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無限の魔法使い  作者: 志野 勇希
2.転生
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2.浮浪児


状況の確認よりも、記憶の整理からの方が良さそうだな。


名前はハルト。5歳だ。

前はお母さんとこの町で暮らしていた。

お母さんが死んで、孤児院に入れられた。

孤児院で友達はできたけど、1年も経たない内にベッドの割り当てから外されて追い出された。

追い出されてすぐは他の子と一緒に路地暮らしをしてたけど、1人で路地暮らしする事にした。

たまたま孤児院でも知り合いだったアリスに会って、今は2人で一緒にこの路地で暮らしていた。

食事は食堂のごみ箱を漁って食べるか、たまにやっている孤児院の炊き出しを貰っている。


2日程前から体調を崩して、今朝方に‥‥多分死んだんだと思う。

いつも寄り添って寝てたアリスがここに居ないと言う事は、アリスは俺が震えてるのを見てさっきの麻布を調達した後、食事を探してくれてるんじゃないかと思う。


服は、植物を編んだ四角い布地の真中に穴を開け、そこに頭を突っ込んだだけの服だ。

一応、腰を紐でくくっているが、丈が短くてお尻が出てる感じだ。

さらに下着も履いてないので、丸だしな感じだ。

‥‥うん‥‥男の子だ。


この服は、孤児院に入った時に支給された物なので、それから大きくなった俺には丈も足りてない。

トイレはそのままその辺りにしているし、汚れた時にだけ水を浴びたりしている。

なので、トイレ臭いのは俺自身だった。


この町では、同じような子は非常に多い。

理由はさまざまだが、多くの場合には両親が死んだと言うのが一番多いようだ。

それだけでなく、育児放棄、暴力から逃げ出して、そんな子供を孤児院では育てている。

ただ、その孤児院も定員があるので大きい子から順に追い出している為、路地に子供達が多く住み着く事になる。


貧民街と言うのもあるのだが、そこで孤児は暮らせない。

「弱い者は、さらに弱い物を叩く」と有名な歌でもある様に、貧民達は孤児に対して暴力的だ。

もちろん全員がそうと言う訳ではないが、実際に貧民着の炊き出しに行った子供がボコボコにされて帰って来たのを知っているので近付かない。

孤児院の炊き出しなら、パンを奪われる事があっても、スープは食べる事ができるし、殴られる事も少ない。


大通りなどの人通りの多い所でも浮浪児が居ると衛兵に路地に投げ入れられたりする。

これは俺が経験済みだ。孤児院から追い出されてすぐの頃に、大通りを歩いていたら衛兵に殴られて路地に捨てられた。


「ひどい生活だな‥‥。」

子供が虐げられるなんて、日本での生活では考えらえないような場所にいるようだ。

ハルトの認識では、これが普通の生活だ。いやでいやで仕方がなかった。抜け出す方法なんてなにもないと思ってた。

でも今の俺になら抜け出す事は可能だろう。ハルトの願いを叶える為にも、考えないとだな。


次は、状況の整理だ。

ハルトの記憶から、どうしても確かめないといけない事がある。

俺は未だ寒さで震える体を動かして、路地を進み大通りが見える所まで壁に手を付きながら進んで行く。

路地から大通りを覗いてみると‥‥ほんとうに居たのか。


天気の良い早朝の大通りには、荷物を乗せた荷車を引いている人や、何人かの人を引き連れたお金持ちそうな人、剣を背負い槍を持って革製の防具を付けている人、明らかに日本ではないと言うか、現代でもないだろうという景色だ。


そして‥‥獣の頭をした人だろう。『獣人』と呼ばれている、人と獣が混ざった人だ。

獣と一言で言っても、いろんな種類がいる。

今俺の前を歩いているのは、牛の頭を持った獣人だ。

ハルトの記憶では、別段獣人が珍しいわけではない。

今通っている人は首までが獣だが、人によっては頭だけの人や腕まで毛がびっしり生えている人もいる。

ただすべての獣人は、商人のような人に付きしたがって、同じ首輪を付けられている。

荷物が載った荷車を引いたりさせられているので、使用人もしくは、奴隷のような扱いなのかもしれない。


過去の海外とかじゃないようだ。完全にファンタジーっぽい。ゲームなんかの世界観のようだ。

これは地球じゃなさそうだな。獣人は決定的だろ‥‥。

ハルトの記憶のおかげか、抵抗もなくすんなり理解できた。


時代は、中世‥‥よりももっと前の時代じゃないかな。

俺のイメージでは中世と言えば、鉄の甲冑を着た騎士とかだけどそういう人は目につかない。

ただ歩いてる人が持っていた、槍の穂先は鉄っぽいので、鉄がないわけではなさそうだ。


俺の居る側はやっぱり倉庫街のようで、背の高い同じような建物が並んでいるが、大通りを挟んで向こう側には、住宅が並んでいるようだ。

倉庫は、石を泥で固めたものの上に木の板で背の高い建物になっている。

屋根はかやぶき屋根になっている。

住宅の壁も屋根も石作りなようだ。


大通りと言っても、地面は土だしわだちででこぼこしているし、雑草もあちこちに生えている。

人通りは結構あり、路地から見えるだけでも十数人はいるようだ。


状況は何となく分かった。

‥‥いや、あまり理解は追い付いてないがこれからどうするか決めて行こう。


ハルトは、死んだ。

いや、俺の記憶が混ざって生きていると言う事か。

この寒さは、ハルトが死んだから体温が下がったと言う事なんだろうな。

ハルトが死んだ原因は分からないけど、凍死と言うほど気温は低くない。

栄養不足による、脳や内臓の機能低下とかなのかもしれない。

動けないほどしんどかったけど、どこかが痛いとかって感覚はなかった。

栄養不足なのは、体を見ても明らかだ。

俺の意識あっても、このままでは同じ原因で死んでしまうかもしれない。


食料の確保が最優先だ。

衣服を探ってみても、お金も食料も何もない。身に着けてる服だけだ。

靴さえ履いてない。

食料のありそうなごみ箱は分かっているが、できればごみ漁りはしたくない。

あと‥‥この臭いを何とかしないと。本当に臭すぎる。

まずは水場に行って、水飲んで体を少し洗ってから食事を手に入れる方法を考えてみようか。


俺は、ハルトの記憶にある水場に向かう事にする。

今来た道の逆になるので、大通りに背を向けて路地の奥に入って行く。

体はまだ寒いが震える程でもなくなってきた。でも、この子供の体に慣れてないのか歩くのが難しい。

仕方ないので、手を壁につきながらゆっくり路地を奥に入って行く。


これは元の体に戻れるとか、日本に戻れるとかの希望は抱かない方が良さそうだな。

まあ元の世界にそれほど未練があるわけでもない。

親や兄弟にはここ数年連絡さえ取ってなかったし、独身だし、彼女が居た訳でもないし。


仕事は‥‥まあ俺が失踪したってわかれば誰か引き継いでやってくれるだろう。

資料は常に残すようにしていたので何とかなるはず。

あとは、家賃がもったいないとか、貯金してたお金がムダになってしまうとかか。

あ~!バイクが河原に置きっぱなしだ!


もしも戻れる可能性があるとすれば、リーゼを見つける事かな。

リーゼも別の世界のなんちゃらって言ってたから、この世界の住人なのかもしれない。

なので、探せば見つかる可能性は0ではないの‥‥かもしれない。

可能性は低いので、優先度も低いな。


そんな事を考えながら進んで行くと水場に到着した。

「うん。誰もいなさそうだ。」


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