7.マディとリル(1)
「次は、マディ。お前はなんでここにいたんだ?」
「私はパンを作って、夫がそのパンを売って生活していました。
2日前に、朝起きたら家の中の物がすべて無くなっていました。
私は、その部屋で寝てたのに全く気が付かず、荷物だけがすべて無くなったんです。
なにがなんだかわからずに困って、私の両親に状況を話して受け入れて貰っいました。
ただ夫は何か心当たりがあったらしく、浮浪児にやられたってすごく怒ってて・・・。
私が、衛兵に訴えて何とかして貰おうと言っても、夫には取り合って貰えませんでした。
そして昨日の夜、夫が友人と言って冒険者を連れてきました。
そいつが・・・私の父を殺したんです!
その後、夫が・・・母を殺しました。
そして、私をその男に売ったんです。」
マディは、思い出したんだろう、泣き出してしまった。
しばらくして、マディは話を続ける。
「それから、私は自分の家に連れられて行き、男達に好きにされました。
その内、大けがを負った浮浪児の子が連れてこられ、さらに虐待されていました。
そして・・・誰かが家を襲ってるって話になって・・・気が付いたら今です。」
泣き出しはしたが、思いのほか淡々と状況を話してる。
普通は、こんな話はしたくないし、つらくて泣きじゃくって、話になんてならないだろう。
いや・・・この殺伐とした世界では、
もしかしたらそれほど珍しい事では無いのかも知れないな。
自分の嫁の親を殺し、嫁を売るなんて、心底反吐が出る所業だ。
「お前の旦那は、ごみだな・・・。」
「はい。あまりに自分勝手・・・殺してやりたい。」
「奴は、両足を失ったよ。もうまともに生きられないだろう。」
「・・・そうですか。」
マディは泣きながら、下を向いてしまった。
この人達は、被害者っぽいな。
完全に信じる訳ではないが、状況的にも被害者で間違いないだろうし、辻褄もあってそうだ。
「では、2人共・・・このまま解放してやる事が出来るがどうする?」
「私は・・・家族も知り合いもすべて殺されました。
解放されても、死ぬのを待つだけです。」
「私も、同じです。」
そうだろな・・・状況としては最悪の状況なんだろうな。
「お前たちを雇ってやる事も出来る。ただし自由はない。
その代わり、身の安全、衣食住は保障してやる。
仕事内容としては、家事全般と雑用になる。」
あ・・・そうだこれは言っておかないと。
「あと、マディ」
「はい。」
「お前の家の物を、すべて奪ったのは俺だ。」
「なんで!あれがすべての始まりだったのに!」
「違うな・・・。パン屋は俺が弱った所に漬け込んで、攻撃し、
獲物を奪って行ったのが始まりだ。
その報復として、俺はあいつの荷物をすべて奪っただけだ。」
「え?あ・・・ウサギが手に入って売ったって。」
「ああ。それだな。」
「・・・やっぱりあの男が、すべての原因なんですね。」
「さて・・・どうする?
ほかにも、教会なんかを当てにして、解放されるのも選択肢としてはあるとは思うが・・・。
あと、俺に雇われるなら、秘密を守ってもらう為に町に戻る事は出来なくなる。」
「1つお伺いしてもいいでしょうか?」
リルは顔を上げ、問いかけて来た。
「なんだ?」
「あなた様は、どういった方なのでしょうか?騎士様か貴族様なのでしょうか?」
「そうだな・・・。決めるにも情報がいるか。俺は、騎士でも貴族でもない。
だが・・・力を持っている。
あの程度の盗賊は問題にならない程度にはな。」
リルは、決めたように顔を上げて、
「私は・・・解放されても生きる方法がありません。教会での扱いは聞いてます。
雇っていただけるのあれば、何でもさせていただきます。」
確かに、村は全滅、知り合いも親戚もなく、1年盗賊に飼われた女が、
金も家もない状態から生活して行く方法はかなり過酷だろう。
教会の扱いってそんなにひどいんだ・・・。
もしかしたら、孤児院なんかと同じかもしれないな。
「私も・・・お願いします。」
マディも同じ答えだった。
「マディいいのか?多分お前の破綻の原因はパン屋かもしれんが、
直接的には俺が手を下した事になる。」
「いえ・・・私の人生はもう破綻していたのです。
あの男の嫁として嫁いだ時から・・・。」
確かに・・・ごみ男だからな。
ピンチを救ってくれた親を殺し、嫁を売って、自分の復讐を優先するような男だからな。
「では、お前達が俺に従順である限り、お前たちの身の安全は保障しよう。」
「はい。ありがとうございます。」
「一応念の為に行っておく。
もしも俺の許可なく、俺の事を他人に話したり、俺の仲間に危害を加えた場合容赦はしない。
俺はあの盗賊達よりも、確実に裏切者を見つけ、始末する事が出来る事を肝に銘じておけ。」
「はい。」
2人の目隠しを外そうと近づくと、体に打撲の跡がいくつも見えた。
「少し大人しくしててくれ、治療する。」
魔法で、2人の体を治療していく。
むごい扱いをされていたんだという傷もあり、出来るだけ跡が残らないように治療していく。
10分ほどで2人の体の治療は終わった。
2人の目隠しを外してあげる。
2人は、急に明るくなった事でまぶしそうに下を見て、目を慣らしてから俺の方を見て驚く。
「子供・・・。」
「ああ。その通りだ。」
声だけでは確信出来なかったのか、見えない事でイメージが膨らんでたのか、
子供である事は、盗賊達の会話の中で知ってるはずだったのに驚いたようだ。
「ここは?」
「俺の町での拠点だ。」
マディは周りを見回しながら、自分の家ではない事に今気が付いたようだ。
2人を拘束していたロープを外して、服をそれぞれに渡してあげる。
服を着るのを待って、
「少し移動するぞ。」
「はい」
倉庫奥の2重壁の奥の亜空間の入り口に向かって、入る様に指示すると、
「もしかして・・・。」
「ああ。付いて来い。」
魔法に気が付いたようだけど、説明は後からだな。
亜空間の入り口から、家に出ると、リビングにはアリスとミーアが、
机に向かって座っていた。
「アリス。この2人もこれからここで一緒に住む事になった。」
「大人!・・・大丈夫なの?」
アリスがいぶかしそうな顔で、2人を見比べる。
「まあ、大丈夫だよ。料理や、掃除をやってもらう予定だ。
こっちが、リルでこっちがマディだ。」
「この子がアリスだ。俺の大事な仲間だ。」
「リルさん、マディさんよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「そして、この子がミーアだ。」
「よろしくです。」
「よろしくお願いします。」
「奥の寝室にあいつらに攫われてた子がいるが、起きてからにしよう。」
「あの子は無事だったんですね。かなりむごい事をされてました。」
リルだ。虐待を見てたんだろうな。
「ああ。治療してある。」




