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「なるほど・・・。
その亜人と言うのが、北の大森林に住んでいて、
不可侵の条約を結んでいるという事ですね。」
「ああ。そうじゃ。」
「では、最近北の開拓村についての話を聞きましたか?」
「魔獣が出て、街道が通れなくなったので、
騎士団を出したと言う話は聞いているが・・・。」
「ええ。その通りです。どれくらいの魔獣が出たかは知ってますか?」
「いや、そこまでは知らぬな。」
「ポスタリアの分岐点から、北の開拓村周辺まで、びっしりと魔獣が現れました。
数にしたら、数万匹です。」
「なんと!街道に魔獣が現れるのだけでも聞いた事ないのに、それほどとは!
と言う事は・・・。」
「騎士団も100人ほど出ていましたが、ほぼ壊滅状態でした。」
「それだけ居たのであれば、その数ではそうじゃろうな。
それだけの魔獣が出ているのであれば、開拓村の方はもう全滅しておるのか・・・。」
「いえ。それについては、町も街道も安全になってます。」
「どういう事じゃ?」
「まあ、とりあえずは安全になったって事です。」
「状況を詳しく。」
「隠すほどの物でも無いのですが、こちらの質問にも答えていただけますか?」
「ああ、何でも聞いてくれ。答えられるものは答えよう。」
「で、聞きたい事と言うのはその原因です。
亜人と交わした条約と言うのは、どういった内容なのでしょう?」
「不可侵の条約のみじゃ。人間は大森林には入らないし干渉しない。
逆に亜人も大森林よりも南に出てこないし、干渉しないと言う物じゃ。」
「開拓村は、大森林への侵入にはならないですか?」
「・・・なるのじゃろうな。警告していたのだが、何かが起こるとは思っておったのじゃ。
それにしても、魔獣の大量発生とは・・・。」
「なんで、そうなると分かってて開拓村を作ったんでしょう?」
「・・・聞きたい理由を教えて貰ってもいいか?」
「理由はいくつかあるんだけど、1番の理由は北の開拓村を全滅させたくないので、
王国側の意図が知りたいと言う事ですね。」
「・・・そうか。亜人とは条約が結ばれており、その時の文章も残っておる。
この条約が結ばれるまで、亜人と人間は戦争を行っていたらしい。」
「ん?魔獣よりも魔力の高い亜人と、人間が戦えてたって事ですか?」
「うむ。原因は分からんらしいが、人間は代を重ねる度に魔力が減るとの話じゃ。
それに・・・300年ほど前らしいが、高位の魔術師達は粛清され、
数も技術も失われてしまったそうじゃ。」
と言う事は、その頃の人間は、魔獣に匹敵する程度の魔力は持っていたという事か。
確かに、イヌサヌの資料にも、魔獣を簡単に狩ってたような記述があったし、
イヌサヌの家も、魔獣の森の中だった。
世代を重ねる事で、魔力が減って行ったのか。
その上、粛清とかって・・・。
「人間側の戦力が弱まっても、亜人は条約を守ってくれていたって事ですか?」
「意図して守ってるのかどうかは知らんが、結果的にはそうだな。」
多分、戦争が起きるような状況で結ばれた、不可侵条約なんてものは、
国力が均衡しているからこそ、効果が発揮される。
それが、片側の国力が低下しているのに、守られてるという事は、
亜人側に、攻める事が出来ない事情が出来たとかかもしれない。
ただ、亜人が人間と同じ考え方をするのかどうかは分からないので、
一概には言えないだろうが・・・。
「魔術師の粛清があった頃から、王国の北進政策が始まった。
魔獣を狩り、木を切り倒して、道を作り、町を作った。
アイカより北の町や農村、畑などはその頃から作られて行っているようだ。」
「かなり前から、条約は守られて無かったって事ですか・・・。
亜人は守ってるのに、人間は守ってない。
一方的に悪いのは人間じゃないですか。」
「・・・確かにその通りじゃ。
ただ、そもそも条約に対して懐疑的な意見が多くての。
かなり大昔の条約である事もそうじゃが、亜人の存在自体を疑う物も多い。
大昔の王国が、貴族間のいざこざを抑える為に作った、亜人と言う架空の存在が、
今も残っているのではないかと言う奴もいる。」
「なるほど・・・。
都合よく解釈しているだけの可能性もあるけど、亜人の存在が不明なら、
確かに条約の有無が疑われるのも分からなくもないな。」
俺は、このマトスと言う人が、俺と話がっていた意味に思い当たった。
「・・・なるほど。
それで俺が亜人なら、何らかのコンタクトを取りたかったと・・・。」
「開拓村の魔獣の話は知らなかったので、亜人が視察に来たのではないかと思たのじゃ。
もしくは、何らかの警告に来たのではないかとな。」
「・・・宰相を辞めた人間が、どうしてそこまで気にするのか、
何を目的にしているのかとか、あなたの立場と言うのは少し気になる所だけど・・・、
まあ、せっかく情報提供してもらったので、俺の方も情報を返しておきますね。」
「ああ。」
「魔法を見る事は出来ますか?」
「ああ、出来るぞ。」
マトスさんは、目に魔力を集めている。
「な!!なんという魔力だ。」
「まず見て貰わないと、俺の話は信じて貰えないでしょうから。」
「まさか、開拓村の安全を確保したと言うのは・・・。」
「ええ。俺が街道周辺と、町の周辺は狩っておきました。」
「それだけの魔力をどうやって・・・。それに、料理や鎧もお前なんじゃろう?」
「まあ、そうなんですけど・・・。その質問には答えるつもりはありません。」
「・・・そうか。」
「で、王国としてはこれからどうするのか教えて貰えますか?」
「・・・北へ開発を進めて行く計画は、そのまま進むじゃろうな。
お前が、魔獣を全部狩ったと言うのなら、なおさら危険視もせずに進む事になるじゃろう。」
「・・・確かに。ただ、森の中までは狩ってないので、
また溢れて来て来るかも知れないんですけどね。」
「王国内部も荒れて来ておる。大きな戦乱になるのかもしれんな。」




