11.アリスと森に
アリスが起きたのかな‥‥少し動き始めた。
「アリス、おはよ」
「ん‥‥!」
アリスは起き上がり、自分が膝枕されてたのが恥ずかしかったのか、ちょっと離れて座り直した。
「‥‥ハルト‥‥おはよう。」
「朝ご飯どうぞ。」と言って、昨日の夕飯に買っておいたナシをアリスに渡す。
「これ‥‥どうしたの?‥‥盗った?」
「ううん、買った。」
「!‥‥どうやって?」
「昨日町の外でウサギを捕まえたので、それを売ってお金にしたんだよ。」
「ウサギ!そんなのどうやって捕まえたの!!」
「ちょっと頑張って捕まえてみたの。」
「ほんとに?ハルト嘘ついてない?‥‥盗んだんじゃない?」
「うん。ほんとに盗んだんじゃないよ。ウサギごと全部売ったから、証拠にはならないけど、ほかにもほらナイフも買ったし。」
と言って、腰に装備している鞘付きのナイフをアリスに見せる。
「食べよ。」
「‥‥うん。」
まだ、信じてないような感じだな‥‥。今日連れて行った時には、信じてくれるだろうから大丈夫かな。
「おいしい。」
アリスは、デカナシを夢中で食べてる。
俺の知っているナシの倍くらいの大きさで、結構なボリュームがあるので半分くらいでお腹いっぱいになるかと思ったけど、この勢いだと1人で1個行けそうだな。
俺は、もう1つデカナシを取り出して食べる。
かなり瑞々しいのだが、余り甘くはないし、少しエグ味が強い感じだ。
昨日も、野菜のヘタしか食べてなかったので、俺も1個丸ごと食べられそうだ。
「おいしい‥‥。実がこんなについてるの、はじめて食べた。」
「おいしいね。」
こんな生活をしていると、まともに実を食べる機会は無いので、食べるのは始めてだったようだ。
これは、ハルトも同じだったみたい。
「今日は、アリスも一緒に町の外に行こう。」
「え!町の外は獣でいっぱいで危険だから。行っちゃダメだよ!」
「大丈夫。安全なところ見つけたから。それにお金も稼げるしね。」
「ほんとに?ケガとかしない?」
「今日もウサギが狩れれば、明日からもこのナシが食べられるよ。それにアリスも髪の毛切って綺麗にしてあげる。」
「ハルトの髪、綺麗だ‥‥わかった。付いて行く。」
「じゃあ、お昼ごはん買ったら、さっそく外に行こっか。」
「お昼のごはん?買うの?」
「うん。お金もあるからね。」
ナシを食べ終わったら、すぐに出発だ。
できるだけ早めに出て狩りを終わらせて、お昼過ぎには冒険者ギルドに行って獲物を売ってしまいたい。
遅くなると、ギルドが混んで来てしまうので、子供が獲物やお金を持っている状態を多くの人に見られてしまう。
そうなると、トラブルも増えてしまう可能性があるので、人の少ないタイミングで獲物を売ってしまいたいんだ。
早朝と、夕方は混むのでそれ以外の時間だけど、狩りする時間もあるからできるだけ早めって感じだ。
路地からアリスと連れ立って水場方面から、昨日のナシ屋に向かう。
あのボリュームで銅貨1枚ならかなりお得だと思うし、他の店に行って門前払いされるよりも確実に買えるあの店の方がいいしな。
隣の俺を門前払いしたパン屋も露店を開けている様だ。
早朝だが、冒険者ギルド方面に向かう人が多く、結構な人通りになっている。
こっちは、大通りではないが北側に住んでいる人が、冒険者ギルドに行くのに通る道なので、それなりにいるようだ。
「おはようございます。ナシ2つ売ってください。」
「おはよ。昨日の丁寧な子ね、今日は2人なんだね。はい2つ。ありがとね~。」
ナシをアリスと2人でそれぞれに抱え、南門に向かう。
相変わらず、パン屋の親父はこっちをすっごい形相で睨んでる‥‥。
なに?睨んだって、あんたの所では買わないよ!
買ったナシは途中で俺が預かり、人目のない所で亜空間に収納済みだ。
アリスから見たら、服の中に入れたように見えてると思うけど、服が膨らんでいるようには見えない感じかも。
魔法については、外に出てから説明するつもりだから、今は不思議に思っているけど説明せずに放置だ。
2人で通りの端を、絡まれないように気を付けながら、できるだけ急いで南門へと向かっていく。
南門では、入る人は多いようだが、出る人はあまりおらず思いのほか空いていた。
出る方に並んで、すぐに順番は回ってきた。
「ロベルトさん、おはようございます。」
「おお、ハルトじゃないか。おはよ。今日も出るのか?」
「はい。またウサギが取れたらいいなぁ~って思って。」
「いやいや‥‥。黒耳ウサギなんて、そうそう取れるもんじゃないが‥‥まあ、がんばれよ。」
「そうなんですか?」
「そうだぞ。黒耳ウサギを専門にしているやつだって、1週間に1匹取れたらいい方だからな。」
「あら‥‥。じゃあ、他のも狙ってみます。」
「ケガするんじゃないぞ。無理してケガしたら元も子もない。獣をなめるんじゃないぞ。慎重に、慎重に、常に油断しない。これが鉄則だ。
それと、オオカミやヘビが出たら、すぐに門まで走って来るように。」
「はい。気を付けます。」
「ん?もしかして今日は恋人と一緒か?」
「はは。まあそんなとこです。」
「なるほどな。デートにしては危険だから、ほんとに気を付けるんだぞ。嫁もお前の事気に入たみたいだしな。」
「はい。分かりました。ありがとございます。」
ロベルトさんは、町から出るリストに俺とアリスの名前を書いてくれた。
昨日と同じで、街道を通って川まで出てそのあと川沿いに、森に向かう予定だ。
「門番の人と知り合いになったの?奥さんも知ってるって話してたけど。」
「うん。昨日、ウサギ買ってくれたのは、さっきの門番のロベルトさんなんだよ。少し安くするからってロベルトさんの家で、解体の方法を教えて貰った。」
「そうなんだ‥‥。なんか、ハルトすごいね。なんだかいままでと違うというか‥‥。」
「大丈夫だよ‥‥。いろいろ思いついたので、やってみようと思ってるだけだけから。今のままじゃダメだって思ったから‥‥。」
「‥‥そうだね。」
俺が乗り移ったって正直に話しても、いい結果にはならないだろうし誤魔化しておこう。
正直に話すとなると、ハルトは死んで、まったく知らない大人に変わりましたって所か。もうちょっと複雑だけど、アリス視点で見るとそんな感じかな。
そんな事言ったら、アリスが警戒してしまって、俺が守ってあげる事もできなくなってしまう。
そしたら、安定した生活をさせてあげる事も出来なくなる。
でもその内気が付くだろうし、呑み込んでくれるんじゃないかと期待している。俺はハルトでもあるんだから。