3.亜空間魔法
「他にも、自分の体を強化したり直したり、亜空間を作ったり、空を飛んだりできるのよ。」
「空も飛べるのか‥‥って、亜空間ってなに?」
「自分で作った、見えない空間の事。荷物置いたり、その中に入って身を隠す事とかできたりするの。ちょっと作ってみよっか」
とあるネコ型ロボットのポケットのような物か?
「どうやったらいいの?」
「まずは何もない空間に入り口を作る感じでイメージしてみて。その後、亜空間の向こう側に自分の部屋くらいの大きさの領域をイメージするの。」
「入り口ってどうやってイメージしたらいいんだろ?」
「そっか‥‥。じゃあ順番を逆の方が分かりやすいかな?
多分、一度作ればそっちの方が作りやすいと思うんだけど‥‥。
じゃあ見えないけど、自分の部屋くらいの大きさの領域があるってイメージしてみて。」
「イメージした。」
「じゃあ、そこに入る為の入り口を作ってみて。」
「了解。」
俺の目の前に、濃い青紫色で半径1メートルくらいの亜空間の入り口っぽい物が現れる。
「もうちょっと広げないと入れないな。」
と言いながら、魔法の触手みたいなので入り口を広げてみると、簡単に扉くらいの大きさまで広げられた。
「亜空間は少し危険があるので注意してね。亜空間の中は自分の想像した空間になるの。
空気がない空間にしたり、巨大な空間にしたり、小さい空間にしたり、重力のない空間や、気圧の高い空間も作れるの。
意識しなかったら、自分の慣れた環境の部屋になっているはずよ。入ってみて。」
俺は、そのまま青紫色の亜空間の入り口に、頭を突っ込んでみる。
「おお!できてる~。」
ほんとに何にもないけど、空間ができてた。
床も天井も壁も、白くてなんの飾りもないけど部屋ができている。
俺はそのまま亜空間に入っていく。
入り口が青紫色に光っているので、全体は何となく見渡せるが暗い。
ふと思いついて、俺は蛍光灯をイメージしてみる。
「おお!光った。」
魔法で伸ばした触手の先が蛍光灯のように昼白色で光っている。
おかげで部屋全体が見渡せるようになった。
広さは俺がイメージした通りの俺の部屋くらいで、荷物がないからガランとしか感じだがただの普通の部屋だ。
「亜空間に入ったら、入り口は閉じないようにしないと、出られなくなるから注意してね。」
「それは、怖いな。注意するよ。」
「なあ、リーザさん。この魔法って、俺これからもず~っと使えるの?」
「もう、肉体改造しちゃったから、ず~っと使えるよ。
元に戻す事も‥‥多分できるけど‥‥。」
「いや。戻さなくていい。」
これは‥‥すごいな‥‥。
ワクワクが止まらない‥‥。会社辞めよう‥‥。
とりあえず、誰にも言わずに内緒にするよな。
犯罪はしないつもりだけど、ずるはしたい。
住む所はこの亜空間でいけそうだけど、食事も服も娯楽も、お金が必要だから、とりあえずこれでお金を稼ぐ方法としては‥‥。
なんだろ?
火出せても、水出せても、お金にならないかもしれない‥‥。
あれ?‥‥思ったよりも、お得感ない?
いや‥‥亜空間に荷物を入れられるなら、関税がかからない。
って、密輸って犯罪だし‥‥。
競馬とか競輪に行って、レース中に本命の子に水とか逆風とかして邪魔するとか。
って、これも犯罪臭いし、なによりもかわいそうだ。
いっその事、魔法使えると公言してTVに出まくると言うのもありかもしれない。
と言っても、多分TVに出られる寿命は2~3年だよな。派手な演出とか、おもしろい事言えないとすぐに飽きられるだろうしな。
一時流行ったら、その後は営業周りしないと食べていけないとかになって、一発屋の芸人みたいな生活になりそうだ。
今の会社で働いているよりも、良い生活とは思えない。
魔法覚えても、会社は辞められそうにないかも‥‥。
実は、魔法よりも超能力の方が便利っぽい?
