6-11
資料に含まれていた、手紙からあの建物の背景や、
この人が生きていた時代の雰囲気が分かって来た。
あの屋敷の主は、イヌサヌ=デーリンゲンと言う魔術師の家系の人だったらしい。
デーリンゲン家が、今もあるのかは分からないけど、
魔道具を作るのを生業にしていたようだ。
デーリンゲン家は、一家総出で魔道具を作っていたようだが、
研究好きな、イヌサヌは魔道具をさらに発展させる為、
魔核の研究の為に、ここに住んでいたようだ。
この研究施設を放棄した経緯は、分からなかったが、かなり昔の話である事は分かった。
資料室にあった地図を見ると、今よりも格段に森が多かったようだし、
町が少なかった。
王都は、現在の場所にあったのだが、町はアイカ、セレスト、カリオペ、ナエルの、
4つしか無かったようだ。
アイカも、かなり規模が小さかったようだし、西の農村地帯も無かった。
未開の大森林も、もっと南まで広がっていて、
アイカのすぐそば迄、未開の大森林があったようだ。
イヌサヌの屋敷も未開の大森林の南端に建てられていたようだ。
どれくらい経ったら、ここまで地形が変わるんだろうな。
100年とかそれ以上前の話かもしれない。
この人が生きていた頃は、環境も今とずいぶん違うみたいだ。
奴隷と言えば、人間だったようだし、獣人と言うのも文章からは出て来ていない。
獣人の村長が言うように、犯罪者への刑罰なのだったとしたら、
この頃はまだ居なかったか、島流しされているので、見る事が無かったって事かな?
という事は、獣人の村長に聞いたらいつくらいの時代か分かるかな?
獣人側の資料は残ってないが、村長が覚えてたらいいんだけど・・・。
と思って聞いてみたけど、何年って言うのは分からないらしい。
世代で言えば、10世代くらい前の話らしい。
10世代って、20歳で1世代と考えたら、200年くらい前かな?
日本で考えて200年前って、1800年代初頭って考えると、
江戸時代の後期か・・・。
ナポレオンとかそんな時代だな。
日本よりも、寿命が短いこの世界の人間としては、大昔って表現だよな・・・。
日本でも、大昔か・・・。
その頃は、魔術師も多くいたみたいだ。
魔獣も今ほど強くなかったような記載が多かった。
魔術師視点だがら、弱い感じの記載なのかもしれないが・・・。
そういう事もあり、魔獣の森の中に家を建てて隠居したり、
秘密の研究所を作ったりは、珍しい事でも無かったようだ。
家を建てる労働者は、魔法で護衛して連れて来たり、亜空間で転送したり、
空を飛んで運んだりもしていたようだ。
王国の名前は、一緒なので昔の魔法文明とかではなく、魔術師が廃れたけど、
王国はそのまま存続しているって事っぽいかな。
でももしかしたら、いまだに王都に行けば、普通に魔法を使ってるのかな?
いや、貴族街に行けば魔法は普通?
それにしては、ウィダスの雑魚男爵は、驚いてたしな・・・。
その辺りを、ケニーさんに聞いてみたら、そんな事は無いはずだとの事だ。
魔獣の方が、人間よりも魔力は多いので、
魔獣狩っている俺の方が良く判るんじゃないかとの事だった。
確かに、魔獣の魔力だと、それぞれの得意魔法が10回もしないうちに、
魔力付きそうになってたな。
現在の王国の魔術師6家だったと思うとの事。
それぞれの家に数人の魔法使いが居て、魔術師を名乗れる人は、
全部で200人も居ないそうだ。
それ以外に、少数の魔法使いがいるらしい。
通常、魔法使いは魔術師ほど魔法は使えないそうだ。
その為、ハルトが見つかった時に、領主様は魔術師に来てもらってから、
合う算段だったらしい。
抵抗されても、魔術師が居れば抑えられると考えたんだろうとの事。
前に冒険者ギルドのギルドマスターから聞いた話では、
王国全土で、100万人ほどの人口が居るらしい。
なので、魔術師が200人と言うのはかなりレアだ。
5千人に1人の割合か・・・。
やっぱり、イヌサヌの居た時代から魔法使いは減っているようだな。
それに、魔術師のレベルも下がっているようだな。
魔獣が弱かったのではなく、人が弱くなったようだ。
200年でそんなに変わるもんなんだろうか?
もっと前の話なのかも知れないな・・・。
江戸時代の人間が、今の日本人に比べて、そんなに違いがあるとも・・・。
いや、男の平均身長が20cm近く違うかったらしいから、
それなりに変化はあるのかもしれないな。
イヌサヌの研究のテーマは、魔核の利用法の拡大だそうだ。
その為、魔核を確保しやすい、魔獣の森の中に研究出来る場所を作ったのだろう。
イヌサヌの研究は、まずは魔核の起源を探る所から始まったようだ。
魔核とは魔獣の心臓としての機能があり、普通の心臓なら血を体に循環させる機能だが、
この魔核は魔力を循環させる機能だそうだ。
魔獣に心臓が無いのは、この魔核で循環させた魔力によって、
血液を循環させているからとの事だ。
俺が狩った事のある魔獣の多くは、虫系だったが、鳥などの魔獣も狩っている。
確かに、鳥は血を流していた。
人間が心臓を意識せずに動かしているように、魔獣は魔力によって、
血の循環を意識せずに行う事が出来ると言う事なんだろう。
そして、魔力で生きている為、人間よりも魔法の力が強いのも、
種族によって固有の魔法があるのも、意識せずに身に着けた特性でしかないのだそうだ。