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無限の魔法使い  作者: 志野 勇希
2.転生
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27.皮の売買


「よし、準備出来たわ。ハルト、アリスちゃん、いきましょう。ロベルト、行って来るわね。」

「ああ、いってらっしゃい。」


ロベルトさんは家に残して、ハーリさんと俺とアリスの3人で皮屋に向かう。

ロベルトさんの家から、北通り側に向かい、裏通りの商店街の中にある皮屋に入って行く。

皮屋は店舗って感じよりも、工場って感じだ。

店に入ってすぐの所にテーブルがあり、商談を行うスペースがある。


「テッドさん、こんにちは~。」

「おお、ハーリじゃないか。」

「お久しぶりです。ちょっといい皮が手に入ったので‥‥どうかと思って。」

「お前さんが持ってくる皮ならいつでも歓迎だよ。」

「あと、この子も持って来てるので、それも見てほしいの。」

「この子って、こんな子供がか?」

「この子はすごい狩りがうまいのよ。今後も皮を買ってくれる所を探してて連れて来たの。この子達もとってもいい子よ。」

「なんにしても、まずは皮を見せてくれ。」


テッドと呼ばれた店主の人に商談スペースのテーブルの椅子を勧められ、ハーリさんが座って、俺にも声をかけて椅子を勧めてくれる。

ハーリさんが、荷物からウサギの皮を出してテーブルに置くと、すぐに店主は見定め始める。

「相変わらず、ハーリの解体はうまいな‥‥。これは、狩り方もうまいな。どうやって狩ったか判らんが、こんなに傷の無い皮はそうそう見ないな。」

皮屋の店主は、ウサギの皮をまさになめるように見ながら、かなり細かい所まで見ている。

こんな細かく見るもんなんだ‥‥。


「そうでしょ。このウサギもこの子が狩ったのよ。」

「これなら、大銅貨5枚は出せるな。」

「そんなにいいの?」

「ああ‥‥ここまできれいだと使えない部分がないどころか、継ぎ接ぎしないで1枚組の質のいい製品が作れるからな。」

「ハーリはこれだけか?」

「ええ、後はこの子のね。」


ハーリさんが、さっき解体したばっかりのシカの皮をテーブルの上に出してくれた。

「小鹿か‥‥。」

小鹿の皮を細部まで確認していき、何度も切り口や傷の有無など確認して行く。

「これも素晴らしいな‥‥。銀貨1枚と大銅貨5枚出そう。ハーリお前が解体したんだよな。」

「ええ。」

「どう思った?」

「傷が少なすぎるわね。こんなに傷が少ない獲物はなかなか見ないわ。理由は生きている時に1撃で首を刈って獲物に止めを刺している事。」

「たまたま1回だけの話なら、それほどの事はないんだが‥‥。これが続いてるっていうのなら、手練れであると考えるしかねぇ。」

「そうね‥‥。」

「という事は、この坊主が手練れだって事になる訳か。」


「後、これもあります。」

俺はヘビの皮3枚を出して、テーブルの上に置く。

「ヘビか‥‥。こっちも綺麗なもんだ。1匹あたり大銅貨3枚だそう。」

「ありがとうございます。」


「この切り口は‥‥。おい、坊主!ナイフを見せろ。」

まずいな‥‥。俺のナイフは見せる訳にはいかない。この世界にないサバイバルナイフだ。

ほんと職人って人種は‥‥こういう所は見落とさないんだな。

「いえ、すみませんが、俺のナイフは狩りの秘密なので。」


テッドさんは、俺の顔を真剣に見ながら、

「やっぱり業物か。坊主‥‥この品質でこれからも狩れるか?」

「多分‥‥。毎回と言うほどではないかもですが。解体に不安がありますので‥‥。」

「解体は、ハーリにさせればいい‥‥。俺はこのテッド商会をやっているテッドだ。」

「ハルトです。」

「なあハルト、うちの専属にならないか?」


俺だけでなく、ハーリさんも驚いて、

