6-20
フランシスとは、町中で別れて、透明化し上空に飛び立つ。
夜だけど、町に明かりは無い・・・。
ほとんどの家で、ランプ用のオイルが切れているんだろう。
アリーヤからは連絡は無いので、今の所問題は発生してないと言う事なんだろう。
上空に上がってから、街道を見渡す。
街道自体は結構距離があり、ほぼまっすぐ100km以上あるんじゃないかな。
これって、どこから魔獣がいるんだろ?
もしも、ポスタリアの街道の方に出ていたら、
ポスタリアに行けないと言う話になるだろうから、そっちには出てないんだろう。
という事は、ポスタリアと、開拓村への分岐点よりも、開拓村側から始まってると思われる。
・・・多分。
もしも、ポスタリア側にも居るとまずそうだな。
片付けるとしたら、そっち側からやった方が、被害が減りそうだ。
街道の状態を確認しながら、分岐点に向かって進んでいく。
かなりの魔獣がひしめき合ってる感じだ。
やはり、前にも感じたが、普通ではないな・・・。
魔獣同士であろうとも、弱肉強食で食べるはずなのに、そんな素振りが見えない。
獣同士が食べるのは見た事あるけど、魔獣はそういえば見た事無いので、違うのかな?
まあ、種類的に肉食じゃないのばかりが居るのかも知れないが・・・。
どの種類の魔獣が、肉食なのか俺にはわからないんだよな。
カマキリとか分かりやすいのが居ればいいんだけど、見た事無いし。
セミとか、バッタって肉食じゃないよな?
トンボは肉食だった気もするけど・・・何かを食ってるところなんて見た事無いしな。
アリも肉食か・・・。でも、誰も戦ったりはしてなさそうだ。
街道の分岐点が見えて来た。
魔獣は、分岐点よりも10kmくらい手前から発生しているようだ。
発生個所になにかあるのか、少し雰囲気が違う。
「あれは・・・。」
大量の死体だ・・・。
クシェルが言ってた、騎士団か。
かなりの数、死んでる・・・40人以上いるな・・・。
いや・・・もっとだな。
街道に沿うように、魔獣の死体と、騎士団の死体が折り重なるように、続いている。
さらに辿って行くと、まだ戦ってるようだ。
20人ほどで、アリの魔獣を5匹ほど相手にしている。
これを見捨てる訳にはいかないな。
状況としては、アリ5匹に相対しているのは、10人ほどだ。
2人で、1匹を相手にしている形だ。
狩っていると言うよりも、アリが後ろに行かないように、守ってるって感じの戦い方だ。
徐々に下がって、撤退をしているようだ。
残りの10人は、撤退中に横から出てくる魔獣が居ないか警戒しながら、
前衛が戦えなくなったら、交代するって感じみたいだな。
それに、明かりを照らして、前衛が敵を見る事が出来るようにしている。
俺は高度を下げて、騎士団の少し後ろくらいに降り立つ。
透明化しているし、ここは暗いので誰も気が付いてない。
透明化を解除して、魔法で声が響くようにして、大声で叫ぶ。
「手を貸す!」
俺は、前衛の後ろからアリだけを選んで風で後ろに吹き飛ばす。
10mくらい吹き飛んだら、体勢も崩してひっくり返る。
騎士団は、何が起こったのか分からない風で、こっちを振り向いて警戒するが、
とりあえずは魔獣が先だ。
すぐに範囲酸欠を行う。
10mほど吹き飛ばしたので、騎士団にまで影響は与えないだろうと思ってたのだが、
騎士団って・・・血気盛ん過ぎ。
騎士団の何人かは、10mを走って、アリに切りかかってる・・・。
仕方ないから、範囲酸欠を止めて、単体酸欠をそれぞれのアリに行う。
もう、ほぼ気絶していたので、魔法が見えても逃げられる事もない。
気絶したアリの止めは、騎士団の方でやってくれるだろう。
素材はボロボロにされるけど、まあ仕方ないだろうな。
気絶だけさせたら、俺は周りを警戒する。
騎士団の後ろ詰めの人達も、俺を見て警戒している。
う~ん。警戒されないように声かけたんだけどな・・・。
まあ、攻撃されなかっただけ、効果はあったのかな。
「魔術師様か?」
「今ので全部か?」
名乗る前に、とりあえず指示したいので、質問は無視しておく。
「はい。とりあえず、襲って来てたのは・・・。」
「では、急いで撤退だ。ケガ人を忘れるな!」
「は!全員撤退だ!」
騎士団は、急いで撤退を開始した。
この場所でも、犠牲は出ていたようで、数人分の死体がある。
ケガ人もいる様で、肩を貸して撤退を開始している。
騎士団の生き残りは20人ほどで、ここまでの道のりで、
50~60人くらいは犠牲になっていたようなので、元は100人規模だったのかもしれないな。
2割しか生き残れなかったようだ。
