15.地下部屋
ふぅ・・。なんか疲れたな。
狩った物を売っただけの会話なんだけど、身の危険のある相手に、相場のわからない物を売ったって言うのは緊張するな。
情報もできるだけ引き出さないといけなかったし、アリスも守らないとだし‥‥。
ちょっと対人用の魔法とかも考えて、練習しておかないと危ないかもだな。
「びっくりしたね。でもハルト!すごいね!お金貰ってた!」
アリスは、お金がもらえた事に大興奮だ。
「ねえ、ハルト。」
「ん?」
「ヘビ売れたんだよね?」
「そうだよ。」
「このヘビ持って行かないの?」
ああ。アリスはヘビの頭渡したの見てなかったのかな?
「ヘビの頭だけ売れたんだよ。」
「頭だけなの?」
「そうだね。頭だけ。」
「じゃあ、このヘビはどうするの?」
確かに‥‥どうしようか。
頭だけで1匹分として売れたって事は、肉への価値ってほとんどないのかもしれない。となると、重い思いして持って帰るよりも、肉として食べてしまうのがいいのかもしれない。
爬虫類でも死後硬直はするので、それが終わったら料理して食べてみようかな。
ヘビって海外で食べてたよな‥‥。肉に毒はないだろうけど、しっかり煮込んだら大丈夫だろう。
美味しいかどうかはともかく、お腹は膨れるだろうし、たんぱく源になりそうだしな。
それにしても油断し過ぎた。
アリスの事を忘れて、狩りに夢中になってしまうなんて本末転倒だ。
アリスを外に連れ出して安全になると思ってたのに、危険にさらすなんて本末転倒だ。
今回は、たまたま問題のない相手だったから良かったが、もっと危険な相手だったり、狩りが長引い気が付かなかったりしていたらと思うとぞっとする。
それにこれも油断なんだろうな‥‥そう思いながら、木につるされたヘビを見つめる。
確かに、この場所にいるアリスや俺は街道から見えないけど、木につるされたヘビは街道から丸見えだったって事か‥‥。
ヘビの血抜きも終わっているし、亜空間に収納しておこう。
さっきの気絶させて止めをさせてないウサギは気になるが、それは後回しで先にアリスをもっと安全な所に移動させよう。
「アリス、他の人が来るかもしれないから移動しよう。」
「うん、わかった。」
俺達は、川沿いに南に向かって歩き、川と森が近い部分まで歩いてきた。
昨日、俺が森に入ったあたりだ。
ここなら、川向こうの街道からも見えないので大丈夫そうだ。
周りにも、虫以外の生物の気配はない。
「さっき狩りかけのウサギがいるから、それを取って来るね。少しだけ待ってて。」
「わかった。ハルト気を付けてね。」
「すぐ戻ってくるよ。」
俺は、さっきの狩りかけのウサギの所に戻ってみると、ウサギはまだ気絶していた。
と言うか、もう死んでるのかもしれない。
ウサギの巣穴まで垂直に穴を開けていたので、降りやすいように階段状に穴を加工してから降りて行く。
「まだ温かい‥‥死んでないのか。」
と言っても、どのみち殺すけど、死んで時間が経つと血抜きがうまく行かないので、生きててくれて良かった。
とどめを刺し、血の流れが落ち着いた所で穴を埋めてから、ウサギの死体を背負ってアリスの元に戻る。
今回、しっかりアリスの周りも監視していたので抜かりはない。
「ただいま。」
「おかえりハルト。ウサギだ!すご~い!」
俺の後ろに回り込んで、死んでるウサギみて大騒ぎだ。
「アリス、あんまり触ると血がついちゃうよ。」
「アリスね。この間も狩ったウサギを持ってる人見たよ。でもこんな近くで見るのははじめて!」
「そうだね。牙もあるし爪も結構長いから、触ってもいいけどケガしないように気を付けてね。」
「うん!」
地面に穴を掘って、首元を下にしてウサギを置いて置く事で、あとは勝手に血が抜けて行くのを待つ。
魔法でヘビの血抜きをした時に失敗したのか、内臓潰してしまったので、今回は自然に抜いてみる。
解体した肉を使うには良いんだけど、冒険者ギルドなんかに出す場合には、内臓潰したら値段下がりそうだしな。
今日は目当てのウサギも狩れた事だし、狩りはここまでで終えて、さっきのアリスの事もあるので安全に過ごせる場所を作ってみようと思っている。
さっき、ウサギの巣穴の穴を掘ってて思いついたのだ。
地下に家を作ってしまえば、誰にも見つからずに過ごせるじゃないかと。
間取りなんかも自由にできるだろうし、家を建てるなんかよりも簡単に作れるはずだ。
入り口さえ閉じてしまえば、見つかる事もないだろうしな。
「今から大きな穴掘るから少し離れてて。」
「ハルト、なにするの?」
「地下にね、家を作れないかと思って。」
「家作る?」
「うん。穴掘るだけになるかもしれないけど、さっきみたいに知らない人が来られない安全な場所かできないかと思ってね。」
「アリスは、その穴の中で待ってればいいの?」
「うん。作ったら、その中で待ってもらう感じになるかな。できるだけ過ごしやすく作るつもりだから。」
