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無限の魔法使い  作者: 志野 勇希
2.転生
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26.ロベルト家(シカ解体)


そんな事を話している内に、ロベルトさんの家に到着した。

「ただいま。」

ロベルトさんの家につくと、庭で料理をしているハーリさんに、ロベルトさんが声をかける。


「おかえりなさい~。あら、ハルトじゃない。って、シカなの!?」

「次はシカを取って来たそうだ。」

「ウサギに‥‥シカ‥‥すごいわね。」


「こんにちは。シカが取れたので、解体の仕方を教えて貰おうと思って来ました。あと、この子はアリスです。」

「あら、かわいい子ね。アリスちゃんよろしくね。」

「うん。よろしく。」

「アリスにも、解体を覚えて貰えればいいなと思って連れて来ました。いいですか?」

「うん、もちろん大丈夫よ。入って。」

「お邪魔します~。」


アリスが解体のやり方を覚えて貰っても、力が無いから全部出来る訳じゃない。

それでも出来る所だけでもやって貰えれば、それだけでも随分負担は減るだろう。

それに俺が狩りしている時に暇だろうから、その間にやる事として丁度いいんじゃないかと思っている。

2人で暮らすだけなら、雑用もそんなにないだろうしな。

でも解体だけなら、収入がある程度確保出来たら、ハーリさんに依頼して全部やって貰うって手もあるかも。


「シカの解体の後でいいんで、前に言ってた皮を売れるお店も紹介してほしいんです。」

「いいわよ。私もこの間のウサギの皮売ってしまいたいし、一緒に行きましょう。」

「はい。お願いします。」


「アリスちゃんの真っ赤な髪の毛きれいね~。髪型もかわいいし。」

アリスは真っ赤になってうつむいてしまった。

「アリスちゃん‥‥かわいいわね。」

ハーリさんは、アリスの頭を撫でながらにっこり笑った。


「じゃあ、さっそくやっちゃおっか。」

キッチンに案内されて、調理台の上にシカを乗せ、解体を始める。

「シカは、結構大物だもんね。ウサギとはいろいろと手順が違うんでしっかりと見ててね。小鹿の解体が出来れば、ほかの中・大型の四足歩行の動物も、ほぼ同じ方法だから出来るようになるはずよ。」

