6.襲撃の理由
リーダーらしき男を、壁にもたれさせて、座った体制にしてから、頭を蹴って起こす。
「どういうことか教えてもらえるかな?」
俺は冷めた声で、男に話しかける。
「だ、誰だ!」
「お前達が探してた相手だと思うが。」
「お前が、ガキか!」
目隠しをしてるので見えないだろうがね。
「で・・・お前たちの目的が知りたい。」
「目的は・・・。お前をぶっ殺す事だ!」
「ふ~ん。そんな事の為に、こんな何人も手伝ってくれたのか?」
「依頼だったんだよ!パン屋の奴が、自分の女を依頼料として依頼してきたんだ。」
マジか・・・本当にごみだな。
「で・・・その女1人で、命をかけて、どころか今死にかけてるのは理解できるかな?」
「お前みたいなガキに俺を殺せるわけがないだろうが!」
「そう?今ナイフでお前の首筋を撫でるだけで、死んじゃうんだと思うんだけどな。」
サバイバルナイフを首筋に軽く当ててあげる。
「・・・。」
「もうちょっと素直に話して貰えれば、生きてられるかもしれないけどな。」
「・・・。パン屋の話だと、お前がかなりの金を持ってるって話だった。
それに、パン屋に依頼料として女とその親の全財産貰ったからな。」
「親の金?」
「ああ。この女を攫う時に、親も皆殺しにして金をいただいて来たんだ。」
ああ・・・。パン屋もごみだし、こいつらもごみだな。
「なるほど。理解したよ。生きてる価値ないな。」
「ま、まて・・・。話したんだからいいだろ。」
そんなべたな話の流れはいらないな。
酸欠で気絶させ、拘束してたロープと目隠しを回収してから、
真空の膜で包んで、こいつの両足の神経を引きちぎる。
今回も殺さなかった・・・。殺せなかったわけではない。
心底ムカついてる。感情的には殺したいって本気で思う。
だが、あえて殺さない、生きて苦しめって言う感情なのかもな。
逃げ道を塞いでおいた裏口を元に戻しておく。
現場を調査された時に魔法の痕跡を残したくない。
女2人はどうするかな?
状況的には同情の余地があるので、話を聞いてからだな。
ここであまりに長くいるのも問題だし、とりあえず倉庫まで移動してしまうか。
ジャックの治療の続きもしたいしな。
倉庫につながる、亜空間の入り口を出して、ジャックと女2人を亜空間内に入れ俺も入る。
倉庫に移動して、ジャックの治療にとりかかる。
女2人は、ロープに縛った状態のまま、壁にもたれかけて座らせておく。
顔の骨の骨折の治療、左腕の骨折の治療、各所の打撲など治療していく。
治療の最中に、女2人の気が付いたようだ。
「ここは!?」
「なにが起こったの?」
「落ち着け。今の所危害を加えるつもりはない。」
女達は、思いのほか素直におとなしくなった。
「状況の説明をしてやろう・・・。パン屋の家にいた所までは覚えてるな?」
「はい。」
「その男たちは俺が全滅させた。」
「!!」
「で、お前達を連れて来た。
協力的であれば、そのまま解放してやってもいいと思ってる。
その為の目隠しだ。理解できたか?」
「はい。」
「先に子供の治療をしてしまう、そのまま待ってろ。」
まずなによりもジャックを治療して、ミーアの所に連れて行ってあげよう。
治すのに30分くらいかかったが、ケガ自体はほぼ大丈夫だろう。
ただ血が大分流れたみたいで、安静が必要だろうと思われる。
酸欠とは関係ないとは思うが、まだ気絶したままだ。
かなりひどい扱いをされた事で、ショックも大きいはずだ。
ジャックを魔法で持ち上げ、亜空間経由で地下部屋に移動する。
「お兄ちゃん!!」
ミーアが叫びながら、俺の元に駆け寄ってくる。
「ケガをしてたので、まだ気絶している。ベッドに寝かせてあげよう。」
魔法で、そのままジャックをベッドに乗せる。
「アリス、ミーア、看病をお願い出来るかな。体とかも拭いてやってほしい。」
「判った。」
「それと、倉庫でまだ残ってる用事があるのでそれだけ終わらせて来るよ。」
「気を付けてね。」
「もう、危ないのは終わったから片づけするだけだよ。」
再び、倉庫に戻って女たちの話を聞く。
「さて、話を聞かせてもらおうか。
お前たちを連れて来たのは、お前たちの知っている情報を聞きたかったからだ。
まず名前を聞こうか。」
「リルです。」
リルと名乗ったのは、身長はかなり低く、10代前半から中ごろくらいの人のようだ。
髪の毛は、腰近くまで伸びており、体全体が汚れている。
髪の毛も、浮浪児だった時の俺のように汚れて、汚れで固まってる所があるくらいだ。
ずっと裸で生活しているのか、体全体が汚れているって感じだ。
「マディです。」
マディと名乗ったのは、パン屋の嫁の方だ。
10代後半と言った年齢だろうか。
髪は肩よりも長いくらいのロングにしている。
リルとは違い、髪の毛も体も汚れていないようだ。
まあ、昨日まで実家で暮らしていたようだしな。
「じゃあ、まずはリル。お前はなんでここにいるかを話せ。」
「私は・・・私の住んでた村は盗賊に襲われてほぼ全滅しました。
盗賊に攫われ、そのまま盗賊のアジトで暮らしてました。
1年くらい経って、移動するとの事でここに連れてこられました。」
「あいつらが、盗賊だったって事か?」
「はい。」
リーダー的な男の装備の中に気になる物があった。
冒険者ギルドのギルド証だ。
「あのリーダー的な男も、盗賊だったって事か?」
「はい。私はあいつに気に入られて、ここに連れてこられたんだと思います。」
「冒険者ギルド証を持っているが、冒険者が盗賊か・・・。」
「ほかにも、冒険者は多くいました。」
なるほどな・・・。一部冒険者は、盗賊も兼業してるって事か。
冒険者ギルドの闇は、深いのかも知れないな。
「あの男が、盗賊のリーダーだったのか?」
「いえ・・・。幹部の1人ではあったと思うのですが、誰かに指示されてたようです。」
「盗賊団の人数的な物は判るか?」
「人の入れ替わりが激しくって、全員で何人いたのかは判らないです。
でも、30人以上はいると思います。」
はあ・・・。まだ残ってる感じなんだな。
そういえば、応援呼びに行ってたやつもいたっけな。
まあ、俺の姿を見た奴はいないので、情報としては男女2人の浮浪児ってだけだろう。
俺が見つかる可能性は低いけど、男女2人組の浮浪児が無差別に狙われるのは嫌だな。




