18.冒険者ギルド登録(6)
「では。はじめ!」
一旦間をおいて、相手を観察する。
まさに、ボディービルダーのような筋肉をした、40代くらいの明らかに熟練冒険者。
顔は怒っているが、俺の様子を冷静に見ている。
舐めてくれてなさそうだな。
さて・・・。最初の奇襲でやってしまわないと危ない。
こんな戦い想定してなかったんだけどな・・・。
仕方ない・・・もしかしたらバレるかもだけど、やってやれない事はないだろう。
魔法で俺の真後ろに風を集める。
出来るだけ背中の広範囲に風が当たる様にして、俺自身への衝撃を減らす。
そして、一気に解放し弓矢のような速度で、相手の足元に肉薄する。
相手の左手側足元の低い位置をすれ違い、近づいた瞬間にナイフを振るう。
当たらないけど関係ない。何かをやった風に見えればOK。
すれ違うと同時に酸欠をかける。
酸欠をやっても、瞬間に倒れる訳ではないので少し粘らないといけない。
すれ違ったので、相手も俺も互いに背中を向け合ってる状態だ。
俺は、風で方向転換させて、素早く振り向く。
相手はまだ、すれ違った左手側から振り向こうとしているので、
俺は風を集め、同じように相手の右手側に向かって、一気に加速する。
そしてまたすれ違いざまにナイフを振るう。
足元に当たり軽く音がなる。
まだ、酸欠が効いてこない。
さらに、相手の背中を取り続けるように、高速で相手とすれ違いながら、
ナイフで切りつける。
やっと、酸欠が効いたのか、上体がぐらりと傾く。
相手が倒れる前に、素早く近づき、振り上げたナイフを当てないように喉元に振り下ろす。
ここのタイミングで気絶したように見える・・・と思う。
ここまで10秒ほどの時間だ。
「ブラント!おい!大丈夫か!」
ギルドマスターとお付きの人が駆け寄ってくる。
「気絶してるだけです。大丈夫ですよ。」
そういって、ナイフを離しブラントから少し離れる。
「なんだ今の動きは・・・。人間の早さじゃなかったぞ。
なんであいつが崩れたのか、分からなかった・・・。
ナイフを振ってるだけに見えたが・・・なにをしたんだ。」
「いろいろ秘密なんです。」
「無事です!」
お付きの人が、ブラントの状態を確認していたようだ。
「ふぅ・・・。まさか、本当に倒せるとはな・・・。
確かに、あの動きならグリズリーベアも倒せるのかもな。
判った・・・大銀として認めよう・・・。
大銀のブラントを倒せるのなら、誰も文句は無いだろう。」
あ、あの人、大銀だったのね・・・。
恨まれたりしたらやだな・・・。奇襲だったし・・・。
「ギルド証を用意させるから、部屋にもどろうか。」
「はい。」
ギルドマスターに付いて行って、執務室に戻ると、
さっきハーリさんの所に行ってた人が戻って来た。
「ハーリに確認取れました。
ウサギ1匹とシカの解体を教えたのと、皮屋にヘビの皮2枚売ってるのを見たって事でした。」
「少しヘビの皮が話よりも少ないが。」
「直接1人で行って売ったんで。」
「そういう事か・・・。いや、さっきの実力で、疑う意味は無くなったからな。
今後はぜひうちにも納品してほしい。」
「判りました。専属で違反しない程度には売りに来ますね。」
「ギルド証を作るので、質問に答えてくれ。」
「ギルド証作成前に、1つお願いがあります。」
「・・・内密にって事か?・・・なら判ってる。だが完全に内密にはならんぞ。
王国への報告は必要だし、ギルド内でも、数人は見て知ってるからな。」
「可能な限りでいいです。」
「じゃあ、質問していくぞ。名前は?」
「ハルト。」
ギルドマスターは、木板に記入していく。
「年齢は?」
「5歳。」
「・・・。」
固まった・・・まあ、そうだろうね。
「・・・うそではないんだな?」
「はい。」
「わかった・・・。」
「出身の町は?」
「孤児なので正確ではないかもですが、きっとこの町です。」
「孤児なのか・・・。じゃあ、本当に浮浪児だったんだな。」
「はい。いまは狩りでそれなりに稼いで、家もありますが。」
「家の場所は?」
「西区域の職人街はずれの倉庫です。」
「倉庫に住んでるのか?」
「解体が出来る倉庫を借りて、ねぐらにしています。」
「なるほど。」
「専属があるって言っていたが内容は?」
「皮屋とは口頭だけですが、皮を手に入れたら売る約束をしています。
ケニー商会とは、黒マダラヘビの頭を手に入れたら、売る契約を結んでいます。」
「判った・・・。これでギルド証を作るんで、ちょっと待っててくれ。」
「了解です。あれ?専属ってギルドに報告必要です?
これからもあるかもなんですが・・・。」
「いや、必要ない。聞いただけだ。」
流れに乗せられて、やられた感はあるけど・・・。まあ、さっきほとんど話してたしいいか。
ギルドマスターは、お付きの人を呼んで、木板を渡し、
ギルド証の発行を行うように指示する。
あと、大銀の一揃いの準備も指示した。
「ところで子供がどうやって、西区画に倉庫なんて借りれたんだ?」
「ケニー商会の持ち物の倉庫を、貸して貰ってるんです。」
「なるほど。・・・そっちもがっちりつかんでるって事か。
いままで狩って売ってない素材とかってないのか?」
う~ん。すぐに出せそうなものはないなぁ~。
「そういえば、森の中で遺体を見つけて、装備品とか拾ったのがあるんですが、
これって売る所あったりしますか?」
「そういうのもギルドで買い取ってる。
中古品として、安く売ってやる事で、冒険者の生存率も上がるからな。」
「じゃあ、また持ってきますね。」
「ああ。頼む」
これで、無駄にある装備品も片付きそうだ。




