6-21
騎士達の、装備を荷車に乗せる作業が一通り終わると、荷車に残っていた食料を、
みんなで分けて休憩を始めた。
隊長格の人が、俺に近寄って来た。
「わたくしは、エルオドール子爵の3男で、エスカ=エルオドール男爵です。
ご助力ありがとうございます。お名前をお聞かせいただいてよろしいでしょうか?」
エスカと名乗った、騎士は結構な年齢のようだ。
ブラントさんよりも上じゃないかな。
白髪の混じった黒髪で、瞳の色も黒だ。
落ち着いた雰囲気の、老練な騎士って感じだな。
「俺は、魔法使いのハルトだ。」
「その名は・・・。アイカ侯爵が探してらっしゃる、魔法使いが、お前という事か。」
「知らないな・・・。」
「そうか・・・。アイカ侯爵がお前に会って話がしたいとおっしゃってた。」
俺は、別に用はないんだけどな。
「今回の助力、本当に助かった・・・。
あのままだと、我々も全滅する所だった。
しかも、こいつら迄連れて帰って来てくれるとは・・・。」
「たまたま、襲われてるのを見つけただけだ。
ところで、これはどういう事なのか、何か知ってるか?」
「お前!平民の癖に貴族に、なんて口をきくんだ!」
横から、隊長に付き従ってた騎士が口をはさんできた。
「よい!平民こそ口のきき方など知らないもんだ。
その平民に助けて貰っておいて、そんな口を利く貴族があるか!」
う~ん。この人まともな人かも。
怒られた騎士は、大人しくなったが、俺をにらんでいる。
「すまない。話を戻そう。どういう事と言うのは、魔獣の事でよいのか?」
「ああ。」
「判らんのだよ。突如現れたようだ。
我々も開拓村への道が通れなくなったとの事で討伐にきたのだ。」
「そうか、騎士団の方も原因は掴んでないのか・・・。
未開の大森林の近所では、よくある事って訳でもないって事か?」
「そうだな。魔獣が魔獣の森から出てくるなんて話は聞いた事がない。」
やっぱり何らかの、異常事態みたいだな。
未開の大森林に入ってみて調査しないと分からないって事か・・・。
「お前は、開拓村がどうなったか知ってるのか?」
「開拓村は無事だ。」
「それは朗報だな。だがどのみち、街道が通れないと、近い内には全滅するか・・・。」
「畑も無事なので、食料の問題はなんとかなってるはず。」
「そうか、食料も何とかなっているなら、本格的に騎士団を準備する時間はありそうだな。」
「ただ、備品や生活品などの物資が足りなくなってるので、かなり厳しい状態ではある。」
「なるほど。援軍は要請する。
ただ急いだとしても援軍が来るのに、20日以上はかかるだろう。」
俺が街道の魔獣を狩るにしても、来てもらう事に問題は無いだろう。
森の中や、街道に関係ない所の奴は狩らない予定だしな。
「休憩が終わったら、すぐポスタリアに移動する。
お前には、一緒に来てもらいたいのだが・・・。」
「それはお断りします。俺もまだやる事あるので。」
エスカ男爵は少し考えてから、
「・・・そうか。礼もしたいし、ポスタリアに来た時には訪ねてくれ。」
「礼はいいよ。その代わり、あまり俺の事を広めないようにして欲しい。
面倒ごとが増えるのは嫌なんでね。」
「これだけの功績があれば、騎士団に入る事も可能かもしれんのに・・・。良いのか?」
「貴族に興味は無いし、俺は誰にも仕える気は無い。」
「・・・それは貴族に言うべき言葉ではないな。王国の敵として認識されかねんぞ。」
「なるほど・・・。忠告感謝だ。」
あれか・・・。
宗教を信じきってる人に、俺は信じないって言ったら、切れるやつか。
自分だけ信じてたらいいのに、人が信じないと否定すると、
我慢が出来なくなる感じなんだな。
この世界では、それが顕著だ。
それに、貴族って言うのは政治家で、騎士団って言うのは軍隊だ。
政治家と軍隊が、王ってトップの意思で動く。
民主制なんて無いもんだから、良いか悪いかのすべては王の認識が基準だ。
神様、同然の扱いなんだろうな。
もちろんすべての人が、王を信じきってる訳では無いだろうが、
表には出したりはしないだろう。
それを表に出したりすると、王国として排除対象になるって事だろう。
それが、さっきの俺の言葉って事だ。
元の世界でも同じような事は多々あるからな。
自分の信じる物を否定もしくは、共感されなかったら怒る人は多い。
それが、力を持っている人なら、より感情的にになるんだろう。
しかも、それが自分よりも身分が下だとしたらなおさらだ。
エスカ男爵は、それが危険な言動だと注意してくれた。
感情的になるのではなく、注意出来る人と言うのはきっと貴重だ。
ここは素直に従っておくのが正しいだろう。
ただ、そんな王国にも貴族にも絡む気はないけどね。
同じ男爵でも、精力増強の魔道具を付けて、暗殺者に会ってるような、
どこかの雑魚男爵とはえらい違いだ。
もう、いい時間だし戻るかな。
「俺はもう行く事にするよ、」
「魔法使いハルト、今回の恩は忘れない。」
朝になったら、拠点を確保しに行く予定だし、アリーヤから連絡はないけど心配だし。
俺は透明化した亜空間を出して、宿泊所の部屋に戻る。
魔法使いハルトが亜空間移動するのは、もうバレてるみたいだしね。
クシェルとファギーは、もう寝ているがアリーヤはまだ帰って来てないようだ。
騎士団を助けたのは、成り行きだけど・・・。
魔獣の情報を何か持ってるかを確認したかったとは言え、
名乗ったのは蛇足だったかもしれないな。
素知らぬ顔して、すぐに戻っても良かったかもしれない。
結局その部分での収穫はなかったしな・・・。
ただ、エスカ男爵に会ったのは、悪くないつながりかもしれない。
ポスタリアの騎士団の隊長さんなんで、それなりに情報もってるかもしれないし、
なかなか良さそうな人だった。