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それにしても、貴族がこんな所まで出て来るのか・・・。
ブルーノの町の、平民街まで出るのも驚きだったが、
町を出て護衛2人で歩いて外に出るなんて思ってなかった。
まあ、敵意は無さそうなので、問題は無いとは思うが・・・。
それに、ケニーさんとしては、貴族とのつながりは欲しいだろうから、
ここは任せて大丈夫だろう。
何かあったら、すぐに手を出すつもりだけどね。
ブルーノの町の貴族につながりが出来れば、メリットはある。
今すぐにと考えてる訳では無いが、こっちで商売は始めやすくなる。
ただ、税金の高さを考えると、結局は平民相手よりも貴族相手の商売になりそうだな。
税金が高いからと平民相手で、金額を上げても払えないだろうし、
あそこまで貴族が出て来ているのに、貴族の相手をしない訳にもいかないだろうしな。
今のケニー商会の商品で、貴族に売れそうな物はそれほどない。
露店で出しているような料理は、高額の料理にして、ケータリングか配達って感じかな。
今回の貴族が気に入ってくれれば、足掛かりにはなるかもしれない。
鎧などの装備については、護衛が居るから売れるかも知れないが、
女性専用の今の売り方ではダメかもしれない。
薬剤系としては、回復薬とかは使わないだろうから、
売れるとしたら精力剤系と、病気の治療系、痛み止めなどの対処的な薬か。
この中で、すぐに貴族相手に売れそうな物と言ったら、精力剤か・・・。
精力剤は、イヌサヌの薬剤本に載っていたし、作る為の素材も難しい物は使わない。
ちょっと危険で習慣性のある薬も混ざったレシピだったが、内容を見る限り効きそうだ。
老貴族の人は、シカ肉焼きを一口サイズに切った物を頬張りながら、
「これは・・・シカの肉か、何とも丁重に下ごしらえをしているようじゃな。
臭みが全くと言うほど無い。
それに・・・これは薬草か?。食事に薬草を入れると、こんなに複雑な風味が!」
「さすがでございます。よくぞお分かりになりました。」
「まあ、伊達に年は食っておらんて。しかしこれほどの物とは思わんかった。
この料理だけで言うと、我が家の料理など比べ物にならんほどうまいな。」
「他にも、海の幸もありますので、いかがでしょうか?」
「うむ。」
魚のホイル焼きだ。
魚と野菜をホイルに入れて、バターと塩とハーブで味付けし、蒸し焼きにしたものだ。
魚がふっくらと、焼き上がりバターとニンニクの香りが鼻を衝く。
骨があるので、実をほぐし、骨を取り除き皿に移してて出してあげる。
「ほう。これは良い香りじゃな。!!これは・・・なんじゃ・・・。魚か。」
「新鮮な魚を、バターと言う香りの良い油と、ニンニクで蒸した料理です。」
「柔らかく、味が良くしみておる。それとこの香りの物はなんじゃ?」
「そちらがバターと言う油にございます。」
「聞いた事ないな。」
「はい。我が商店のみが取り扱っている、秘伝の調味料の1つになります。」
「なるほどのぉ・・・。この調理方法も初めてじゃの・・・。
年取って、それなりに物事を知っておるつもりでおったが・・・。
まだまだわしも知らぬ事が多いの。」
「我が商店だけの調味料に、調理方法ですので、他では味わう事は出来ませんので、
ご存じ無いのも仕方がありません。」
老貴族は、目の前のパンの前に並べられた器を見て、
「これは、なんじゃ?」
「そちらは、スプレッドと呼んでいるのですが、お好みでパンに付けて食べる為の物です。
左から、レバーペースト、ハーブバター、ガーリックバター、
ハチミツ、アップルジャムになります。」
「ふむ。」
ケニーさんは、ガーリックバターを一つ付けて差し出す。
「いろいろと好みで付けて、いろんな味を頼む事が出来るのです。
こちらの2つは、甘い味になります。」
「なるほど、自分で付けて食すのか。」
老貴族は、それぞれを一通り食べ、それぞれを評価して行った。
「これは、楽しいな。
パン自体も旨い上に、このスプレッドと言う物で、いろんな味が楽しめて飽きないな。」
老貴族は、満足してくれたようだ。
「ケニー。うまかったぞ。」
「ありがとうございます。」
「これを作ったのは、そちらの料理人か?」
「はい。マディと言います。」
「素晴らしい料理じゃったぞ。我が家の料理人として、雇いたい所じゃが・・・。
ケニーの所から引き抜く訳にはいかぬかな?」
「申し訳ありません。そればっかりはお許しください。」
「じゃろうな。」
マディが、さらに説明をする。
「この味は私1人で作っている訳ではございません。
狩った獲物の血抜きの方法から、解体、熟成、調味料、専用の調理器具に至るまで、
分担で作業をしています。
私1人では、この味を出す事は出来ません。」
「はい。ケニー商会の仲間がそろって初めて、この料理が作れるのでございます。」
「ほう。なるほどのう。じゃが、うちの料理人にもこの味を一度食わせてみたいのぅ。
ケニー、ブルーノへの滞在はいつまでじゃ?」
「拠点の確保は出来ましたので、本日出発を予定しておりました。」
「ふむ・・・そうじゃのう。
出発を1日伸ばして、明日の昼食を作りに来る事は出来んか?」
「はい。出発を遅らせる事は出来ますが・・・。
食事を作るとなると、少し準備が要りますので、明日朝からお伺いする事になりますが、
よろしいでしょうか?」
「もちろんじゃ。お前の所の商品は料理だけか?」
「いえ、他に薬剤と、防具もやっております。」
「防具とな?」
「はい。ただ、女性専用の防具になります。」
「女性専用とは・・・お前の女好きは、売り物までとは・・・。くははは!」
貴族は、楽しそうに笑い出した。
ケニーさんは、誤解なんだけど、かわいそうに言い訳は出来ない感じになってしまってる。
「良いのぉ。そこまでこだわってるのなら、見せて見よ。
料理にもこれだけこだわってるのなら、防具にもこだわってるおるのだろ?」
「はい。それはもちろん。では、明日防具の方もお持ちさせていただきます。」
「うむ。待っておるぞ。明日の朝そちの所に迎えをやる。
泊っている場所はそちらの者に説明しておいてくれ。」
「はい。」