オスレイ視点(3)
そんなやり取りをしている最中に、先ほどの小間使いが戻って来て、
本隊長になにか耳打ちをしている。
「いま、ここにハルトが来たそうだ。」
「!!」
「オスレイ、接触はしないが、顔を確認しておきたい。奥に隠れられるところはないか?」
「はい。こちらの棚の裏なら・・・。」
まずいぞ・・・。ハルトが気が付かずに、まずい事を言ったら俺は終わる!
ただ、ハルトなら察してくれるはず。
頼むぞ・・・。
本隊長の指示で、小間使いに客だった風を装わせて、扉から出て行くように指示し、
秘書にハルトを呼びに行かせる。
「こんにちは。」
「明日、町を出ます。」
「明日か・・・急だな。ポスタリアだったか?」
ハルトは、入って来るとすぐに違和感を感じてくれたようだ。
こんな分かりやすい演技までは、する必要がなさそうだな。
行き先をこちらから言ったのは、俺の保身だが場所にこだわりは無いと、
ハルトも言っていたし、行き先を変えるなりしてくれるだろうとの予想からだ。
町を出ると言われて、驚いたふりをするのは違和感があるので、
それよりも知っていたが確証が取れなかった。
それでも行き先は確認済みであると言う事を、アピールしたかったからだ。
ハルトとしても、どこまで情報が流れているのか分からないだろうから、
行き先まで伝わっていると分かれば行き先の変更もしやすいだろう。
「じゃあ、俺は帰りますね。お世話になりました。」
「ああ。気を付けていくんだぞ。」
ハルトは、すぐに会話を切り上げて、退出していった。
「・・・あいつは・・・人間か?」
騎士隊長様は、棚の奥で地面に座ってうつむいて、冷や汗をかいている。
「どうされました?」
「お前には分からないのか?いや・・・。分かる訳ないか・・・。
あれは・・・そうか・・・あいつがそうなのか。」
それだけ言うと、すぐに本隊長は飛び出して行った。
俺は、何が起こるのか不安に駆られて、本隊長を追いかけ一緒に外に飛び出した。
本隊長が、通りを走りながらハルトを追いかけている。
まずい!手を出すつもりなのか!?
俺の中で一瞬でいろんな想像が出てくる。
本隊長がハルトに何等かの攻撃を加えようとすると、
ハルトが反撃して本隊長を殺してしまう。
そして、一気にアイカの町は厳戒態勢だ。
ハルトに対して指名手配され、ハルト探しが行われ、
ハルトに関連する人たちが捕まっていく。
俺もそうだが、ブラントにも、ケニー商会なんかにも手が回る。
そうなると、ハルトも救出しに出たり、報復に出たりが始まる。
最悪だ・・・。
本隊長は、追いかけながら左手を突き出し、何かをしている。
ハルトは、路地に逃げ込みそのまま行方をくらましたようだ。
助かった・・・。
ハルトが路地に入る前に、振り向いて本隊長が相手な事を確認していたので、
貴族と気付いて、手を出さないでくれたか・・・。
本隊長は、そのまましばらく追いかけるが、完全に見失ったようで、
ギルド前まで戻って来た。
俺を見ながら、
「オスレイ、今の事は見なかった事にしておけ。」
「は!」
俺は、跪いて了承の声を出すしか出来なかった。
ハルトは、これでますます、貴族を警戒するだろうな。
本隊長は、そのまま小間使いにいくつか指示を出し、護衛で来ていた、
騎士にも指示を出したうえで、馬車に乗って戻って行った。
これからどうなるのかは分からないが、ハルトはもう町に来る事は無いだろうな。
本隊長は何に気付いて、何をしたんだろうか。
そして、口止めしたのはどういう事なんだろうか?