6-14
門に付いた時からだが、ポスタリアに入った最初の印象は「酷い臭いだ。」だった。
アイカやウィダスよりも酷い。
俺の住んでいた路地と、同じくらいの臭いが町全体から漂っている。
通りを通る人も、ずいぶん汚い恰好の人が多い。
フードで顔を隠している人の割合も高く、俺の恰好も違和感はない。
浮浪児は、アイカほどいないのか、通りを歩きながら見てもそんなに目にはつかない。
その代わり、大人でも浮浪児の服のように、麻の布をかぶっただけの人が多い。
全体的に、アイカよりも貧しいのが分かる。
馬車がいくつか通るが、獣人奴隷を連れて行く為の檻付きの物ばっかりだ。
檻は多分重いので、荷車って訳には行かないんだろうな。
店もほとんど無く、たまに数件固まって野菜や果物を売っている露店があるだけだ。
「外見通りの町だね。」
「そうですね。・・・数人がこちらを見ているようです。」
「フード外さないようにしよう。」
「はい。」
女、子供だけだとばれると、絡んできそうなのが多い。
クシェル達は、フル装備にフードをかぶっているので女と分かる事は無いだろう。
俺はフードをかぶっているが、子供の身長なので、子供だとは思われているだろうけど。
「まずは泊る所を確保したいので、冒険者ギルドに行こうか。」
「はい。冒険者ギルドの宿泊所が空いていれば、そこが一番ですからね。」
冒険者ギルドの宿泊所は、ギルド員なら少し安くなる。
食事を朝晩付けて、大銅貨2枚程度だ。
食事なしなら、交渉次第で大銅貨1枚でいけるだろう。
何よりも冒険者ギルドの宿泊所は、金額に対して治安がまだましなはずだ。
問題を起こすと、冒険者ギルドが動くので、冒険者達はここでは大人しい。
門に入る時に、場所は聞いていたので、冒険者ギルドに向かって歩いて行く。
冒険者ギルドは、アイカよりかなり小さい。
敷地はそれなりにあるのだが、建物の大きさが小さい。
依頼の数も、アイカより少ないという事だろう。
人口も、1/5くらいしかいないはずだから当然か・・・。
冒険者ギルドの横の建物が、宿泊所になっているようで、
受付に入り冒険者ギルド証を提示して宿を取る。
4人で1部屋で、ベッドは3つの部屋にした。
ケチった訳じゃなくて、状態の良い部屋がここしかなかったのだ。
部屋に着いて、一旦落ち着いたのでその後の予定を立てる。
「とりあえずは冒険者ギルドに行って、噂集めるのと、依頼の確認したいな。」
「あたし、夜のギルドの飲み屋での情報収集してきます!」
アリーヤは楽しそうに、声を上げたのを、クシェルがたしなめる。
「ここは治安が悪いから、気を付けないとダメですよ。」
「師匠から、情報収集の基本は、飲み屋と情報屋のつながりだって言われてるので、
あたしが行く!」
「わかったよ、アリーヤに任せる。
そうなると、夜活動する事になるだろうから、昼はここで休んでたらいいよ。」
「はい!じゃあ、夜に備えて寝てます!」
そういうと、鎧だけ脱ぎ捨ててベッドに飛び込んだ。
「アリーヤ!ちゃんと鎧片付けて!」
そう言いながら、クシェルは、アリーヤの鎧を片付けて行く。
「クシェル、ありがと!」
クシェルは片付け終わると、自分たちの出かける準備をして、
「では私達は、冒険者ギルドに行ってきます。」
「そういえば、冒険者ギルドで斡旋して貰えるなら、拠点になるような家も借りたいな。」
「はい。分かりました。確認しておきます。」
「俺は・・・行かない方がいいかな?」
「そうですね。冒険者ギルドでの情報集めと手続きだけなら私達で十分です。
ハルト様は、多分手配されていると思いますので、見つかると大事になってしまいます。
私達にお任せください。」
「何かお土産買ってきましょうか?」
ファギーはちょっとふざけてそう言って来る。
「お土産か・・・。戻って来たら買い物頼もうかな。
この町の特産とかいろいろ買ってほしいし。」
「は~い。じゃあ、行ってきます~。」
「いってらっしゃい。」
俺は留守番の間に、魔法陣の研究の続きをしておく。
魔法陣で、一番のネックは魔核の質によって、
使える時間や使える魔法に制限を受ける事だ。
そして、俺が大量に持っている魔核は一番魔力の低い物だ。
多分本来の解決策は、魔力3以上の魔獣を狩ると言うのが本来なんだろうけど、
数いるかも分からないし、どこにいるのかも分からない。
それに、魔力が低いとは言え、大量に魔核があるのに使わないのは勿体ない。
そこで何とかならないかと、検討してみる。
魔法陣で使う、魔核は粉だ。
魔核を細かく砕いて、インクに混ぜて魔法陣を書く。
これで使われている魔核の量は、ほんの小さじ1杯程度でしかない。
魔獣から取れる魔核は、心臓と同じくらいの大きさなので、
魔獣にもよるが、大体こぶし大くらいの大きさだ。
なので、粉にするとかなりの量が取れる事になる。
逆に言えば、魔法陣にはそれだけの魔核しか使ってないので、5分しか持たない。
これを、1日にしようとすると、24時間÷5分で288倍使えば1日持つ計算だ。
そんなに魔法陣をいっぱい書くなんて面倒な事はしたくない。
なので、魔核そのものに魔法陣を書いて動かせないか試してみた。
魔核そのものに、魔法陣インクを使って、魔法陣を書いて行く。
お試しで書く時の魔法陣は、風を起こすだけの物を書いている。
扇風機的な奴だ。
風を起こして、魔力の動きを観察すると、魔法陣の魔力が無くなったら、
魔核の魔力を使って魔法陣が動作しているのが確認出来た。
5分しか持たなかった魔法が、かなりの時間動くようになった。
多分、魔核の魔力量からして2日くらいは動くんじゃないかな。