「え!?あなたが、そんな事言うなんて珍しいわね。」

「何言ってやがる。今後もこの品質の皮が入るなら、子供だろうが関係ない。そりゃあ専属にしたいと思うだろう。」

「あの‥‥専属って?」

「専属って言うのは、うちがお前の生活を保障してやるから、定期的にうちに皮を納品するって契約だ。

具体的に言えば、住む所、食事、ある程度の経費を用意してやるから、指定の期間に指定の数以上の皮を納品する義務がある契約だ。」

本当に専属なんだな。

食住の保証はうれしいけど、アリスは専属として生活保障されないし、指定数の納品も雨が降ろうとも、獲物が居なかろうとも、守らないといけないノルマになるだろう。


「そうなんですね。俺も冒険者ギルドに獲物を買って貰えなかったので、嬉しい申し出です。

でも専属までじゃなくて、これからも俺が持ち込んだものを買っていただければ十分です。

指定期間で指定数ってノルマはちょっと確約出来ないんです。」


「ああ?冒険者ギルドに買って貰えないって言うのはどういう事だ?なんかやらかしてるのか?」

「いえ。昨日黒耳ウサギを持って行って買い取りをお願いしたのですが、大銅貨1枚って言われました。

もちろんハーリさんに買ってもらったウサギと同じくらいのレベルの獲物です。」

「そいつはひでぇな。子供って事で舐められたって事か。」

「そうですね。今よりもひどい恰好で孤児丸出しな感じだったからもあるのかもですが‥‥。」

「孤児だったのか。そんな服着てるから、どこかの子供だったのかと思ったぜ。」

孤児の着る穴だらけの服に裸足って状態から、パン屋から奪った服と、靴になっているので、貧民街の子供程度くらいには見えるようになってるって事か。


「そう言う事もあって、今回ハーリさんにお願いして、直接持ち込まさせていただいたんです。」

「それは、俺にとっては「ギルドよくやった」って褒めてやりたいくらいだな。

頻度は構わねえから、皮はいつでも買い取ってやる。うちはギルドと違ってまっとうな値段で買い取るぜ。」

「ありがとうございます。助かります。」


「じゃあ清算するぞ。ハーリの方は、ウサギだけだから大銀貨5枚だな。坊主の方は、銀貨2枚と大銅貨4枚だな。」

「ありがとうございます。」

「また来てくれ。待っているぞ。」

皮を買ってくれる所が出来て、これでやっと生活費が稼げそうだ。

生活安定の為の大きな一歩だ


今の手持ちと合わせて、

銅貨 : 129枚

大銅貨 : 36枚

銀貨 : 6枚

銅貨100円換算で、10万8,900円になった。


店から出たあと、ハーリさんがちょっと面白そうな顔で俺を見て、

「ねえ‥‥ハルト。さっき話に出たナイフなんだけど、私もちょっと興味あるのよね。解体屋としては‥‥。」

「あら‥‥。」

「誰にも言わないから、ちょっとだけ見せて!ハルトも私のナイフ見たでしょ。」

悩ましいけど‥‥お世話になっているし‥‥サバイバルナイフ見せるだけ見せた所で、まあ良いナイフを持っているってだけの話になるんじゃないかな。

今後、解体をお願いしたり教えて貰う時に、自前のナイフを使う機会もあるので、そもそも隠しても意味がないのかも。

見せない理由は、これを狙われて襲われたり、これを元に魔法や、違う文化の事がバレるのが嫌だからって言うのが大きいから、ハーリさんなら大丈夫だろう。

「誰にも言わないように、見たと言う事も言わないようにしてください。」


俺はナイフを抜いて、ハーリさんの方に向けて見せてあげる。

「見た事も無いような形をしているわわね。」

「切る、付く、ギザギザの部分で布などの滑りやすい物を切るの便利です。」

「なに!この刃‥‥こんなに砥いだら、刃が欠けるはずなのに‥‥すごく固い。確かにこれは人に見せるような物じゃないわね。」

「ええ、見せないようにしています。」

「ふふ、そうね。」


「ハーリさんにお願いしたい事があるんですけど。」