「うん。待ってるね。」
早速、大きな岩のそばに穴を開けて行く。
ただ今回は崩れると困るので土を除けるのではなく、土を圧縮して固めながら先に進めて行く。
入り口は階段状に作りながらに下って行く。
魔法で作ると歩く速度で掘れて行くので、結構深めで作って行く。
すぐに中は真っ暗になってなにも見えなくなるので、魔法の触手の先を光らせ、明かりにしながら進んで行く。
壁は土を圧縮しているのでそれほど凹凸もなく綺麗にできたんだけど、木の根っこが出ていたり石がはみ出ている部分があったので、その辺りは魔法で削ったりナイフで切り取ったりして引っ掛けて怪我したりしないようにする。
入り口は狭いが、通路の幅と高さは、俺の身長の2倍くらいを目安にしている。
深さも俺の身長で10個分くらいは下がっているので、10メートル以上の深さになっていると思う。
想像していたのは、地下ワインセラーや坑道のようなでこぼこした、いかにも穴を掘っただけと言うような洞窟って感じの物だったのだが、魔法で圧縮しながら作ってみるとコンクリート並みに綺麗に作れる。
これはもっといい物が作れそうだ。
階段を降りて少し真っ直ぐの道を作った後に、左手側に部屋を作った。大体正方形になる感じの‥‥体感で学校の教室の半分くらいの大きさかな。
この部屋の壁も、石がはみ出たり木の根が飛び出たりしているので、魔法やナイフで綺麗に整えて行く。
さらに部屋の真中くらいの地面に魔法で四角の土の台を出す。
これを加工していって、テーブル状にする中心に1本で支えるタイプのテーブルだ。
さらに、テーブルの両側に椅子になるように、土を盛り上げ加工する。
こちらも、地面固定の1本足型の物だ。
「こんなもんで十分だろう。」と言うか、思ってたよりも全然普通の部屋になった。
明かりはどうするかな‥‥。魔法で出すしかないけど、階段・廊下・部屋と何か所もいる。
今はとりあえず魔法の触手を3本伸ばしてそれぞれの場所を光らせているけど、明日アリス1人でこの部屋で待ってもらうのならば、魔法と言う訳にはいかない。
明日町を出るまでには準備しておかないといけないな。
部屋を出る前に、見直してつくづく思う‥‥「魔法って何でもありなのかもしれない。」
地下部屋から外にでようと、通路に出て入り口を見ると、アリスが入り口から中を覗いてた。
「アリス、入ってきていいよ。」
「大丈夫なの?」
「うん。入って。」
アリスは、恐る恐ると言う感じで、地下部屋にはいった。
「すご~い!部屋がある!」
アリスは、部屋に入ってテーブルにペタペタ触って、椅子に座った。
「お昼ごはんにしよっか。朝買ったナシを食べよう。」
「うん。」
俺も、椅子に腰掛けて亜空間から、なしを2つ取り出してアリスに1つ渡す。
「瑞々しくておいしいね。」
「うん。」
アリスは、必死でかぶりつく。
ご飯なんて今朝からしかまともに食べてないので、食べ盛りの子供は常に飢えている。
おいしいよりも、安全でお腹が膨れる方が重要で口に入れたら何でもおいしく感じる。
あっという間に、ヘタも種もきれいに片付いてしまった。
「おいしかった~。」
この地下部屋が今後の住居候補だな。
町の中に住居を確保しようと思うと、家賃だけでなく保証金なんかもいるんだろう。
なによりなんのコネもない子供が借りられるなんて事はないだろう。
たとえ借りられたとしても、町の治安が悪すぎる。
殺人や誘拐は珍しくもないし、すれ違っただけで殴られる事も少なくない。
通りは人目に付かないように歩かないといけないし、露店には「お金がある」と言いながら近づかないと犯罪者にされる。
ただ問題は町に行かなければ、お金が稼げないと言う事だな。
ここで単純に暮らすと、町に入る為にお金がかかると言う事になる。
この辺りをクリアにしないと、ここに住むと簡単には言えないんだよな。
「明日は、ここで待ってもらう事になるかな。」
「明日も、ここ来るの?」
「うん。これから毎日外に出るよ。狩りしてお金を稼げば、毎日食事出来るからね。」
「うわ~。毎日これ食べられるの?」
「いろいろ違うのも食べるけどね。」
待ってもらうなら、ここでは暇なんだろうな。
それにいろいろ生活するには足りない。
まずトイレは必須だな。外に出てしてもらってもいいんだろうけど、その時の安全が確保できないので室内に作りたい。
そうなると、換気や排泄物の処理、衛生面なんかも考えて行かないと。
それに、ベッドも用意しておけば寝られるだろうし泊る事もできるだろう。
あとは、キッチンだな。さっきのヘビや、これから狩る獲物を調理する必要があるからな。
キッチンを作るなら、水が必要なのでどこからか水を引いてこないといけない。
あと、火を焚くなら換気も必要になる。
いろいろやらないといけなさそうだな。
ちょっと過ごそうとするだけで、結構な準備が必要なんだな。