6-30
曲が終わって、途切れたタイミングで、
「楽しそうな会じゃな。」
さっき歩いてた人がこっちに来てしまったようだ。
来る所は見てたのだが、声をかけてくるとは思わなかった。
歌ってる最中だったのもあって、タイミングが悪かったと言うか、
タイミングを見計らわれていたと言うか・・・。
あからさまに逃げる訳にもいかなかったという感じだ。
護衛を2人連れた、貴族だった。
かなり高齢の貴族のようだが、体つきは比較的がっしりしてる感じだ。
夏真っ盛りなので、ずいぶんと薄着をしている。
薄着過ぎるので、貴族のランク的にはそんなに高そうには見えないな・・・。
俺は、すぐにジャック、アリス、ミーアを引っ張って、
クシェルの後ろに隠れるように移動する。
ケニーさんは、前に出て膝を付き、貴族に対する礼を行う。
俺を含めた子供達以外は、それに習い礼の姿勢を取る。
男1人に、後は女子供だけなので、護衛の方もそれほど警戒はしていないようだ。
俺自身も、5歳の子供でしか無いので、警戒対象には入ってないだろう。
相手の出方次第では、戦闘になる可能性も無くは無いので、
俺はクシェルの陰に入って警戒する。
貴族は、俺達を一通り見まわして、
「かしこまらずとも良い。わしは引退しておる身だからの。これは何の宴だ?」
「は。恐れながら、私の商会の仲間と食事をしておりました。」
「商会とな?お前は商人なのか?」
「はい。ケニー商会の会頭のケニーと申します。」
「ほう。ケニー商会か・・・。最近噂に聞く商会だったか。
確かアイカの商人じゃなかったか?」
「良くご存じで・・・。」
「アイカで、温かい料理を露店で出していると聞いて、興味があったんじゃよ。
して、ブルーノにはなんの用じゃ?」
「貴族の方に興味を持たれるとは、光栄でございます。
ブルーノには、調査と拠点の開設に来させていただきました。」
「拠点とな?と言う事はブルーノで商売を始めるつもりと言う事か?」
「その検討を行ったおります。ただ、まだ我々ば貴族の方々に向けた商品は少ないので、
始めるとしても、こちらの平民を相手にした商売になるかと思います。」
「そうか、露店をやるのか?」
「まだ、状況を見ながら決めようと思っております。
ブルーノの町では、税金や工場にお金がかかりますので、
どれくらいの金額で売れるのか次第になります。」
「なるほどのぉ。」
貴族は、改めて俺達を見て、
「ケニーよ。美しい女子ばかりじゃな。」
「ありがとうございます。これらは私の商売仲間にございます。」
「商売仲間か・・・。子供まで連れて旅をしておるとは珍しいの。」
そういえば、俺達は亜空間から移動しているので、荷車もないのに、
結構な設備で、バーベキューをしている。
しかも、アイカからブルーノの町まで旅して来てるのを装ってるのに、
それにしては軽装過ぎる。
これは突っ込まれる前に、荷車を岩陰にでも出しておいた方が良さそうだな。
「今回は、ブルーノの町がどういった所なのかを調査しに来ただけですので、
荷物も少なくして、子供達も連れてきました。」
「それにしては、護衛も連れてないとは不用心だな。」
「護衛は、そちらの3名が護衛になります。
今は泳ぎの練習の為、このような恰好をしていますが・・・。」
「護衛も女なのか、徹底しておるの・・・。
ケニー商会の会頭が、これほど女好きだったとはな。」
「あ・・いえ、そう様な事は・・・。」
ケニーさんは、頭を掻きながら困った顔をしてる。
全部、妾で子供が4人か・・・言われても仕方ないよな。
「まあよい!男が女好きで悪い事なぞ、なにもない。
それよりも良い匂いじゃな。」
「はい、平民の料理でよろしければ、いかがでしょうか?」
「良いのか?」
「はい。アイカでも騎士団の方々にもご好評いただいております。
ただ、恐れながら貴族の方へお出しする準備がございません。
無作法になるかと思いますが、よろしいでしょうか?」
「気にせんよ。わしも若い頃は野営なども行っておった、懐かしいではないか。」
「はい。ではすぐにご用意します。
リルは、席をお作りしてください。マディは料理をお願いします。」
「はい。」
俺達が食事を食べていたテーブルの上を、片付けてクロス代わりの布を敷き、
食器をセットして行く。
持ち込んだ食器は、木の物しか無いのでこれは仕方ないだろう。
俺達は、箸を使って食べてるんだけど、そういう訳にはいかないだろうから、
箸を1本だけ用意して、それで刺して食べて貰う事にする。
食事は、1口サイズに切り分けて、皿に盛るスタイルにする。
スープ系も木の器なんだが、こちらはスプーンを付けている。
パンは、バスケットに入れて手づかみだ。
手洗い用の、フィンガーボールも用意している。
貴族の食事の準備をリルが行っているうちに、俺は子供達とクシェル達を連れて、
岩陰に入り、亜空間を出し家に行って貰う。
その陰に、荷車を2台出して偽装を行っておく。
クシェル達には、着替えて貰ってすぐに戻って来るようにお願いしてる。
水着のままと言うのもあれだし、護衛として紹介しているので問題はないだろう。
長引くようなら、リルとマディも戻してあげたいんだけどな・・・。
俺はそのまま岩陰に隠れて様子を見る事にする。
後は、すべてケニーさん任せよう。