一番奥で40人ほど死んでいたので、そこからは撤退戦だったんだろうな。
急いで撤退しているようだが、ケガ人が多くそれに合わせているので、歩みは早くない。
腕を無くしている人はいるが、足に大きなケガをしている人はいないようだ。
と言うか、きっと逃げ切れなかったんだろうな。
騎士団の、武器はそれぞれで得意な物を持っているようだが、装備は統一しており、
全員アリの胸当てと、背中当てを装備している。
ただ、隊長クラスは、装備は少し違うようで、アリとは違う甲羅を使っているようだ。
サーチすると、帰りの道にも所々に、魔獣が居る事が分かった。
「俺は先行して、魔獣を狩っておくから、出来るだけ急いで撤退しろ。」
それだけ言い捨てると、追い風で先行して魔獣狩りを行って行く。
元々、かなりの数の魔獣が居た所を、騎士団で切り開いてここまで進んできたので、
打ち漏らしも結構いるようだ。
こんな状態で襲われると、それほど数が居ないとは言え、全滅しかねない。
せっかく助けたのに、全滅されるのもだしな・・・。
俺は、道を分岐点側に向かいながら、街道の近辺にいる魔獣を狩って行く。
魔獣の発生地点の切れ目くらいの場所まで来たので、
これで騎士団の撤退は問題なさそうだな。
魔獣の発生地点から、5kmくらいは進んでたんだと思われる。
あれだけの密度の魔獣を5kmも狩るとは、さすが騎士団と言った所か。
冒険者だと、20人がかりで1匹がやっとだと聞いていたのに、
100人弱でずいぶんと進んでいたようだ。
ここは、分岐点までまだ30分くらいはあるだろうから、
被害は北の開拓村だけだったみたいだな。
魔獣発生の原因になるような物は、見当たらない。
原因は、やはり森の奥を調べないと分からないだろうな・・・。
まだ、ここに騎士団が来るまで時間がかかるだろうから、もう一仕事しておく。
透明化し、上空に上がる。
街道を開拓村側に移動していく。
騎士団が撤退しているが、さっきの場所までまだまだかかりそうだ。
騎士団を通り過ぎ、さっき騎士団が襲われていた場所くらいまで戻った。
騎士の亡骸や、撤退するのに置いて行った装備品などが捨てられている。
俺は、それらをすべて亜空間に収納しながら、開拓村側に進んで良く。
やっぱり生き残っている人はいないようだ。
魔獣もほぼ倒されているので、亡骸が食われてる感じもない。
進んで行くと、徐々に亡骸も増え、死体の損傷もひどくなって行く。
それらも、すべて亜空間に収納して行く。
40人くらいの騎士が無くなっている場所に着いた。
ここには、魔獣もまだ生きており、亡骸はもう人間の形はしていない。
俺は、残っている魔獣を狩ってしまい、その後、亡骸を含めて、
装備品などを亜空間に収納して行く。
荷車が10台ほどあった。
2台には、食料が載っていたようだが、もうほとんど残っていなかったが、
木箱に入れられた、硬いパンなどは、まだ食べれそうだ。
残りは、元々空荷だったのか、魔獣の残骸が載っている物と、
ケガ人・・・今は死体が乗せられている。
完全にグロの世界だな・・・。
俺が吐いてしまわないうちに、すべて亜空間に収納していく。
流れを見ると、ここまでは順調に進んでいたんだろう。
ここに来て、魔獣の数が増えたのか、キーマン的な人が倒れたのか、一気に崩れたようだな。
その結果、かなりの犠牲を出し、撤退を決めたんだろう。
すべての荷物を置いて、撤退を始めたけど、来る時に打ち漏らした魔獣に襲われて、
何人も無くなって行って、最終的に20人で、アリに襲われてたって感じか・・・。
一通りの、遺体と遺品を回収したら、荷車も回収しておく。
魔獣の残骸などは、そこに捨てて置く。
そのまま上空に飛んで、分岐点間際の魔獣の切れ目まで移動してから、
回収した物を、出して行く。
まずは、装備と一緒に遺体を並べていく。
と言っても、遺体の一部と装備言う表現かもしれないが・・・。
それと、荷馬車も置いておく。
生き残ったメンバーでも、ケガでしっかり歩けない物なども居たので、
荷車があれば助かるだろうし、遺品などを持って帰るのにも使えるだろう。
並べ終わり、しばらくすると騎士団の先頭が見えて来た。
「これは・・・。」
「亡くなっていた方々を運んでおいた。
亡骸は難しいだろうけど、装備は遺族に持って帰れるだろう。」
騎士達は、遺体と装備を確認し、うつむき歯を食いしばり食いしばり、
泣くのを我慢している者や、装備品を抱きしめて、黙っている者など、さまざまだ。
しばらくすると、隊長格の人の指示で、装備を外し、荷車に乗せる作業を始めた。