17.冒険者ギルド
南門の詰所の横に行き、ウサギをマントの内側に入れて持ち直す。
重さはそれほどでもないはずなんだけど、長い時間持っていると結構疲れてくる。もう少し我慢だな。
あ、魔法で楽できないかな。やれるとしたら、さっきの追い風の応用か。ウサギの下に風の魔法で持ち上げる感じ。
ダメだ、マントがめくれてウサギが丸見えになってしまう。
‥‥今はこのまま持って行くか。
詰所の横から出て、町の中央に向かってアリスと一緒に歩いて行く。
目立たないように通りの端を早足で歩き、露店があればできるだけ近付かないように避けて、中央広場そして東通りに入り、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは、東門の近くにある。
東門から入るとすぐに軍の訓練所や宿泊施設ががあり、その隣に冒険者ギルドがある。さらにその隣は、倉庫街になっておりその中の1つの路地が俺達の生活している場所である。
冒険者ギルドもそうだが、町の中の建物はほとんどが平屋で、2階建てのような建物はない。ただ平屋でも背の高い建物は結構あり、倉庫などはまさに背の高い建物だ。
冒険者ギルドも同じく平屋なのだが、敷地はかなり広い。敷地は柵で囲われており、敷地内にはいくつもの建物が建っている。下部は石作りだが、上部は木造なのでイメージは昔の小学校とかって感じかな。
通りに面している建物は2つで中央側の建物は食堂兼酒場って感じだ。もう1つの東門側の建物は間口が広く受付が並んでいるので手続きなどを行う場所と思われる。
食堂と受付の建物の裏側は、運動場のような場所になっているっぽい。その脇にもいくつか建物が建っているようだが、ここからではなんの建物なのかはわからない。
運動場の奥には、建物ではなく高い塀が立っておりその向こうは見えないようになっている。
俺達は、冒険者ギルドの受付の建物に向かう。
学校の講堂くらいの大きな建物だか、高さは普通の家と同じくらいだ。
通りに面した部分の壁はほとんどなく、どこからでも入れるようになっている。その代わり雨が降り込みにくいように木で屋根が追加されている。
入ってすぐはロビーのように広く空いて、その奥に銀行のようなカウンターが並んでいる。
カウンターには2種類あるようで、向かって左側(食堂側)に座って対応する椅子付きの場所と、向かって右側(東門側)に立って対応する場所が並んでいる。銀行なんかでもある簡易受付と、相談窓口って感じかな。
ただ並んでる人から見ると椅子付きの方は依頼をする時の受付で、立って対応するのは依頼を受ける時の受付ではないかと思われる。
混んでない時間だと思って来たが結構な人がいる。
冒険者ギルドと言うくらいだから、冒険者の人がいっぱいだと思ってたがここには武器を持った人たちはあまり多くない。ほとんどは非武装の人達だ。商人風の人達に、一般人、たまに剣や槍などの武器を持った人がいるくらいだ。
商人風の人達は、きっと依頼やギルド素材の買い付けなんかに来たんだろう。座る方のカウンターに多くいる。
非武装の一般人風の人達は、入り口にたむろしている。
武器を持っている人達も入り口にたむろしているが、非武装の人達とは違う入り口に集まっているようだ。そういえば、食堂兼酒場の方も武装した人ばかりのようだ。
入ってみると、入り口側にある壁の裏面には、大量の依頼が掲示されていた。
入り口でたむろしてたのは、これを見ていたからのようだ。
こちらにも受付カウンターは複数あり、こっちは依頼の案内をしているようだ。
場所によって依頼の内容が別れているのか、空いている所もあるのに、東門側の依頼の前に多くの人が集まっている。依頼の数もそちらが一番多そうだ。ほかのカウンターには武装している人達が掲示板を見てるので職種別なのかもしれない。
武装する必要のない依頼もあるという事か‥‥ハローワーク的な仕事の斡旋もしてるのかもな。
でも掲示している依頼の数はかなりあるので、選ばなければ仕事はいろいろありそうだな。
ギルド内は、ガヤガヤとうるさく先ほどの案内カウンターでは、最新の依頼の内容などを宣伝している声や、話あっている声が各所で聞こえる。端の方では大声で争ってそうな声も響いているが誰も気にもしていない。
「これが冒険者ギルドか。」
「アリスもはじめて入った。‥‥すごいね!すごいねハルト!」
「そうだね。」
俺が入って来たのは、依頼者側の入り口からだ。
周りがうるさいし、皆目的があってここに居るので、俺達が多少騒いでも気にする奴はいないようだ。
そういえば、冒険者ギルドのお約束がいろいろないみたいだな。
「ガキの来る所じゃないんだ!」とかって絡まれる事も、セクシーな女騎士が現れる事もない。
まあ女の人は結構居るんだけど、非武装の人だけっぽいのでただの職探しに来てる女の人ってだけっぽい。
まあ、ちょっと思ってたのと違うというのはあるが、冒険者ギルドと聞くとやはり感慨深い物があるな‥‥。
ここから俺の冒険が始まる的な。
「買い取りってどこだろね。」
「う~ん。あ!‥‥あれ。」
アリスが指さす方向を見ると、獲物らしき物を持った人が一番奥のカウンタで獲物を出しているのが見えた。
かえるっぽいのかな?
