6-18
その男に付いて行くと、フランシス専用の訓練場と言われる場所についた。
ブラントさんの訓練場のように、周りを壁で囲って、
中を外から覗けないようになっている。
それほど広くはないのだが、集中して訓練出来るって事なんだろう。
中に入ると、フランシスが一人で剣を構え、精神統一をしていた。
「フランシス。」
俺は、声をかけながらフランシスに近づいて行く。
「ハルト様!」
まだ、2か月しか経ってないのに、フランシスはずいぶんとくたびれた感じになっていた。
ここでの暮らしがきついのか、心労なのか、外の魔獣のせいなのか・・・。
全部かもな。
「久しぶりだな。」
「はい。お久しぶりです。」
「まずは、今までの状況を教えてくれ。外の魔獣の話も含めてな。」
「・・・はい。こちらにどうぞ。」
フランシスに案内されて、専用の訓練場の横にある椅子に座った。
「ハルト様のご指示通りに、冒険者村を出てここに向かいました。
無事、討伐隊を避けここにたどり着く事が出来ました。
ただ、途中北の開拓村直前で、魔獣に襲われました。
犠牲は出しましたが、なんとか北の開拓村に到着しました。
魔獣が街道に出てましたが、数も2匹だけだったので、
何かに追い立てられたのではないかと予想して、
その奥に何かいる可能性があるので、急いで開拓村に入りました。
それからすぐです。
村の周辺に魔獣があふれ出しました。
でも、なぜか村の中までは入ってこなかったので、襲われる事は無かったのですが、
一切外に出る事が出来なくなりました。」
俺が来る前の状況だな。
開拓村には入って来ないって言うのは・・・なんだか意思がありそうだな。
「10日ほどは、村の備蓄の食料でなんとか食つなぐ事が出来たのですが、
備蓄も残り少なくなり、魔獣を何とかして狩るしか無くなりました。
多くの犠牲を出しながらですが、少し狩ってはそれを食料として、
食いつないでいました。」
そんな状況だったのか・・・。
「ですが、ある日突然、魔獣が減りだしたのです。
いろんな噂があったのですが、モヤのような魔獣が、魔獣を食ってるとか、
突然魔獣が消えるとか・・・。」
俺だな・・・。明るい時にも町の近所も狩ってたし、
見られてる可能性はあるとは思ってたけど、周りから見るとそう見えるのか・・・。
「魔獣が居なくなった事で、畑も使えるようになったのですが、
今度は街道が通れないので、備品が足りなくなってしまいました。
そこで、討伐の為に冒険者を組織して、街道に向かわせたのですが、
ほぼ全滅しました。」
街道にあった死体は、それか・・・。
「今では、畑が戻ったとは言え、作物が取れるまでまだかかりますし、
森に果実を取りに行くにも、魔獣だらけで取れません。
平原の草などで飢えをしのいでいる状態です。」
「なるほど・・・。いろいろ把握した。
まず一番必要なのは、食料という事か・・・。」
「はい。数日中には食べ物は無くなります。
早い作物を育ててますが、それでも数日で取れると言う訳ではありませんので・・・。」
「では、食料は提供しよう。確か、
うまくは無いが、こうもりは干し肉作るのに適してるんだったよな?」
「ええ。こうもりをお持ちですか?」
「大量にあるので、解体と干し肉への加工の為に、人員は用意出来るか?」
「はい。すぐにでも用意します。」
「じゃあ、先にそっち用意してから、話の続きをしよう。
魔法で出すんだけど、加工する所で出した方がいいだろうな。
冒険者ギルドの解体場に行こうか。」
「そうですね。」
フランシスに案内されて、ギルドの解体場に向かう。
途中で、フランシスの指示で、何人かの人が、人手や知らせに走った。
「ハルト様。この提供についてどのように話しておけばいいでしょうか?」
「ああ・・・そうだな。」
ここまでやって、隠しても仕方ない気もするけど、
知らせると俺の魔法を推測される情報になる。
まあ、でもポスタリアであれだけ大々的に宣伝されてるからな・・・。
もうそろそろ魔法使いだと隠すのも限界か。
今は、どの町にも依存していないので、行動範囲を広げれば、
俺がどこにいるかも分からなくなる。
探し出すのは困難なはずなので、仲間とのつながりだけ気を付ければ何とかなるはず。
「魔法使いハルトからの提供と言う形でいいぞ。」
「よろしいのですか?」
「もう、指名手配かかってるんで今更みたいだ。」
「なにかあったのですか?」
「いや、貴族が探してるってだけで、犯罪とかしたわけじゃない。」
「なるほど・・・。」
そういえば、ポスタリアからの情報は、街道が封鎖されてるから、
こっちには届いてないんだ・・・。