただろうか。ある秋の日、私は宮中で倒れた。息をすることができず、喉に餅でも詰められたような心地になり、そのまま……。
それ以来、私は外に出る度に謎の苦しみに悶えた。ある時は頭を掻き回されるような鈍痛、ある時は胃の中を全てひっくり返されるかのような不快感、またある時は首を絞められるような苦しみ。心配されたのは五度まで。それ以降は白い目で見られた。それもそうだ。仕事もろくにせず病だと言って宮中を出る。毎日、毎日。それでいて禄はもらう。憎まれても仕方がなかった。
私が倒れる度に、父右大臣も蔑まれる。母北の方も憐れまれる。父も母も「気にせずともよい」と微笑んでくれるが、それが私には苦しみであった。悲しみであった。
何故私なのだろうか。何故私がこのような呪いを背負わねばならぬのだろうか。
私は、慟哭した。




