オスレイ視点(1)
「で、東の盗賊の討伐は完了したという事だな?」
「はい。そちらの報告書にある人員で、2名は捉えています。」
町の警備本隊長と、各警備隊の隊長達が居並ぶ所での報告だ。
30日に1回の頻度で開催される報告会で、前回の議題に上がった問題に対して、
結果の報告を行う。
冒険者ギルドとしては、本来は関係ないはずなのだが、
大銀ランクには治安維持活動の権限が付与されている事からも、この会に参加せざる得ない。
俺以外は、すべて貴族様なので、言われるままに報告し、
言われるままに指示を受けるだけなのだが。
「なるほど。リーダーとその息子か。そいつらは事情だけ聴いたら斬首にしろ。」
「は!」
「ところで、この大銀のもう一人と言うのは誰だ?
ハルトと言うのは聞いた事無い名前だが。」
東区域の警備隊長が、参加者のリストを見ながら聞いて来た。
「最近、大銀ランクになったばかりの者でございます。」
「銀ランクでも、大銀になるような奴は目に付くはずだが、こんな奴は聞いた事もないぞ?」
「はい。それほど目立つような功績は無いのですが、
今回の件でブラントと組ませて、経験を積ませました。」
「なるほど、それで今回の斥候役という事か。」
「はい。実力はあるので今回も、大いに役立ちました。」
俺は、用意しておいたハルトに対する評価を無難な感じで答えておいた。
内心ではかなり冷や汗をかいているが、騎士様達がハルトの事を知ってる訳ないので、
大丈夫なはずだ。
「そういえば、西の盗賊はどうされるのですか?」
西区域の警備隊長が、声を上げた。
本隊長は、
「そうだな。西の盗賊も対応はしないといけないが、実際の被害はそれほど多くは無いし、
先日まで騒いでいた、男爵様も今はそれほど言って来ないしな。
急がなくても良いだろう。
今は、それよりも警戒しないといけない事があるからな。」
本隊長は、少し考えてから、
「オスレイ、冒険者を南西の森の討伐に、多めに振り分けとけ。
そうすれば、西側の盗賊への牽制になるだろう。」
「は!」
「オスレイ、ご苦労だった。下がってよいぞ。」
「は!失礼いたします。」
俺は、ギルドに向かいながら、ハルトの事を考えていた。
あいつは、魔法使いなんだろう。
しかも、とんでもなく強力な。
さらに、絶対に子供じゃない。
最初は他国からの間者のを考えたが、そうでもなさそうだ。
短い付き合いだが、これまでの言動に、マディを救ってくれている事と言い、
悪意があるような奴でもない。
ただ、極端に貴族とのつながりを嫌がっているのも確かだ。
魔法使いである事を公にすれば、領主様に仕える事も可能だと言うのに、
言うに事欠いて、面倒だと言いやがる。
・・・いや、それは分からなくもないがな・・・。
俺自身、ギルドマスターと言う仕事をやっていて、貴族様とかかわりを持つ事も多い、
その中で、理不尽な要求はいくらでもあった。
その理不尽な要求で、何人もの冒険者を死地に向かわせてきた。
今の、本隊長に変わってからは、そんな理不尽な要求は無くなったが、
それでも俺自身が、貴族様に仕えるのかと言うと悩むだろうな。
貴族様のように贅沢な暮らしがしたいとか、子供の為にと考えるのなら、
貴族様に仕える立場になりたいと考えるだろうけどな。
ハルトには、子供所かあいつが子供だしな。
それに、貴族様とまでは行かないが、かなりの金も持ってるだろう。
毎日の狩りは命がけなので、いつ死ぬか分からない生活ではあるはずなんだが、
早々死なない自信があるんだろうな。
数日後、ハルトから西の盗賊の様子を見てくれると言う話があった。
結果の報告を聞くと、驚きだった。
ほぼ解決してきてるじゃないか!
さらに衝撃だったのは、
「王国側に、俺は魔法使いだって報告してください。」
魔法使いであったと、本人から聞かされたのもそうだが、王国への報告とは・・・。
俺は次の日、本隊長にお時間をいただき、報告に上がった。
通されたのは、いつもの会議室ではなく、本隊長の執務室だ。
「お忙しい中、お時間を賜りましてありがとうございます。」
「どうした?緊急の要件だそうだが。」
「はい。2点ほど急ぎお知らせした方が良い話があります。」
「2点とな?」
本隊長は、いぶかしげな顔をしている。
「はい。まずは1つ目ですが、西の盗賊の正体が判明いたしました。
冒険者達が、独自に村を作って盗賊をやっていたようです。
規模は、200~400人程度だそうです。」
「冒険者達だったのか・・・。それに多いな。」
「はい。かなり前から農村に住み込んで、狩りの拠点としていたようですが、
食うに困った奴らが、盗賊も始めたと言うのが経緯のようです。」
「なるほどな・・・。ありがちな話だ・・・。
そんな村が今までに見つからずに、存続出来た訳はないよな。
徴税官が毎年行ってるはずなんだがらな。で、実情は?」
「はい。レスリーが絡んでいた模様です。」
「と言う事は、ドウェイン子爵様か・・・。」
「確かな証拠はありませんが・・・。」
「分かった。この事は他言無用だ。後の事はこちらで処理する。」
「は!」