「ほかの四足歩行ってどんなのいるんです?」

「狼とか、トラとか、熊もそうだね。」

解体の準備をしながら、ハーリさんはいろいろ教えてくれる。


「ここまで大きな獲物になると、もうちょっと広い所の方がやり易いんだけどね。」

「そういえばハーリさん。解体を教えて貰うし解体もやってもらうので、費用お支払いしたいのですが‥‥。」

「え~、いいわよ~。この間ウサギも安く売って貰えたし~。」

「いえ、これからもお願い出来れば助かるんで、解体費用払えばお願いしやすいのです。」


「う~ん、確かにそうかもね‥‥じゃあ、冒険者ギルドの時の相場でいい?」

「もちろんです。」

「売値の1割が解体費用になるのよ。このシカは小鹿とは言え状態がとてもいいので、銀貨2枚はいくかしら。」

「という事は、大銅貨2枚って事ですね。」

「すごいわね、計算も出来るのね。」

「文字は読めないんですけどね。」

一応、夜のうちに通貨の文字と数字は書けるように覚えたので書けるようになったんだけどね。


「なんか不思議ね、文字読めないのに計算出来るって‥‥行商人の息子だったり?」

「いえ、親の事は知らないんです。」

「あら、そっか孤児なんだよね?」

「そですね。」

ハルトの記憶では、母親は病気で死んでるので、今は孤児って事でいいんだと思う。


「じゃあ、始めるね!」

血抜きの時に裂いた首元の傷にナイフを入れ、内臓に傷を漬けないようにお腹からお尻迄皮を裂く。

腹を裂いたら、中の内臓を掻きだし肉に付いている内臓を丁寧に切り離して行く。

一旦水洗いして、血を洗い流す。

剥製を作る時には、顔の皮も綺麗に剥ぐ必要があるのだが、今回は販売用なのでそこまでは必要無い。

解体がやり易いように、頭は落としてしまう。


シカなどの角の生える獣の場合は、角を根元で切る。

小鹿の角は高価だし、肉は柔らかいのでこちらも値段が高い。薬剤師に売れるそうだ。

ただ両方共大人のシカよりも量が取れないので、小鹿も大人のシカも1頭で考えると同じくらいの値段になるのだそうだ。

角を切るのに、小型ののこぎりのような物を使って切り落とす。


首元から丁重に皮を剥がして行く。

この時には、皮剥ぎ用のナイフを使う。

余り切れるナイフを使うと、皮が切れてしまうし、切れないと肉が削げないので丁度良い切れ味が必要なのだそうだ。

皮を剥ぎながら、骨を外し、肉をばらして行く。


皮を綺麗に剥いだら、皮と一緒に剥がれた肉を綺麗に落として行く。

この時にはほとんど切れないようなナイフを使い、こそぎ落とすって感じだ。

やり過ぎると、穴が開いてしまうので加減が難しい。


骨にも肉が付いているので、これもナイフで落として行く。

小鹿な事もあり、肉が少ないのでこういった部分も必要なのだそうだ。

骨は基本的に捨てるらしいが、たまに装飾品を作る人に売れるらしい。

俺が使うなら、豚骨スープのように煮込んで出汁出す感じかな。


「やっぱり、君たちには大変みたいだね。」

「この大きさは、しんどいですね。」

「アリスも‥‥疲れた。」

「大きさや重さもそうだけど、骨外したり、皮剥がすのに力いるからね。」

シカの解体は順調に終わったが、かなりの体力勝負だった。

魔法を使えば何とかなるが、魔法なしでは俺達だけではどうにもならない作業がいくつかあった。

あと道具もいろんな特殊な物を使っていた。それを揃えてるハーリさんがイレギュラーなんだろうけど、あれば便利そうだ。

鉄を手に入れたら、作って揃える事にしよう。


「それにしても‥‥いろいろ変わった死体だったんだけど‥‥。

こんなに綺麗に血抜きされているのは、はじめて見たわ。どこを切っても血が出ないんですもの。

おかげで解体はすごい楽だったけど‥‥どうなってるの?」

「血抜きって大切ですよね。血抜きは念入りにするようにしてるんですよ。」


「それに、この傷の少なさ‥‥ウサギの時もそうだったけど、どんな狩り方したらこうなるのよ。」

「たまたま1撃だったんですよね。」

「‥‥まあ、いいわ。」

あからさまながらにでも誤魔化しておいた。どんなに疑われても、明確に答えなければ疑いでしかないし、言う気が無い事も伝わるのであからさまで十分だ。

さすがハーリさんは意図を察してくれたのか、それ以上の追及はしてこないようだ。


「解体で聞きたい事は、ほかにない?」

「え~っと、シカ肉は何日くらい熟成が必要なんです?」

「2日くらいは置いておいた方がいいわね。一定の温度の所に吊るしたりして、出来るだけ肉が接地しないようにして熟成させるのよ。」

「じゃあ、ヘビはどれくらいです?」

「ヘビとか、カエルも2日くらいよ。熟成出来たかどうかは、肉を触って柔らかくなるので、何日でって言うのがわからなかったら毎日触って確認すればいいわよ。

