9.東の盗賊調査 依頼(2)
さすがご明察です。殺したのは俺じゃないけどね。
それに、それを認めたりはしないけどね。
「襲われてウサギを取られたのは事実ですが・・・後は知らない話ですね。」
「確かに、殺した跡を見ると、複数人で殺害に及んでいる。
なので実際に殺害したのは、お前では無いとは思っている。
だが、お前が関係していないとは思えない。」
ギルドマスターは続けて、
「この事件に関係していると思われる人間が、5人か6人ほど消えている。
2人の子供の内、死んだ片方の死体が1人。
直前にこいつらが、攫った子供が1人。
パン屋の嫁だった、マディと言う女性が1人。
そして、このマディの両親。
この現場に居たかは分からないが、こいつらが外から1人女を連れて来たと言う話もある。
俺の予想で、根拠は無いのだが・・・。
お前が匿ってるか、どこかに逃がしたんじゃないのか?」
この世界での捜査を舐めていたな。
ほぼ正解を導き出している。
俺が死んだ事になっている以外は・・・。
もちろん証拠などは無く、予想と推論なんだろうけど。
いや・・・この世界の捜査と言うよりも、このギルドマスターが優れているのか。
「もう一度言っておく。
俺はお前の意思に反して動くつもりはないし、ここまでは俺が、個人的に考えた調査結果で、
上への報告では、大量殺人はグループの内部抗争だろうと報告している。
実際に、証拠は無いし、俺しか知らない情報でしかこの予想にはたどりつけないだろう。」
大分警戒しているようだな・・・。
俺がここで口封じに動く可能性を、怖がってるんだな。
これだけ考える人は、逆に殺された場合の対策はしてそうだな。
まあ、結局状況証拠だけで目撃者がいる訳でもないし・・・。
それに、冒険者ギルドで大銀ランクになった時点で、今更感もあるしな。
ただ気になるのは、こういう人がこんな勝負をかけてでも、
俺の力が必要としている意味だ。
「ふぅ。まあ・・・なんというか、俺は知らない話です。
ですが、ギルドマスターがなにを根拠にしているかは分かりましたし、
俺に悪意が無い事も分かりました。
で、俺に何をさせようと思ってるんでしょうか?」
ここまで話をして、ただの盗賊の偵察って・・・訳では無いだろう。
俺が話を聞く姿勢になった事で、ギルドマスターの緊張が少しマシになったようだ。
「確証がある訳ではないのだが、今回の盗賊達は、先日の大量殺人された、
冒険者グループのメンバーである可能性が高い。
あのグループは、全滅した訳ではなく、まだ半数以上は残っている。
そいつらは、そろって事件の日に町の外に出て、戻って来ていない。
これを根拠に、王国には内部抗争と言う報告をしている。
それに、その盗賊の中に先日のグループのメンバーが居たとの報告もある。
その日、東門から出たそのグループの人数は18人だ。
後から合流した奴かいれば、もう少し人数は増えてるかもしれん。
他の盗賊と合流する事もあるので、人数が多くなっている可能性もあり、油断は出来ない。」
はあ。という事は・・・。
俺を襲った時のリーダーが、翌朝どこかの建物に居たのを見つけてたので、
あの時に、俺が治安維持しておけば、この依頼には巻き込まれなかったって事だよね。
これは、もう受けるしかないんだろうな・・・。
余計な事はしたくないが・・・これは仕方ないか・・・。
まあ目標の盗賊を見つけて、ブラントさんに報告したら終わりのお仕事だしな。
多分、移動してサーチして、見つけたら終わりのはず。
「一つ気になったので教えてください。
大銅ランクと、銅ランクでそんなに戦力差あります?
冒険者って事は、獣相手が多いだろうから、複数で1匹を狩る戦い方してるだろうから、
盗賊退治は危なくないです?」
「銅ランクと大銅ランクはかなり違う。
銅ランクと言うのは、びびって戦いなどできないような奴が多い。
武器を持ってない奴らも多いし、町の手伝いなどの依頼しかやらない奴も多いからな。
大銅ランクでは、戦わなければ死ぬと言う事を知っている奴だ。
武器はほぼ全員が持っている。
冒険者として、町の外に出て狩りや採取を行う事を生業とした、職業冒険者という事だ。
対人経験の無い奴もいるが、護衛の仕事で対人をしている奴もいるし、
今、訓練場でブラントが、今回出るやつに訓練を付けているので、大丈夫だろう。」
「もっと人数増やして、2~3倍の人数とかでやったら、数で押せそうじゃないですか?」
「予算の問題がな・・・。それにこれくらいの危険は、冒険者なら当然だ。
魔獣狩りの場合、20人で出かけて帰って来るのは半分くらいだったりする。
運がいいやつは生き残り、運が悪いと死ぬ。」
この世界はやっぱり命の扱いが軽過ぎる。
「分かりました・・・やります。出発はいつです?」
「人数が決まれば、すぐにでも出たいと思ってるんで、明日か明後日だろう。」
「俺は偵察なので、先行してもいいんですよね?」
「ん?まあそうだな。だが1人で先行するのは危険だぞ。」
「まあ、偵察だけサクッと終わらせて、戻ってきますよ。
俺からの依頼は、今回の件を終わらせてから相談させてください。
別に急ぎではないんで。」
「分かった。今回は指名依頼なので、依頼の報酬は・・・。」
俺は被せるように、
「報酬については、俺の依頼の話してからにしましょう。
きっと相殺できる部分がありますから。」
「そうか。分かった。では、戻って来てから話をしよう。」
露店のギルド前の場所代の免除とか、ギルド公認指定とか、
露店の護衛とかいろいろ押し付けよう。
俺を使うと高く付く事を覚えて貰ういい機会だしね。
そんな気は無さそうだけど、子供だから、使いやすいなんて思われると、
今後の面倒が増えそうだ。
でも、やっぱりここまで危険を冒して俺を使う理由は気になる所だが、
素直には話してくれなさそうだな。
「じゃあ、ブラントさんにちょっと挨拶してきます。」
「ああ。ブラントなら訓練場にいるはずだ。」
「了解です。」
俺は、冒険者ギルドの訓練所に向かう。
数人の冒険者に、対人訓練を行ってるブラントさんを発見して声をかける。
「こんにちは。」
「おお!ハルトじゃないか。」
「はい。少し話大丈夫ですか?」
「ああ・・・。お前ら続きは、各自で対戦して勝ったった方だけ休憩だ。
負けた奴は最後まで休憩なしだ!」
がんばってるなぁ~。まあ、命がけだしな。
「じゃあ、そっちの休憩室に行こうか。」
「はい。」
休憩室に入ると、人払いされ2人っきりになる。
「どうした?」
「俺も行く事になりました。」
「ほんとか!東の盗賊退治か?」
「はい。それです。」
「おお!じゃあ、俺と2人でも行けるな。」
「いやいや・・・俺、偵察だけなんで・・・。」
「ええぇ!お前と2人なら20名程の盗賊ならいけるだろ!」
「いや・・・俺、対人とか苦手だから。」
「俺に勝った奴がそれをいうな!」
「あ・・・そでしたね。まあ、でも今回は偵察との依頼ですしね。」
「・・・まあそうだな。無茶してケガしても仕方ねえし、人数も確定じゃないからな。」




