1.転生と現状確認
寒い。
ガタガタと震え、体をちじこませて小さくなる。
歯がガチガチなり、抑えられない。
手も足も自分の意思と関係なく、小刻みに震える。
自分を抱きしめて、腕で肩をこすって少しでも体を温める。
それでも寒さは収まらず、さらに頭もガンガンと痛い。
やばい、死ぬ‥‥。
直観的にそう感じでさらに体を動かす。
肩や腕をさすり少しでも体温を上げるように動かす。
薄っすらと目を開けると何だか道端‥‥。
それも薄暗い路地裏みたいなところに倒れているようだ。
なんでこんなところに‥‥。
寒くてガタガタ震えてるのに、頭は少し冷静になってきた。
何があったのか思い出してみる‥‥。
「体、貸して」とか言う訳の分からない話から始まったんだよな‥‥。
そして魔法使えるようになって、体を貸して。
意識はあったはずなのに、突然暗転したんだよな。
で、起きたらこんな事になっている。
リーザになにかされたって事かな?
でもまずはとにかく寒い、なんとかしないと本当に死んでしまいそうだ。
ん?誰かが、頭からすっぽり毛布のような物をかけてくれた。
寒くて震えてるのを見て、かけてくれたのかな。
誰かいるのか?
毛布のせいで視界はふさがれたけど、少しは寒いのマシになるかも。
俺は毛布を引き寄せくるまって、ガタガタ震え続ける。
あれだよな‥‥。リーザに騙されたって事なのか?
体貸して、返して貰ったら死にそうなくらい寒い状況でどこかに放置されたって事か。
体乗っ取られて持ち逃げされたとかじゃないから、まだ良心的なのか?
いや意識なかったから持ち逃げされてのかもしれない。で、死にかけて戻されたって事か?
それともちゃんと返したけど、こんな状況になるのを想定してなくて予想外に死にそうになっているって話なのか?
でも、体乗っ取られてる間も意識あるって言ってたのに、すぐに意識なくなったって事はなんか想定外の事があったって事か?
どっちにしても、この寒いのを何とかしないと‥‥。
毛布のような物を体に巻き付け、それで肌をこすり付けるように動かす。
しばらく震えてると、毛布のおかげで大分マシになってきた。
状況の確認しないとだな。
毛布かけてもらう前に、ちらっと見えたのは体を貸した河原ではなかったよな。
というか、地面は土だし。
何だか少し遠いところに、人が通ってそうな音もしている。
どこかに放置された感じなのかな?
少し毛布をめくって、顔を出し周りを見回してみる。
石と木でできた大きな建物が目の前にある。路地裏のようだ。
幅2メートルほどの路地で、地面は土でできていてアスファルトではない。
目の前の建物も、3階建てくらいかな。窓なんかはないので倉庫かなにかかもしれない。
俺は、その路地の端に寝ている。
空を見上げると、天気の良い快晴だ。
そして‥‥すっごい臭い!トイレ臭だ。
さっきかけてくれた物も、毛布と思ってたけど、麻のような植物を編んだような敷物ぽい物だった。
上半身を建物の壁にもたれて起き上がる。
ん!?手の感覚が‥‥。おかしい‥‥。
というか、手がちっさい!?
これ何!?小人になった!?
ちがう!!子供の手だ!!
え!もしかして‥‥元の体じゃない!?
両手を見ても顔を触ってみても小さいよ。
子供だよ。
「あ~」とか言ってみたら、俺の声じゃない。
肩とか、足とか触ってみても、やっぱり子供だ‥‥。
どうなってんだ?これ?
体貸したら気絶して、起きたら子供の体になってるって。
ずいぶんと斜め上の事態になっているんだが。
ん?これはなんだ?
立ち上がると、背中にもふもふしたものが当たる。
黒ぽい黄色で、随分汚れているが先を紐でくくられれいる。
引っ張ってみると、頭が引っ張られる。
え!?髪の毛じゃないか!
俺って、こんな髪の毛になっているのか?
俺の体をいじられて、子供の姿にされたって事か!?
なんでそんな事したんだろう?
ただ、放置された訳ではないって事だよな。
いや。「死体に入る」とか言ってたって事は、俺をこの子の死体に入れてリーゼは俺の体って事か!?
そういう事か!
という事は、この子の体は死んでる?
体のあちこちを確認してみたが、ケガらしいものはないようだ。
ケガとかは無さそうだけど‥‥病気か?
かなり痩せていて、まさに骨と皮の状態だ。
子供なのに足の裏は硬く、手には多くの擦り傷なんかもある。
服もさっきかけてくれた植物を編んだだけの穴だらけの服だ。
泥で体中にこびりついている感じだ。
髪も紐でくくられたまま、泥で固められてるかのような状態だ。
‥‥ホームレス‥‥子供だから、浮浪児か。
俺‥‥魂とかの存在って信じてなかったんだけどなぁ~。
でもそういえばリーザも、俺の体を借りるとか言ってたって事は、魂的な何かだったのかもしれないな。
「はぁ‥‥。」
深くため息をついた。
どんな見返りがあろうとも、安易に人に体は貸さないと言う教訓を得た感じかな。
もう2度とない経験だろうけど。
もう寒いのも大分マシになってきたし、混乱していてもしょうがない。ちゃんと状況の確認をしよう。
まだ体は微妙に震えてるが、このままここにいても仕方がないし、何よりもここは臭すぎる。
きっと誰かこの辺でトイレとかしてるよ。
壁に手を付いて立ち上がってみる。
小さいな‥‥身長も手や足も小さい。はあ。やっぱり子供の体だよ。
ここがどこなのか。
なんで子供に戻ってしまっているのか。
さっき朝っぽい布を掛けてくれたのはアリスかな。
改めて周りを確認する為に周りを見渡してみる。
ここはいくつかの倉庫っぽい建物の間にある路地のようだ。
通路の先からは人の声なんかが聞こえるけど、この道を通っている人はいない。
人の声が聞こえるのは大通りだ。
逆側は、路地が続いていて、他の路地と交差している。
いくつかの交差点を抜ければ水場があるんだよな。
あれ?なんでわかるんだ?
俺の名前は‥‥ハルト‥‥!!
あれ?俺記憶がある!?
そうだ!俺はハルトだ。
でも、加藤雄介の記憶もちゃんとある。
さっきまで、河原に居たし魔法教えて貰ってた。
でも俺は‥‥ハルトはさっきまでここで寝て‥‥死を覚悟して‥‥願ってたんだ‥‥。
もう俺はダメみたいだ。アリス‥‥ごめん。
でも、アリスを1人になんてできないよ。
お願い。誰でもいいから俺の代わりにアリスを守って。
アリスを幸せにしてあげて、俺はいいからアリスにお腹いっぱい食べさせてあげてって。