熟成したらすぐに食べないといけないって訳でもないからね。」

ミンチにしたから食べれたけど、やっぱり熟成は必要だったんだ。

逆に言えば、味はともかくミンチにすれば熟成させなくても食べられるのか。


「あと変わった所では魔獣の肉は熟成させるのではなく、出来るだけ新鮮な方がいいって言うわ。」

「魔獣ってなんです?外にいる獣とは違うって事ですか?」

「知らなかったのね、まだ出会ってなくて良かったわ。森の奥にいる特殊な獣の事よ。

獣とは桁違いに強く、敵を見つけたら相手が死ぬまで追って来るほどに好戦的なの。その上魔法も使って来るのよ。」

「魔法まで使うんですか。」

「ええそうよ。なのでギルドでも年に数匹程度しか持ち込まれないわよ。それも何人も犠牲者を出して狩りに成功するかどうかって感じよ。」

「そんな危険なんですか?」

「ええ、あなたも見かけたら、見つかる前に絶対に逃げてね。」

そんな危険なんだ‥‥。俺なら先に見つければ、魔法でなんとかなりそうな気がするけど無理する必要が無いのならわざわざ狩る必要もないだろう。

「はい。メリットも無さそうですしね。」


「そうよね。森の奥にさえ入らなければ大丈夫とは思うけど、本当に気を付けてね。あと一応話をしておくと、魔獣は解体が禁止されててね、必ず冒険者ギルドに持ち込まないといけないのよ。」

「へえ。解体が禁止されているのもあるんですね。」

「魔獣は心臓が無い代わりに魔核って言われる石が付いているのよ。その魔核が個人所有を許されていないので、解体禁止って訳なの。」


「魔核ってなにに使う物なのですか?」

「良く知らないけど、魔道具に使われるそうよ。なのでお金の原料なんかと同じように国が管理しているのよ。」

魔道具なんて言うのもあるんだ‥‥。それにお金の原料も国が管理してるんだ‥‥。まあ当たり前か。

「魔道具ってどんな物なんです?」

「良く知らないのよ。貴族の人が使う道具ってくらいしか‥‥。」

名前からすると、魔法を使う道具もしくは、魔法で作った道具って感じかな。

魔獣にちょっと興味湧いて来たな。


「そうそう、あと魔獣は血抜きが必要ないの。心臓が魔核なので血が流れてないからね。」

え?血が無いって事は、酸素を吸収していないって事になるよな。と言う事は、酸欠を使えないて事か‥‥。

いや、言い切れないか、そもそも血が無いのに動いているって時点でどういう仕組みなのかわからないしな。

試してみるか‥‥。


「魔獣の解体方法ってシカよりも難しい感じなんですか?」

「魔獣にもいろいろあるから、なんとも言えないけど、魔核だけでなくて魔獣が良く使う部位には魔力が溜まって特殊な素材になるのでそこも高く売れるわよ。」

「そうなんですね。もしも魔獣を狩って冒険者ギルドに持ち込んだ時って、魔核以外の部位ってどうなるんですか?」

「査定されて全部買い取りになるわよ。」

「部位や、肉だけ戻して貰う的な事は出来ないって事ですか?」

「そもそも冒険者ギルドへの買い取りにそう言うのはやってないのよ。」

「そうだったんですね。」

魔獣の部位が欲しかったら、自分で解体するしかないのか。

魔道具の為に魔核も確保したいから、どっちにしても自分で解体しないといけなさそうだな。

まあその前に魔道具と言うのがなんなのかとか、作り方とか調べないとダメだろうけどね。


いろいろ興味深い情報を教えて貰えた。ハーリさんには感謝だな。

ロベルトさんは、解体を一緒に見てたけど、途中で家の中に入って行ってしまった。


解体して取れた肉を、布の袋に積めて行く。

結構な重さになるけど、一部はこっそり亜空間に入れ、残りも重力制御で軽くしておくので持ち運んでもそれほど負担は無いだろう。


「じゃあ、後片付けしたら皮を売りに行きましょっか。」

「はい、お願いします。あ‥‥その前にお金お渡ししておきますね。」

大銅貨2枚をハーリさんに渡す。

「ありがと、家計が助かるわ~。明日は娘の誕生日だし、ウサギ肉に合う料理が追加出来そうね。」

「明日なんですね。って、会った事ないですね。」

「あの子は住み込みで見習いに出てるんで、そんなに家には帰って来ないのよ。」

「あ~、なるほど。そういう事なんですね。」


あ、そうだ確認しておかないと。

「もしもの話なんですが、俺らで出来ない解体や、解体方法が分からない物があったら、また教えて貰ったり手伝って貰ったりしていいですか?

今回同様に解体費用はお支払いしますから。」

「う~ん、娘も見習いで家から出たし、家計の足しになるしいいわよ。今の所は、冒険者ギルドへの復職はあんまり考えてないからね。」


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