マディ視点
私は、この町の貧民街で生まれ、貧民街で育った。
お父さんは、パン屋さんをやってる。
お母さんも一緒にパンを焼いたり、パンを売ったりしている。
私が7歳になった時に、どこかの見習いにって話は合ったんだけど、
お父さんのパン屋さんをやりたいって言って、
お父さんのパン屋の見習いとして、お父さんの手伝いをする事にしたの。
15歳の成人になる頃には、私がパンを焼いてお父さんが材料を仕入れたり、
売りに出たりして、お母さんはいろんな所を回って売るという役割になっていた。
私は、パンを焼くのも料理を作るのも大好きで、
少し工夫をするだけで味が変わるのが楽しくって、いろいろパンにも工夫を重ねていた。
パンの生地は作ってからすぐに焼いたらあまり膨らまないから固くなっちゃうの。
それに焼きすぎてもダメ。
火力が強すぎると、焦げちゃうし、弱すぎると焼き上がりが遅くなって固くなる。
旅に持って行くパンは、日持ちするのであえて固めに焼く。
お父さんやお母さんが売り歩くやつは、出来るだけ柔らかめの奴と、
固めの日持ちする奴の2種類焼く。
お客さんによって売り分けるんだそうだ。
なので、パンの模様を変えて焼くようにしてる。
模様見るだけで、硬いパンか、柔らかいパンかが分かるようにしてるの。
私が発見したのは、最初粉を混ぜてから水を入れて、すぐに地下倉庫に入れて寝かせてたの。
でも、それよりも1回そのままでしばらく置いてから、地下倉庫に入れた方が、
膨らんで柔らかいパンになるの。
さらに、1日置いた後の生地で形を作ってからも、しばらく置いてから焼くといいみたい。
お父さんが作るよりも、時間はかかるんだけど、柔らかくなるのでおいしいって言ってくれる。
私は、このままパン屋さんとして働いていくと思ってた。
18になった時には、お父さんも私の結婚相手を探してくれていた。
パン窯作り職人の修業をしていた人がいて、
その人が私の事を気に入ってくれたって言ってた。
パン窯は貧民の家にはそんなに作ったりしないので、
そんなにお金の儲かる商売じゃないけど、結婚したら、
その家にパン窯を作ってくれるって事だったので、私はパン作りを続けられるので、
結婚を了承した。
結婚してしばらくは、優しくしてもらえたわ。
でも、パン窯職人として独り立ちしても、誰からも依頼は来ない生活になって、
生活に困る様になった。
お父さんとお母さんに頼んで、食事とかは貰えてたんだけど、このままではダメだと、
私が作ったパンを売る事にしたわ。
私がパンを作って、夫が売る。
そういう生活をしてたんだけど、夫は元々お客さん相手なんて向いてなかったんでしょうね。
どんどん、荒れて行ったわ。
言葉も乱暴になって、私にも暴力を振るうようになった。
毎日、パンを売りに行ってるんだけど、売れない日も多かった。
そして私も、お父さんとお母さんにお願いして食事を分けて貰う生活。
どんどん、生活も荒んでいき、パンを作る為のライ麦さえ買えなくなってきた頃、
夫が思わぬお金を持ってきたの。銀貨1枚も持って帰って来たのよ。
何か悪い事をしたんじゃないかと思ったんだけど、
また暴力を振るわれると思うと聞けなかった。
拾ったウサギを売ったって言ってたけど、外にも出ないでウサギなんて拾えるわけないのに。
それでも、ライ麦が買えるし、しばらく生活出来るお金が手に入ったのはすごくうれしかった。
そして・・・その夜が来たの。
目が覚めたら、何もなかった。
何もよ!
いままで寝ていたはずのベッドも、私の服が入ったチェストも、食器が入ってた棚も、
昨日仕込んでおいたはずの、パン生地も、売れ残りのパンも!
ほんとに何も無くなってたの!
夫に内緒だと、お母さんに渡されて、隠していたはずの生活費までも・・・。
なにがあったのか判らなかった。
でも、夫が浮浪児のガキがやりやがった!って叫んでたんで、
きっとこの男が原因でなにかの恨みを買って、その仕返しされたのだけは理解出来た。
夫は、私の両親の家に行って着るものだけ取って来てくれ、
2人で両親の家にしばらく住まわせてもらう事になったわ。
でも、夫は私の親にも八つ当たりして殴ったの、
そして、お父さんに殴り返され、出て行ったわ。
これで、元の生活に戻れると安心したのだけど、夫は戻って来た。
友人と言う、冒険者を連れて・・・。
そこからは、思い出したくもないむごい事がいっぱい起こった。
盗賊に襲われた、友達の話を聞いた事があったけど、まさにそんな状態だった。
そして、そのままその生活が続くのかも知れない。
そう思い始めてた時に、その盗賊達が次々にやられて行くのを見たの。
きっと私をここから、助けてくれる人がいたんだ・・・。
こんなどん底の状態から救ってくれる英雄の人がいるんだ。
昔、お母さんに教えて貰った、英雄に助けられる姫様の話を聞いた事があったけど、
私にもそんなのがあるんだ・・・。
だから、正直に話したの。
全部・・・。
驚いた事、悔しかった事、殺したいほど憎んだ事、泣きたかったけど、口ごもりたかったけど、
英雄に隠し事しちゃダメ。
全部話すの。
そして、「どうする?」って聞かれた時に、解放なんて望んでないの!
私を助けた英雄と一緒に居たいって思った。
でも、子供だった・・・。私の英雄様は子供だったのよ。
それでも、私を助けてくれる・・・。
私の英雄様は、魔法使い様だった。
そして、私のお父さんとお母さんのお墓を作って、最後のお別れもさせてくれた。
いっぱい泣いて、そしていっぱいお別れしたの。
そして、お父さんとお母さんに言われたの。
「この英雄様に一生ついていきなさい」って。
もう、あんな生活はいやだ・・・。お父さんとお母さんと一緒に暮らしてた頃に戻りたい。
でも、お父さんんもお母さんももういない。
私を守ってくれる英雄を手放したら、もう私は生きていけない。
私は、これからの一生をこの方に捧げて生きて行きます。