テレポートとか、透視とか、予知能力とか、催眠術とかならお金と欲望が満たされそうだ。
‥‥俺の発想が貧困なだけなのかもしれない‥‥。
海外の紛争地域なんかに行けば役に立ちそうだけど、そんな危ない所に行きたくないし。
世界中に貧乏旅行に行くとかなら、少し役に立つかもしれないけど、それも予定にない。
まあお金儲けにならなくても、魔法が使えるというのは、楽しみがいっぱいだ。
あれ?でも、これって‥‥ちょっと気になるので確認を‥‥。
「弊害はないのか?寿命が短くなるとか、使い続けたら脳が障害を受けるとか。」
「う~ん。本来魔力を使いすぎて魔力が無くなると、気絶するように寝ちゃうの。
魔力が復活すると、起きるので一時的な話なんだけどね。
ただ‥‥あなたの魔力量が‥‥分からないの。」
「分からない?」
「いえ、なんと言うか‥‥。さっきね、あなたに魔力貯められるよう改造したんだけど、
それだけだと、魔力切れになってすぐに寝ちゃうの。なので周りから魔力を補充させたのよ。
でもかなり周りから魔力を吸ったのに、いっぱいにならなかったのよ‥‥。」
「それって、どういう事?」
「今の所、魔力切れにはならないって事かな。それに自然に回復する魔力もあるから、とんでもない魔力を使っても切れないんじゃないかな。」
おう‥‥なんかすごい感じだな。
まさに俺TUEEできる感じだね。
「で、弊害の部分は?」
「それは、ないはずよ。」
それはいいな。
後は、体を貸すって言う交換条件か‥‥。
俺は亜空間から出て河原に腰掛ける。
体を貸すとか言うのも、なんだかやばそうな気はするけど、
この魔法使える状態で、今後の人生を歩んでいくというのは楽しそう。
「ねえ。そういえばあなたの名前聞いてない。」
「そういえば、言ってなかったな。加藤雄介。」
「カトーね。」
「あ‥‥一応ファーストネームは、後ろに付くので、雄介が名前で、加藤はファミリーネーム。」
「そうなんだ‥‥。じゃあユースケね。」
「さて、ここまででいいかな?魔法使えるようになったの信じてもらえたかな?」
「そだね‥‥。これは夢でも見てるんじゃなければ魔法だね‥‥。」
「じゃあ、ちょっとだけ体貸してほしいの。大体鐘2つ分くらいでいいんだけど‥‥。」
「鐘2つ分?っていうのがどれくらいの長さなんだかわかんないんだけど‥‥。日が暮れるまでとかそういう事?」
「そうね‥‥。それまでには返せるよ。」
「で、体貸してなにするの?」
「え~っとね。私は別の世界からこの世界に干渉してるの。なので今は非常に不安定な状態なんだよ。それを、私の魔法で無理やり安定させて存在している。
それを定着させる為に、こっちの世界にある体にいったん憑依して、私がこっちの世界の存在として認められる必要があるの。その為の儀式ってとこかしらね。」
なんか、悪魔召喚とか、宗教的な受肉って感じの事なのか?
「それって、甘い言葉につられてそのまま乗っ取られたりする感じ!?」
「ないない!大丈夫!いったん意思のある人に許可をもらってこっちの世界に入って、こっちの世界の体を使って、意思のない物に入る必要があるの。
直接意思のない物に入るには、意思がないので許可が貰えない。なので、ちょっと面倒な感じになるのよ。
それに、これでも私は女の子なので、男に入りっぱなしはヤダ。」
「どこかの意思のない物って?死体とか、動物とかって事?」
「そうだね~。人間の死体があれば一番なんだけど、見つからなかったら動物とかもいいかな~って思ってる。」
「人間の死体は、見つからないと思うけどね。あと俺が貸した後、君が動物とかに入ったら、俺は俺の体に戻ってこれるって事でいいのかな?」
「人間の死体は見つからないの?」
「ああ、そうだね。日本では人間の死体は、数日以内にほとんど焼かれると思う。もしあったとしても誰にも見つかってない遭難死体とか、解剖とか研修で使われる死体くらいなので非常にレアです。」
「なるほど‥‥。そこはいったん動物でもいいので何とかするよ。あと私が離れれば、あなたは体に戻るよ。」
ちょっと怪しい気もするが、魔法使えるようになったのは本当っぽいし、話してる感じでは、普通の女の子っぽいし、騙したりって事もなさそうな気がする。というか、きっと本当に騙す気でここまでできるやつなら、こんな面倒な事をしなくても、もっといろいろ出来そうな気もするし。拒否して魔法使えなるなるのも大分惜しい気もするし‥‥。
と言うことで、
「体返す時にはこの場所に戻ってきておいてほしいな。どこか訳の分からない所に連れていかれて放置とか困るんで‥‥。」
「じゃあ、動物の死体を捕まえてここに連れてきてから、入れ替わる事にするね。
まあ、私か入っている最中でも、あなたの意識が無くなる訳じゃないから、訳分からない所って言うことはないとは思うけどね。」
「あ‥‥そうなんだ。それならちょっと安心かも。じゃあ、体貸すよ。」
その瞬間俺の体の自由が無くなった。感覚はあるのに体が動かせない感じで、体が麻痺してしまったような感覚におちいった。
俺は焦って、
「なに!?どうなったの!?」
「いま、入れ替わったのよ。私の方で体が動かせるようになった。う~ん。ちょっといろいろ勝手が違うな~。生命活動には問題なさそうだけど、動くのに少し練習が必要かも。」
俺の意識と別に、勝手に視線も手も足も動いているのは、非常に気持ち悪い。
キョロキョロと周りを見ましたあと、手を伸ばしたり、握ったり開いたり、座った体制のまま足を延ばしたり、
「うん!大体大丈夫かな。じゃあ、動物を見つけに行こう!」
そう言って、立ち上がった瞬間、
急に視界が動いて空が見えて、そして何も見えなくなった‥‥。