16.地下部屋改装
とりあえず、トイレを作ってみようか。
いままで、町中でのトイレは路地にそのままだった。
町の外では、草むらに穴を掘ってそこにしている。
この地下で普通にするには、確実に臭いが籠ってしまう。
汲み取り式のトイレって感じの物を作れればマシなはずだよな。
トイレから真っ直ぐ穴を掘るだけでは、臭いはそのまま上がってくる。
なので、トイレ用の個室を作り、そこから斜めに穴を掘って、排泄物を溜める場所を作る。
それだけでは臭いが籠るとダメになるので、臭いの逃げ道を作る。
空気穴も排気口だけではダメなので吸気口も作る。
さらにトイレから斜めになると、途中が汚れるのでトイレしたら水を流したい。
となると、簡易水洗にしたい所だが‥‥そこまでは難しいかな。
今日できるところまで作ってしまおう。
トイレ用の部屋を作って、そこから斜めに穴を開けながら降りて行く。
俺の体で、5つくらい降りた所で、広めの部屋を作る。
ここに排泄物が溜まる。
ただ、部屋が平坦だと落ちて来てそのまま積みあがってしまうので、部屋自体を傾けて作る。
奥が一番低くなるように作って、奥に溜まる様にする。
後は空気穴なんだけど、天井に開けるのではなく、この部屋から外直前までの階段を2つ作る。
思えば、この場所の深さってかなり深い場所にあるので、直接天井に穴を開けても多分10メートル以上の細い空気穴を作らないといけない。
でもそんな長い細い穴を真っ直ぐ開けるのは難しそうだったので、外直前まで階段を作って最後に外に出る直前にだけ細い穴にしてみた。
これを2つ作って、吸気と排気の代わりにする。
臭い対策のつもりで吸排気作ったけどそれよりも、メタンガス対策って方なのかもしれない。
換気扇でも付けるなら臭い対策にもなるけど、それが無かったら臭いの対策は、水洗にするしかないだろうしな。
これで、なんちゃって浄化槽もできたので、トイレ用の個室に戻りながら管のように浄化槽側の通路を細いパイプのように、滑りも良いように内側を滑らかに加工していく。
個室には、土を加工して便座チックな物を作った。
水洗トイレを作りたかったんだけど、水が必要だし作りも複雑で時間がかかりそうなので、今は一旦椅子だけの汲み取り式にしておいた。
後は、葉っぱだけ補充すればトイレとしては使えそうかな。
扉を作りたかったんだけど、扉って木とかで作らないと行けなさそうなのでこれも後回し。
してる所が見えるのも嫌だから、土壁でパーティションを作って見えないようにした。
トイレだけ作れば、外に出なくても過ごす事ができるだろう。
今日の所はここまでで十分だろう。
「お待たせ。」
「さっき言ってた、トイレするところ作ったの?」
「そうだよ。これで待ってる間に外に出る必要はないので安全だよ。」
「う~ん。わかった‥‥。ハルト‥‥眠くなってきた。」
「え?う~ん。お昼寝させてあげたいけど、もうそろそろ戻らないとダメなんだよ。」
「眠いよ‥‥。」
どうしよっかな‥‥。でも、早めにギルド行かないと危なくなるかもだしな‥‥。置いて行く訳にもいかないし、町に戻ったら路地で待ってもらうか。
「アリスごめんね。ここは頑張って。」
「‥‥うん。」
おぶって寝かせて連れて帰ってあげたい気もするけど、俺の体力では難しい。
アリスが地下部屋から出た所で、地下部屋への入り口を閉じる。
回りから土を集め階段部分を固めた土で塞ぐ。その上にまわりの土を乗せわかり難くする。
雑草までは生えないので、完全に隠蔽できたわけではないけどまあ十分か。
先ほどの血抜きでほっておいたウサギを回収する。
部屋の作成中もサーチで周りに獣や人など来ていないのを確認していたので、大丈夫なのは分かってたけど、ウサギの臭いに引かれて獣が来る可能性が高かったのかもしれない。
右手でウサギの足を掴んで逆さまに背負い、もう片方の手はアリスと手を繋いで川沿いを、南門に向かって行く。
地下部屋の入り口から、直進で南門に向かえば30分くらいで南門に着くだろうけど、道なき道を歩く感じになってしまう。
川沿いにも道があるわけじゃないけど、直線で行くよりもまだ歩きやすいと思う。
時間は、きっと午後1時頃かな。
太陽は中天にあり天気も良く、川もキラキラと光っている。
川の向こう側には、街道が見える。
アリスは、眠い目を擦りながら俺に手を引かれて歩いている。
アリスは水浴びして髪も切ったので、見違えるほど綺麗になっている。
ただ顔や体はガリガリだし、服装は穴だらけの服だし丈も短い。
「ハルト。」
「なに?」
「さっきの所で住まないの?」
「その日の内に町に戻らないと、町に入るのにお金が掛かるんだよ。なのでそのお金が稼げるようになるまでは町暮らしになるかな。」
っと、そういえば入町金っていくらなんだろう?