「なに?」

「服が買いたいんです。出来ればフードの付いてるローブで、俺の体系に合ってる物がいいんですけど‥‥。」

「服か‥‥。中古の服でいいのよね?」

「はい。俺達だけで行っても売ってくれないでしょうから。」

「そうかも知れないわね。じゃあ、私がいつも行ってるお店にいきましょうか。あそこなら子供用の服もあるから。」

「お手数おかけします。」


テッド商会で孤児じゃなく、貧民街の子供に見られたのは、まさに服装のせいだ。

これで俺達の大きさに合った服を着れば、貧民じゃなくて一般の子供に見えるようなるだろう。そしたら俺達だけでも買い物に行けるようになるはずだ。


北通りを超え、北西の商店街に入ってしばらく中央広場側に向かい、広く間口の開いた服屋に到着した。

結構大きな店で、いろんな服が置いてある。

広いカウンター中に数人の店員が居て、その奥に服が種類別に固めて山積みに置かれている。

ほとんどが中古服のようで、売っている物の中にも継ぎ接ぎになっている物もあるようだ。

植物を編んだだけの、俺が着ているような服が多いが、端の方には木綿で出来たっぽい服もあるようだ。

買い物は店員に言って、持って来てもらって選ぶようだ。


「こんにちは~。」

「ハーリさん、いらっしゃい。」

「子供用の服が欲しくってね。子供用のローブってあったりします?」

「子供用のローブですか?‥‥ないですねぇ。」


対応してくれたのと別の店員さんが横から会話に入って来て、

「あるわよ!この間依頼で作った修道服で、キャンセルになったのがあるでしょ。」

「ああ!それがありましたね。」

「この間、修道院の見習いになる子供への修道服の依頼で作ったんだけど、キャンセルになったのよ。

とある商会の子供の物で、物はかなりいい物よ。袖と襟元、それに前の合わせの部分に色付きのラインが入っている、貴族様でも着られるような贅沢な作りよ。」

「見せてもらっていい?」

ハーリさんが対応してくれるみたいだ。


「ちょっと待っててね。」

店員は店の奥に入って行って、持って来たのは濃い茶色の修道服だ。

本当に修道服と言う形でなければ、貴族か大手の商会の子供が着ていても不思議無いような贅沢な品質だ。

ベースは濃い茶色で質素な感じがするが、生地は木綿で肌触りが良い。

袖と襟それに合わせの部分に鮮やかな青いラインが入っている。


「もう一色赤の物はこちらです。」

そちらは青いラインの部分が、鮮やかな赤色に染まっている。


「元々姉妹で使うつもりだったそうで、色違いの依頼でそれぞれに予備があって、青2着、赤2着あるのよ。

出来上がる前に、修道院に入るのをやめたみたいで、キャンセルになっちゃってそのまま残っちゃったのよ。

修道服って事もあって、普通に売れる事はないので安くしておくからどうかな?」


「丈は少し長めみたいだね。これって合わせて調整してくれるかしら?」

「もちろん。」


「いくらになります?」

「1着で銀貨1枚だけど、どうかしら?」

結構するな‥‥って日本円換算で1万って事か‥‥。ローブなので上下でさらにフード付きと考えばそんなに高い訳でも無いだろう。

周りとの比較でしかないが、かなり上等な物なので、安くはしてくれてるんだろう。

手持ちで考えても、買えない買い物でも無い。さっき、テッド商会で売れたシカ皮が銀貨1枚と大銅貨5枚だったのを考えても、問題無いだろう。


「4つとも買うとしたら、いくらなんでしょう?」

「う~ん。4着で銀貨3枚と大銅貨5枚でどうかしら?」


十分安くしてくれてるみたいだな。

購入しよう‥‥と思って「購入します。」と言おうと思った時にハーリさんが、

「ねえ、これって実は依頼受けた時に、依頼料はもう貰ってるんじゃないの?」

「あ!‥‥そうなんですが‥‥わかったわよ。じゃあ、銀貨3枚でどう?」

ハーリさんナイスサポート!


