35.大銀のフランシス(2)
「・・・まずは、素直に話せ。その内容次第だ。レスリーがどこまで絡んでるのか知りたい。
そして、なぜ冒険者村なんかがあるのかもな。」
フランシスは、観念したかのように語りだす。
「私は、大銀のフランシスで間違いありません。
村は、私が獣退治を依頼されて以来頻繁に立ち寄る様になり、
仲間の冒険者を呼び集めて拠点にしていたのが始まりでした。
非常に居心地がよかった。
住む所も用意してもらえ、村の人達からも大切にされ、私達も村人を大切にした。」
フランシスは、その頃を思い出してるんだろう、うつむいたまま先を続ける。
「最初の頃は順調だった。
獲物も順調に狩れていたので、行商でかなりの利益も出ていた。
少しずつ仲間の冒険者も増えて行った。」
一度話を切り、先を続ける。
「その頃から、レスリーも行商の1人として獲物の買い取りや、
必要な装備や薬なんかを行商してくれた。
人当たりも良く、村人にも信用されていたので、俺達もいろいろと相談に乗って貰っていた。
その内、徐々に苦しくなってきた。
人数が増えるたび、家は必要になるし、食料も必要になった。
ケガをして狩りに行けなくなる者も出てくるようになったし、
天候が悪い日もあれば、獣が見つからない日もある。
そして、強さによっても偏りが出てくる。
狩りで稼げない者が、盗賊になっていくのも流れだったのかもしれない。
アイカから護衛として来た冒険者を仲間に引き入れる事で、
リスクの少ない盗賊を行為を行い始めた。
宿場の飲み屋で声をかけて積み荷の確認と裏切りの勧誘を行うんだ。
俺は、リーダーではあったが全員の面倒を見る気など無かったので、
誰が盗賊をやろうが知った事はないと放置していたのだが、討伐隊が出るようになり、
この村が見つかるのも時間の問題となって来てしまった。」
そこで、フランシスは歯を食いしばり、悔しそうに。
「そこで、選択を間違った・・・。
レスリーが貴族とのつながりがあるので、討伐隊が出ないように対応すると言い出したんだ。
ただ、討伐隊を止める為の報酬が必要との事になり、
その貴族様からの非合法な依頼を受けると言う約束を受け入れた。
討伐隊が出されるよりも、マシだと思ったんだ。」
俺はあきれたように、話に口をはさむ。
「そこでハメられたって事だな。レスリーの依頼も混ぜられ、良いように使われたって事か。」
「ああ。それだけでなく、村に来ていた商人達の排除し始めた。
今まで俺達を助けてくれていた商人達を、俺達に討伐するように命令したんだ。」
「なるほど、独占して利益を独り占めしたかったんだな。
それにほかの商人が来ないとなると・・・。」
「ああ。レスリーの権限は、どんどん上がって行った。
レスリーが居ないと村が存在出来ないほどに。」
「レスリー本人はあまり来なくなったのだが、
レスリー商会はかなり頻繁に村に出入りするようになっていった。
さらに、資金も苦しくなり、レスリーに借りるようになり完全に逆らえないようになった。」
「完全に掌握されたって事だな。リーダーとしては対策を打たなかったのか?」
「資金を止められると、それだけで餓死者が大量に出る。
それだけでなく、レスリーはさらに人口の増加を進めて行ったんだ。
商人が護衛で連れている冒険者や、その家族、知り合いまで、
アイカやウィダスから連れてくるようにと命じ、一気に人口は増加していった。
実際、冒険者村での生活は、アイカやウィダスでの生活よりもずいぶんましだった。」
「手ごまを増やした上に、人質を増やしたって感じか。」
「その通りだ。狩りにもノルマのような物が課せられ、
かなり無茶な狩りをしなくてはならなくなった。
盗賊行為も、指定の商人が通るたびに行われる。
街道の封鎖などの事はやってくれるので、盗賊行為の方が安全にでき、
盗賊を専属にする冒険者も増えた。」
「それでも、レスリーの支援だけでは人口分の生活は賄えなくなって、
いまやアイカの貧民街と変わらない。」
農村に貧民街がくっついたような見た目だったけど、あれは元々は違ったのか。
「村の中でも、レスリー派と反レスリー派で派閥が判れ争いも起こり始めていた。
俺も、レスリーがいないと生活出来ないのは判っているのだが、どうにも納得できない。
約束だから依頼はこなすがレスリーの村じゃない。」
なるほどね。
いろいろ手を打てる事は出来たはずなのに、後手後手に回ってレスリーに乗っ取られたのか。
大銀といっても冒険者。商人の手管には勝てなかったという事か。
そんなに頭が良いタイプでもなさそうだしね。
「なるほどな。で、今後どうするつもりだ?
これから、アイカから冒険者村に対して騎士団か冒険者の討伐隊が出るだろう。」
「!!」
「俺は、今回の冒険者村を見逃そうとは思ってない。
このまま盗賊村を放置する気なんかは無いからな。
規模、人員、経緯も含めて、アイカの冒険者ギルドには報告するつもりだ。」
「そ、それは・・。」
「お前が考えないといけないのは、討伐隊が出るというこの状況の中で、
どれだけの村人を救う事が出来るのかだろう。
ここまで事件が発覚しておいて、いままで通りなんてありえない結果だからな。」
俺は、さらに追い詰めて行く。
「討伐隊は出る。村は全滅する。それは決定だ。その上でお前はなにをする?」
「・・・俺は、村人を安全な場所に逃がす。」
「どこに?それって本物の盗賊団になってそのあたりをさ迷うって事か?」
「他にどうすれば・・。」
はぁ。これは脳筋の冒険者だからなんだろうか。
「細かい事情は知らないので、出来るかどうかは判らないのだが。」
そう前置きして、
「まず、村のみんなに大規模な討伐が来る事を話し、
村人の中でアイカやウィダスに戻れる奴は全員戻せ。
面倒見ないといけない人数を減らすんだ。
そうすれば、最悪の状況になっても少しでも犠牲を減らせるからな。」
さらに続ける。
「町に帰れない奴も多いだろう。そいつらは連れて移動するしかないな。
俺的には、投降してくれるのが一番面倒無くていいのだが、そうするとほぼ全員死刑だろうからな。
北に開拓村があるのは知ってるな、そこに移動するのはどうだ?
生活は、今よりもさらに厳しい物になるかもしれないが、追われる事も無く生活も出来る。」
「!!・・・開拓村・・・なるほど。開拓村なら犯罪者でも受け入れてくれるのかもしれないな。」




