10.東の盗賊調査 依頼(3)
「出発はいつの予定ですか?」
「明日の朝に出発だな。」
「了解です。じゃあ、今日のうちに偵察は行っておきますね。」
「今から行くのか?」
「いえ。1回家に帰ってから行ってきます。偵察だけ行ったら戻って来るんで・・・。
明日の朝には、盗賊の場所と人数くらいは連携出来ると思います。」
「おいおい。かなり距離あるはずだぞ。
行くのに1日半くらいの工程になるはずだ。」
「あら・・・結構遠いんですね。もっと近所の話だと思ってました。
じゃあ、俺は先行しておくので、途中合流になりますね。
街道を進んで行く予定なんでしょ?」
「ああ、そうだな。基本は街道沿いに進んで行く予定だ。
明日出発して、夜は最初の宿場で泊ってから進む。」
「了解です。どこで会えるか分かりませんが、場所と人数だけ報告したら、
俺はそのあとは同行しませんけどそれでいいです?」
「十分な情報があれば、偵察は終わりでいいが・・・。」
「じゃあ、いってきます。」
「ああ。」
あんまり時間を掛けたくないのもあるし、行軍とか一緒に歩いていくのはつらいからな。
それに、俺の姿を見られるのも嫌だからな。
サクッと行って、サーチだけして戻って来るだけのお仕事だし。
それにしても、2人で討伐とかとんでもない事言いだすおっさんだな。
・・・確かに出来なくないけど。
俺はさっそく家に帰り、みんなに話をする。
「という事で、今から少し出てくるよ。多分遅くなると思うんでみんな先に寝ててね。」
「危なくないの?」
「偵察だけだからね。」
「ハルト様。」
リルが遠慮がちに声を上げる。
「どうしたの?」
「こんな状況ですので、もう生きていないかも知れませんが・・・。
あの盗賊団には、多くの女が囚われていました。」
「なるほど。」
「盗賊にそれぞれ、女を当てがって裏切らないようにしているのです。」
「それは、どこかから攫って来たりしている女って事?それとも女の方も望んで?」
「望んでいる者など一人もいません。全員攫われてきて、殴られ言う事を聞かされています。」
「なるほど・・・。助けるとは言い切れないけど、覚えておくよ。
俺が手を出せなくても、ブラントさんにはお願いしておくようにする。」
「はい。」
一人ずつに女を当てがってるって、酷いな・・・。
食うに困って、盗賊をしている訳では無いという事だ。
食うに困るなら、人を攫うなんてせずに、食い物だけ奪って終わりだ。
抵抗するなら殺すけど、それ以外は生かして逃がさないと、すぐに討伐隊が組織される。
って、そういう状況か・・・。
頭悪そうだな・・・。
女攫ったら、さらに食費もかかるだろうに・・・。
「あいつらには、罰が下る必要があります。
でも、それをハルト様がしないといけないのは、違う気がしますが・・・。」
「まあ、俺にも打算があるんで・・・。
今回冒険者ギルドを助ける事で、露店開業の為に少し助力をお願いしようと思ってるんだ。
なので、これはこれでいいかなって思ってる。」
「ハルト様がそうおっしゃるのでしたら・・・。」
マディにも思う所はあるはずだけど、あれ以来それがらみの話は一切なかったので、
ちょっと心配してたけど、一応、マディの復讐は終わってるって考えてもいいのかな。
「これが終わったら、リルやジャック、ミーアは町に行っても安全かもしれない。」
「浮浪児に、安全はないだろ。」
「・・・そうだね。」
「でも、町に行けるようになっても、この家が快適過ぎて・・・行く気にならないのですが。」
「気に入ってくれてよかったよ。」
「外に出ても安全だし、果実の木も畑もあって、食べ物も美味しくって、
ベッドに個室まで・・・。
こんな贅沢な暮らしに慣れてしまうと、もう戻れなくなってしまうかもしれません。」
リルは、素直だな。まあそう言ってもらえるとうれしいんだけど。
「そだよね~。地下も楽しかったけど、ここはもっと楽しいよね。」
「ああ。外に出れるのはいいなぁ~。」
「地下よりずっといい!解体も臭くなくなったし!」
それぞれ、この家を気に入ってくれているようだ。
「俺は今から行って来るね。朝までには1回帰って来るつもりだけど、状況によっては、
明日の昼前くらいまで出てる可能性もあるので、明日の分の解体も置いて置くね。」
俺は、解体済みの物を回収し、解体する獲物をいくつか置いて置く。
あと熟成した肉の交換もして町に取って返す。
「じゃあ、行ってきます~。」
「いってらっしゃ~い。」
町に行ったら、南門に向かう。
南門から出るのは、ロベルトさん狙いだ。
ロベルトさん以外では、ギルド証にはランクも乗ってるので、そうそう出せないんだよね。
日帰り出来るなら、名前だけで出てもいいんだけど、
今回は戻って来るのが遅くなりそうだから、ギルド証で出る必要がある。
俺は、南門から出て、東門側に回り込み、東の街道を北に歩いて進んで行く。
東門より北側に行くのは始めてだ。
このあたりは人目もあるので、あまり派手な事は出来ない。
遠くに山が見えるが、街道は山に到達する前に東に折れているとの話だ。
冒険者ギルドで、地図は見て来たので、大体の行程とどの辺りで襲われたのかは、
把握している。
北へしばらく進んで行くと、人の気配はほぼ無くなる。
今は、こちら側への行商も無いとの事だったので、街道を通る人はほぼ居ないはずだ。
それでも、農村から商品が売らないといけないので、盗賊に見つからない事を祈りながら、
荷物を運ぶ人はいるらしいが・・・。
俺は、街道を外れ、平地の雑草に紛れて、追い風の魔法で進んで行く。
東の森が途切れ、北側に平地が広がり街道は東に折れる。
俺は東に折れずに、そのまま平地を突き進む。
雑草に紛れながら東に向かって行くと、街道の1つ目の宿場を見つける。
この宿場から、次の宿場までの間に盗賊に襲われるらしい。
歩いて来るとこの宿場までが1日の行程になるそうだ。
街道は、大体歩きで1日くらいの間隔で宿場などの泊まれる町が設定されており、
商人なんかは、ある程度お金を持っているので、野宿なんかはする事がないそうだ。
まあ、もちろん貧乏な商人もいて、そういう人は野宿するそうだが・・・。
そういう人用に、宿場にも野宿出来る場所が用意されている。
今は、もう夕方なので、この宿場に暮らしている人達が家路につく人達が見て取れる。
俺は、この村に用がある訳でもないので、大きめに迂回して村人から見つからないように進む。
そうすると、どうしても森などの獣のいる所を通る事になるので、
通りすがりに狩りもしちゃってる。
通り道のだけにしてるけど、南の森よりもずいぶん獣が多い。
冒険者もそんなにこっちまで狩りに来る事ないから放置されてるんだな。
王国の騎士団が、ある程度の周期的に狩りに来るそうだが、多くの森を順番に回ってるので、
数年に1度の割合くらいでしか順番は回ってこないという話だ。
宿場を抜け、目的の場所にたどり着いた。
後は、このあたりで宿場以外に住んでいる、20人程度の集団を見つければいい。
街道から見えないように街道沿いを走っていく。
まずは、街道の北側を調べてから、居なかったら南側を回ってみよう。
街道の北側は、平原で南側は森が広がってるので、可能性としては北側の方が高いだろう。




