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無限の魔法使い  作者: 志野 勇希
6.エスデスク王国
203/223

6-37


「なるほど・・・。

その亜人と言うのが、北の大森林に住んでいて、

不可侵の条約を結んでいるという事ですね。」

「ああ。そうじゃ。」


「では、最近北の開拓村についての話を聞きましたか?」

「魔獣が出て、街道が通れなくなったので、

騎士団を出したと言う話は聞いているが・・・。」

「ええ。その通りです。どれくらいの魔獣が出たかは知ってますか?」

「いや、そこまでは知らぬな。」

「ポスタリアの分岐点から、北の開拓村周辺まで、びっしりと魔獣が現れました。

数にしたら、数万匹です。」

「なんと!街道に魔獣が現れるのだけでも聞いた事ないのに、それほどとは!

と言う事は・・・。」

「騎士団も100人ほど出ていましたが、ほぼ壊滅状態でした。」


「それだけ居たのであれば、その数ではそうじゃろうな。

それだけの魔獣が出ているのであれば、開拓村の方はもう全滅しておるのか・・・。」

「いえ。それについては、町も街道も安全になってます。」

「どういう事じゃ?」

「まあ、とりあえずは安全になったって事です。」

「状況を詳しく。」

「隠すほどの物でも無いのですが、こちらの質問にも答えていただけますか?」

「ああ、何でも聞いてくれ。答えられるものは答えよう。」


「で、聞きたい事と言うのはその原因です。

亜人と交わした条約と言うのは、どういった内容なのでしょう?」

「不可侵の条約のみじゃ。人間は大森林には入らないし干渉しない。

逆に亜人も大森林よりも南に出てこないし、干渉しないと言う物じゃ。」

「開拓村は、大森林への侵入にはならないですか?」

「・・・なるのじゃろうな。警告していたのだが、何かが起こるとは思っておったのじゃ。

それにしても、魔獣の大量発生とは・・・。」


「なんで、そうなると分かってて開拓村を作ったんでしょう?」

「・・・聞きたい理由を教えて貰ってもいいか?」

「理由はいくつかあるんだけど、1番の理由は北の開拓村を全滅させたくないので、

王国側の意図が知りたいと言う事ですね。」

「・・・そうか。亜人とは条約が結ばれており、その時の文章も残っておる。

この条約が結ばれるまで、亜人と人間は戦争を行っていたらしい。」


「ん?魔獣よりも魔力の高い亜人と、人間が戦えてたって事ですか?」

「うむ。原因は分からんらしいが、人間は代を重ねる度に魔力が減るとの話じゃ。

それに・・・300年ほど前らしいが、高位の魔術師達は粛清され、

数も技術も失われてしまったそうじゃ。」


と言う事は、その頃の人間は、魔獣に匹敵する程度の魔力は持っていたという事か。

確かに、イヌサヌの資料にも、魔獣を簡単に狩ってたような記述があったし、

イヌサヌの家も、魔獣の森の中だった。

世代を重ねる事で、魔力が減って行ったのか。

その上、粛清とかって・・・。


「人間側の戦力が弱まっても、亜人は条約を守ってくれていたって事ですか?」

「意図して守ってるのかどうかは知らんが、結果的にはそうだな。」


多分、戦争が起きるような状況で結ばれた、不可侵条約なんてものは、

国力が均衡しているからこそ、効果が発揮される。

それが、片側の国力が低下しているのに、守られてるという事は、

亜人側に、攻める事が出来ない事情が出来たとかかもしれない。

ただ、亜人が人間と同じ考え方をするのかどうかは分からないので、

一概には言えないだろうが・・・。


「魔術師の粛清があった頃から、王国の北進政策が始まった。

魔獣を狩り、木を切り倒して、道を作り、町を作った。

アイカより北の町や農村、畑などはその頃から作られて行っているようだ。」

「かなり前から、条約は守られて無かったって事ですか・・・。

亜人は守ってるのに、人間は守ってない。

一方的に悪いのは人間じゃないですか。」


「・・・確かにその通りじゃ。

ただ、そもそも条約に対して懐疑的な意見が多くての。

かなり大昔の条約である事もそうじゃが、亜人の存在自体を疑う物も多い。

大昔の王国が、貴族間のいざこざを抑える為に作った、亜人と言う架空の存在が、

今も残っているのではないかと言う奴もいる。」

「なるほど・・・。

都合よく解釈しているだけの可能性もあるけど、亜人の存在が不明なら、

確かに条約の有無が疑われるのも分からなくもないな。」


俺は、このマトスと言う人が、俺と話がっていた意味に思い当たった。

「・・・なるほど。

それで俺が亜人なら、何らかのコンタクトを取りたかったと・・・。」

「開拓村の魔獣の話は知らなかったので、亜人が視察に来たのではないかと思たのじゃ。

もしくは、何らかの警告に来たのではないかとな。」


「・・・宰相を辞めた人間が、どうしてそこまで気にするのか、

何を目的にしているのかとか、あなたの立場と言うのは少し気になる所だけど・・・、

まあ、せっかく情報提供してもらったので、俺の方も情報を返しておきますね。」

「ああ。」

「魔法を見る事は出来ますか?」

「ああ、出来るぞ。」

マトスさんは、目に魔力を集めている。


「な!!なんという魔力だ。」

「まず見て貰わないと、俺の話は信じて貰えないでしょうから。」

「まさか、開拓村の安全を確保したと言うのは・・・。」

「ええ。俺が街道周辺と、町の周辺は狩っておきました。」

「それだけの魔力をどうやって・・・。それに、料理や鎧もお前なんじゃろう?」

「まあ、そうなんですけど・・・。その質問には答えるつもりはありません。」

「・・・そうか。」


「で、王国としてはこれからどうするのか教えて貰えますか?」

「・・・北へ開発を進めて行く計画は、そのまま進むじゃろうな。

お前が、魔獣を全部狩ったと言うのなら、なおさら危険視もせずに進む事になるじゃろう。」

「・・・確かに。ただ、森の中までは狩ってないので、

また溢れて来て来るかも知れないんですけどね。」

「王国内部も荒れて来ておる。大きな戦乱になるのかもしれんな。」


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