34.獣人の真実(1)
1人の高齢の男が前に出て来て、
「はい。この度はありがとうございました。」
「あなたが、代表という事でいいのですか?」
「はい。私はここにいる皆が住んでいた、村の村長をしておりました。」
「なるほど村長ですか。という事は、全員同じ村の出身って事でいいのでしょうか?」
「はい。全員同じ村に住んでいましたが、人間達の奴隷狩りに襲われ、
村ごと全滅させられました。
そして、我々は捕まり連れてこられました。」
「それはどれくらい前の話なんですか?」
「半年くらい前の事です。」
「獣人国に住んでいたんですよね?獣人国で人間が奴隷狩りをしているって事ですか?」
「はい。」
あれ?戦争は終わってるはずなのに、なんで人間が獣人の国にいるんだろ?
小競り合いはやってるって事だったから、それで行ってるって事なのかな?
それとも、占領している町なんかがあるって事なのかな?
「人間は、獣人国の町かなんかを占領しているって事なのですか?」
「あなたは人間ではないのですか?」
「そうですね。あまり事情を知らないんです。」
「そうですか・・・。獣人国なんて国はありません。」
「え?」
「人間が、獣人国という場所は、我々はアルスデスと言う名前で呼んでいます。
我々獣人と呼ばれる人は、アルスデス島に集落を作って住んでいます。
それらをまとめて、国という組織にはなっていません。
人口の多い集落や、複数の集落が共同で暮らしているような物はありますが、
国とは言えないような集落の複合です。
ただ、その中でも戦闘を好む集落や、人間に対して復讐に燃える集落が、
人間と戦う事はありました。
我々の村は、人間達と戦う気などなく自分たちの集落で、ただただ暮らしていただけです。」
村長は疲れた顔で、先を続ける。
「人間達は、昔から奴隷確保の為に、獣人狩りを行っていました。
集落を襲い、村人を根こそぎ連れて行くのです。
多くの獣人達が連れて行かれ、奴隷として売られて行きました。
そんな中、30年ほど前でしょうか。
あまりにも人間達の非道に耐えられなくなり、
いくつかの集落で協力して王国の町を攻めたのです。
これが、こちらで言われている、獣人国との戦争だと思います。
でも、実情は一時的に占拠しただけで、王国の軍隊が出た時には、
すぐさま町は取り返され、戦闘に行った物達は皆殺しにされ、
アルスデス島にも拠点を作られました。
多くの集落が潰される事になりました。
王国軍は、撤退したのですが、その時の拠点が現在の奴隷狩りの拠点として使われ、
さらに奴隷狩りは加速しています。」
アイカの町で俺が聞いた話では、獣人国は存在しており、
そこと戦争があったという話になっている。
そして小競り合いは続いているという事で、そこで確保した獣人を奴隷としている。
と言うのが一般的に流れている話だ。
だが、村長の話ではアルスデス島に王国の拠点が作られて、奴隷狩りを行っていると言う。
王国にとっては、そこが奴隷資源の採掘場と言う事か・・・。
獣人国と言うのがある事にして、仮想敵国扱いで王国をまとめるにしても、
魔獣などが居るのでそんな必要も無いだろうし、
実情は隠すほどでも無いが、周知している訳でもないって感じなので、
それぞれ噂程度の話として伝わって、少し話が変わってるって感じかな。
「獣人とは、どういった存在なんですか?」
話をしていて、気になった・・・。あまりに普通にしゃべれ過ぎる。
俺らとの違和感もほとんどない。
「我々に伝わっている話では、我々も元々は人間だったそうです。」
やっぱりそうだったんだな。
「魔法とかですか?」
「そうではないかと言われています。大昔の王国では、犯罪者の烙印として、
獣と合成すると言う罰を与えていたそうです。
その後、アルスデス島に流されていたそうです。」
元々が人間である事は、アイカには伝わってない。
まあ、伝わったとしても差別意識から黙認されてるのかもだがな。
「あなたは村長と言ってましたけど・・・。
村長と言うのは、いろいろと事情を知っているという事なんでしょうか?」
「私の立場と言うよりも、我々の集落が少し特殊なのです。
我々の祖先は、現在あった事を書き記して後世に伝える事を、
集落の決まり事として守って来ました。
その為、他の集落と違い過去の事にも比較的詳しいのです。
残念ながら、書き記した物は襲われた時にすべて焼失してしまいましたが・・・。
ただ、大まかな事は口伝でも伝えられていて、集落の子供でも知っている事です。
他の集落では、自分達が元々、人間であったという事さえ知らない者達もいます。」
なるほど。文字もちゃんとあるんだ・・・。
獣人と言うから、野性的なイメージだけど、普通に人間なんだから当たりまえか・・・。
「あとは、獣人を作る、獣と人間を合成する魔法っていうのは?」
「魔法とは思われているのですが良く判ってません。
もしかしたら魔法でも無くて、そういう薬品なのかもしれませんし、
肉体的に切ってつなげてるのかもしれません。」
「新しく獣人になった犯罪者が流されるって事は、無いって事ですか?」
「ええ。そういった刑が無くなったのか、その技術が失われてしまったのか、
新しい種類の獣人の話は聞いた事はありません。」
そういう事なら、魔法っぽいな・・・。呪いって言ってもいい物な気がするな。
子々孫々、獣人として生きなければならない呪いって事か・・・。
例え罪人に対しても、ひどい仕打ちだな。