「なるほど。一番奥っぽいね。行ってみるか。」
「うん!」
依頼用のカウンター側は比較的綺麗だったのだが、獲物の受付カウンターに行くほど床は汚れ、臭いもきつくなって行く。
まあ獲物を持ち込んでるので、血や体液が床に落ちるだろうから仕方ないのかもしれない。
獲物のカウンターに行くと、何か揉めているようだ。
「前は大銅貨3枚だったじゃねえか!」
「状態が良くないんだよ。」
言い争っているのは獲物を持って来たらしい若い男の人と、受付のきつい感じの女の人だ。
「あんたねぇ。カエルっていうのは足が3本あるんだよ。あんたのカエルには2本しかないじゃないの。買って貰えるだけありがたいと思いなよ!」
「だから、別に持って来てるじゃねえか!捕まえる時に足に槍が刺さって取れちまっただけだろうか。」
「だからそれを状態が悪いっていってんだよ!」
「肉にすんだから一緒だろうが!しかも前足なんて肉にもしねえだろう!前回も持って来た時同じような状態だったが、大銅貨3枚で買い取ってくれたぞ!」
「前回は前回だよ!これ以上ごちゃごちゃ言うならこっちは買い取らなくてもいいんだからね!」
「うっ‥‥じゃあ、大銅貨2枚は出してくれ。」
「1枚だね。それがいやならとっとと帰りな!」
値段の交渉まであるのか‥‥。
ただ買う側が完全に上から目線なんだよな‥‥あんまり感じがいいとも言えないが、そういうもんなんだろうか?
公的機関って訳じゃなさそうだな。冒険者ギルドって利益団体なのかな?ハローワークっぽい事してるなら、公的機関かもと思ってたけど、安く買い叩く感じの取引風景っぽいよな。
俺のウサギの状態は悪くないはず。ギルドで解体してたハーリさんが見ても状態は良いと言っていたから大丈夫だ。
どっちにしても、子供なので足元見られそうだ‥‥警戒して行こう。
俺達はそのまま遠巻きに成り行きを見守る。
「‥‥くそ。じゃあ大銅貨1枚で‥‥。」
「ほら渡しな。じゃあ1枚な。」
受付の女は、放るように大銅貨1枚をカウンターに投げ置き、渡されたカエルを後ろのテーブルに乱雑においた。
男の人が受付から離れると、男の人の陰に隠れて見えてなかった掲示が見えるようになった。
文字が読めないのでなんとも言えないが、獲物に対する値段表のような物じゃないかと思う。
左側の名前っぽい文字に対応して、金額が書かれている。
・xxxxxxxx 大銅貨3枚
・xxxxxxxx 大銅貨5枚
・xxxxxxxx 大銅貨7枚
・xxxxxxxx 銀貨1枚
文字が読めないのでなんの確証もないけど、値段で当てはめると、
・カエル 大銅貨3枚
・ヘビ 大銅貨5枚
・xxxxxxxx 大銅貨7枚
・ウサギ 銀貨1枚
ってとこかな。
その下にもなんか書かれてるが、注意書きな感じかな。
それ以外の獲物の取り扱いか、先ほどの獲物の損傷での値引きの事が書かれているのかな?