「あとこれってきっと売れないのよね?修道服ってだけなら売れるかもだけど、このサイズって小さすぎて今を逃せば売れる機会無いわよね。この子に売れなかったら間違いなく売れ残るわよね。

さらに畳みかけるように、ハーリさんの攻めが光る!

「わかったわよ!4つで銀貨2枚!これでどう!」


「いいかしら?」

ハーリさんがいたずらっ子のように笑みを浮かべながら俺に聞いて来る。

「では後、ローブの下に着れる子供用のパンツ10着ほどと、ベッド用のシーツ2つ、タオルやぞうきんに使えそうな布を10枚ほど着けていただければ、いま即金でお支払いします。」

「‥‥わかったわ。ハーリさんだけでなくって、君も中々やり手なのね。」

「ありがと。じゃあ、この子達に丈合わせてね。」


店員さんは、他の店員さんに指示して俺と、アリスの丈を計り、ローブを持って奥に入って行った。

丈の直しをしている間に、俺はハーリさんと、下着とシーツ、布を購入していく。

子供用の下着に、男女の違いはなく、男性用のトランクスみたいな感じなんだけど麻で出来た物だ。

ベッド用のシーツの洗い替えと、キッチンなんかで使う為のタオルを10枚ほど買った。


あと、肩からタスキに掛けられる布製のかばんをアリスの分と2つ。

腰紐につけられる小さめの、物入れを2つ。

これもハーリさんが交渉して同じ料金に入れてくれるように話してくれた。

さすが‥‥ハーリさん。頼りになるなぁ~。本当に一緒に来てもらって良かった。


支払いを済ませて、今の手持ちは

銅貨 : 129枚

大銅貨 : 26枚

銀貨 : 4枚

銅貨100円換算で、8万8,900円になった。

そのまま、2人とも店で着替えさせてもらった。


俺は青いラインの方で、アリスは赤いラインの方の修道服だ。

着てみると、修道服の形ではあったが思い他かっこいいかも。

形としては、ゆったりとしたワンピースに、腰部分を紐でしばって体に合わせる感じだ。

フード部分はローブ部分と別になっている物だ。


ローブ部分を着た後に、フード部分を上から着るような着かたをする物のようだ。

なので暑い時にはローブだけ着て、フードを着ないとか、別の服にフードだけ合わせるって着かたも出来る。

フードは頭だけでなく、肩くらいまで覆うように出来ていて、深めにかぶれば顔を隠せる。

風に煽られても、簡単に脱げないように紐が付いていて。結べるようになっている。

肩まで垂れているローブの下側にもラインがあり、そこも青く染められている。アリスのは赤色だ。


背が伸びるのが前提なので、裾上げは切るのではなく、折って止めるだけにしてもらった。

袖が少しゆったりしており、ここに少しだが荷物を入れられるみたい。


腰紐に鞘付きのナイフを装備して、先ほど買った小さめなポーチも括り付けておく。

ローブの上から、先ほど買ったカバンをたすき掛けする。

アリスとは青と赤のラインの違い以外は、おそろいの恰好になっている。


「ハーリさんありがとうございました。すごい助かりました。」

「あら、いいのよ。似合っているわよ、ハルトもアリスちゃんも。」

「ありがとう!」

「ありがとうございます。これでどこででも買い物出来そうです。」

本当に、ハーリさんには感謝だ。

「じゃあ、私は帰るわね。もうそろそろ夕食作らないとロベルトがお腹空かせてそうだし。」

「はい、ありがとうございました。また解体教えて貰いにいきます。」


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