商人の人や、冒険者的な人、農村の人が町に品物を売りに来た時とか、毎回払っているだろうからそんなに大した金額じゃないだろうけど、ロベルトさんに確認してみよう。
「お金かいるんだ‥‥。」
「そうだね。なのでいっぱい狩りしてお金を稼がないとだね。」
「アリスも狩りする。」
「いや。アリスは狩りしなくても大丈夫だよ。危ないしね。」
「ハルトだって、危ないのに狩りしてるじゃないの。」
「俺は‥‥魔法で狩りしているから危なくないんだよ。」
「じゃあ、アリスも魔法で狩りする!」
それを言い出されると困ったな。
ただ否定するだけじゃあ、反抗するよな‥‥他の何かをお願いする方向かな。
「魔法かなり使うから、アリスには難しいかな。できればアリスには他の事やってほしいかな。」
「‥‥他の事って?」
「う~ん。トイレの葉っぱ集めてもらったり、木の実なんかの獣以外の食べ物を集めて貰ったり‥‥後は、解体もしてほしいかも。」
「解体?」
「俺が獣を狩って来るから、アリスはそれを解体して、肉と皮にしてほしいかな。それを料理して2人で食べよう。」
「料理!アリス料理作る!アリス料理得意なのよ!前にね、お母さんと一緒にスープ作ったの!」
「そうなんだ。アリスは料理ができるんだ。」
そういえば、アリスは農村生まれで親を亡くして孤児院に来たんだっけか。
とは言え、余り火を使ったりはさせられないから一緒に料理する感じかな。
「りょうっり!りょうっり!」
川沿いから街道へ出てもうすぐ南門と言う感じの場所で、すっかり眠気も冷めたのか、アリスは俺の手を離して元気よく跳ねて俺の前を歩きだした。
天気の良い中で飛び跳ねるアリスの赤い髪が、炎のように煌めいている。
アリスと2人で、街道を歩き南門が見えて来た。
さっき、ケニーさんに貰ったお金で現在の所持金は、
・銅貨6枚
・大銅貨11枚
銅貨1枚100円換算だと、1万1千600円か。
1日3食で600円程度だとしたら、21日生活できる程度にはなるか。
遠目にも、ロベルトさんが門番をしているのが見える。
ウサギの扱いは、少し難しい感じになる。
門に入る時には手で持っている必要がある。
これはギルドで売る為にはどこで取ったのか聞かれるのではないかと思っている。
5歳の子供が銀貨1枚(1万円相当)の商品を販売するのに、どうやって手に入れるのか聞かれるは当然かなと。
その時に「南の森で取った。その証人として南門の門番がいる。」と言う流れに持って行きたい。
ロベルトさんなら、実物を見ていたのなら正しい証言をしてくれると思う。
今度は町に入った後、子供がウサギなんてお金にな物を持っていたら、奪おうとするやつはいくらでも出てくるだろう。
その為に目につかないようにする必要がある。
ヘビのように、亜空間に入れてしまえば良いんだけど、南門の段階で持っていたのにギルドまでは手ぶらって言うのも怪しまれる可能性がある。
そこまでギルドが調べるのかと言うと、考えすぎな気がしているが‥‥。
なので門で確認してもらったあと、マントの内側にウサギを隠してギルドまで行こう。
手ぶらではなく、でもウサギだとばれないように‥‥。
マントも穴だらけで多少見えるが、子供がウサギを持っている事なんてないと思っているので、明らかにウサギとわからない限りは奪われないんじゃないかと思っている。
ギルドまでたどり着いたら、今度はギルドで貰ったお金を守らないとダメなので、人が多くなる夕方までに行って、素早く換金してしまおうと思っている。
換金後はすぐに移動して路地に逃げ込む感じかな。
長く追いかけてまで奪うほどの金額でもないので、見失ったら諦めるだろう。
どうせお金は亜空間に入れるので、手持ちは無いし、人気のない路地まで追って来るなら返り討ちにしてもいいかも。
南門に着くと、ロベルトさんが声をかけてきた。
「おいおい、本当にまた取って来たのか‥‥。どうなってるんだ?」
「いえ、まあ偶然ですよ。」
「偶然って‥‥。大量に繁殖でもしてるとかか?」
「そんな事はないと思いますけど‥‥。偶然巣穴を見つけたんで狩ったんです。」
「‥‥そうなのか?」
「はい。」
怪しまれても、狩って来て物があるのは変わらないので、盗んだとか、奪ったとかを疑われなければ問題はないだろう。
魔法使ったと疑われる事もないはず。
魔法は生まれた時の才能で、成長する事はないとされている。
俺は孤児院で計られたのだが、全住民は魔力量が測定がされているはず。
そして魔力量があるとどこかに連れて行かれる事になっている。
その時は連れて行かれる子がかわいそうと思ってた気がするが、きっと魔力のある子を選別して引き取るんじゃないかな。
兵士として使うのか、魔法を使った雑用とかさせるのかはわからないけど、浮浪児よりもいい生活になっているんだろう。
「そっか。どうやって狩ってるのか知りたい所だが、そういうのは秘密にしないとだもんな。」
「わかっていただけると助かります。」
「そのウサギは、冒険者ギルドで売るのか?」
「はい。そのつもりです。」
「あそこに持って行くなら気を付けていけよ。子供が持って行ったら奪われる事もあるからな。そうだな‥‥午後3時まで待ってくれれば一緒に行ってやってもいいぞ。」
それは渡りに船の提案だ‥‥けど今回は俺達だけで行こう。
「心配してもらってありがたいんですけど、俺達だけで行きます。これからも獲物狩るたびに付いて来てもらう訳にもいきませんから。」
「まあ確かにな。過保護なのも良くないか。」
そう言いながら、小屋のカウンターに置いてある、町から出たリストにチェックを付けて門の中に入れてくれた。