値段の文字だけでなく、他の文字も早めに覚えないとダメだな。
獲物の受け取りカウンターは、立って受付するカウンターの横に、荷物の受け渡しをやりやすいように中への通路がある。
空港のチェックインカウンターのような作りだ。
1つしかないので、ほかのカウンターに回るって訳にはいかなさそうだ。
俺達がカウンターに近づいて行くのに気付くと、受付の女はすごい嫌そうな顔をして、
「目障りだ!ガキがこんな所に来るんじゃない!」
案の定こんな態度か‥‥。
とりあえず見て貰わないと交渉もはじまらないので、
「黒耳ウサギを取って来たので、買い取ってください。」
「あ~!うるせえよ。帰れって言ってるのが判らないのか!忙しいんだよこっちは。」
忙しいって‥‥俺の後ろ誰も並んでないし、あまりにもの態度だなぁ~。
まさに、聞く耳持たないって感じ。
俺はマントの中から黒耳ウサギを出して荷物の受け取りする通路に置いた。
「‥‥。」
受付の女は何も言わずに、俺のウサギをひったくるように腕を伸ばして来たが、そうされる可能性は分かってたので、素早く引っ張りウサギを手元に戻し抱きかかえた。
「渡しな!ガキが持ってていいもんじゃないよ!」
俺はもう一度繰り返す。
「黒耳ウサギを取って来たので、買い取ってください。」
「ガキが‥‥先にそれを渡しなって言ってんだよ!」
「いくらで買い取ってくれますか?」
「銅貨1枚だよ!」
「それは、本気で言ってます?」
「あ~。分かった‥‥大銅貨1枚でいいだろ。さっさと渡しな。」
「最低でも銀貨1枚でなけれは、売る気はありません。」
「ガキのくせに何言ってるんだ!いいからさっさと渡せって言ってんだろが!」
再度受付は、手を伸ばしウサギと取ろうとするが、俺はカウンターから少し距離を取り、手が届かない所まで逃げる。
「買い取って貰えないって事でいいんですね?」
「買い取るって言ってんだろ!わ・た・せ!」
「じゃあ、銀貨1枚で買い取って貰えるって事でいいんですか?」
「あ~くそ‥‥面倒くさいガキだな。物を見てから値段決めるからとりあえず渡せ!ガキがイラつかせるんじゃないよ!」
そう言われると、嫌な展開になるなぁ。
ウサギをしっかり持たれたら、力では負けそうなんだよな。
でも、さっきの人のカエルは物を手に取らずに値段決めてたしな‥‥この人信用出来そうもない。
諦めて自分で解体して皮だけ売る方向に持って行くのもありだけど、冒険者ギルドに出せれば多少目減りしたとしても、解体せずにお金だけ稼げる。大分と手間が省けるはずなんだよな。
だからって渡したら無理やり奪われて、大銅貨1枚いや下手したら無料で奪われる可能性もあるか。
「ウサギを渡したら、大銅貨1枚で強引に買い取りって事にされたりしないですよね?」
「ウザイ浮浪児だ!査定して渡してやるから、こっちに渡せ!」
本来ならこういうのはこちらが信用しないと、向こうも意固地になってしまう。
なのでここは一度信じて渡してしまうのがいいのかも‥‥って信用できる訳ないか。
銅貨1枚とか、浮浪児とかバカにしておいて信用もなにもないな。
俺はウサギを持ち上げて、正面、背面、両横、上方下方と見せてから、
「傷はない。」
「いいから寄越せって言って行ってんだよ!」
「話にもならない‥‥。まともに買う気もないのか‥‥。ギルドってもう少しまともな所だと思ってたんだがな。」
「何言ってんだ!金払うから寄越せっていってんだろ!」
信用できね~。ロベルトさんと一緒にもう一度来るか‥‥いやそうなるとロベルトさんが居ないと売る事もできなくなる。
‥‥ハーリさんに皮屋を紹介して貰って、自分で解体かな。
「アリス帰ろう。」
俺は、ウサギをマントの中に入れ直し帰る支度を始めると、中の女は興奮して喚き始めた。
「おい!浮浪児!どこに行こうってんだ!!ウサギ出せよ!」
「金も払わない奴に、なんで獲物だけ渡さないといけないんだ?買って貰えないならこっちで解体して食うよ。」
「はぁ、浮浪児なんかが食っていいもんなわけないじゃないか!このガキの癖にあたしに逆らったらどうなるかわからせてやろうじゃないの!」
そう言いながら、カウンターから外に出てこようとしている。




