29.奴隷商店の襲撃(3)
まだ、あっちでの作業が残っている。
亜空間を出して、奴隷たちが退避した場所に移動する。
俺が、亜空間から出て行くと、まっていた28人の獣人が緊張したようにこっちを見ている。
リビングの椅子に座っている者達や、壁際に複数人と寄り添うように、
地べたに座っている者達などがいる。
「さて、まずは話を聞いてほしい。」
俺は、一通り獣人達の様子を見る。
無いとは思うが、襲って来る可能性も考慮している。
まあ、お互い様だとはおもうけどね。
「まずは分かっているとは思うが、俺は魔法使いだ。
今、お前達は俺の作った地下空間にいる。
俺が出さない限りここから外に出る事は出来ない。
ここで、しばらく生活をしてもらうつもりだ。
・・・冷静に話を聞いてもらう為にも、全員椅子に座ってほしい。」
俺の指示で、全員用意していた椅子に座ってくれた。
その間に、俺は机の上にパンを人数分だしていき、
「腹が減っている奴は、このパン食ってくれ。」
腹が減っているのと、眠いのは冷静さを無くすからな・・・。
「食いながらでいいので、話を聞いてほしい。
今回お前達を助けたのはただの偶然だ。
お前達を助けるために、あそこを襲った訳ではない。
あの店のオーナーである、レスリーに対しての脅しの為に、
あの店を襲いそこにいたお前達を助けただけだ。
なので、お前達の今後に責任を持つ気もないし、今後もずっと面倒を見る気もない。」
俺は全員を見渡し、理解したのを確認して、
「だが、助けた分の責任だけは果たそうとは思っている。
まずはここにいる限り、安全である事、食料も用意する事は保障しよう。
ベッドも、隣の部屋に用意しているのでそこで寝てくれ。
状況の理解と体を休めて貰った後、今後の話をして行こうと思う。」
それと、ケガのあるやつがいないか確認したがいなかったので、毎日水浴びして貰う事、
かまどやトイレの使い方なんかの説明をしておく。
着替えがチェストの中に入っているので、着替えて貰うようにも話しておく。
「あの・・・これから私達は・・・。」
獣人達の中で一番年齢が上そうな人が声をかけて来た。
「そうだな・・・。今日はいろいろあったので一旦休んでから話をしようと思う。
明日、昼過ぎくらいに来るので、それまでに代表者を決めておいてくれ。
その時に今後の話や、詳しい事情などを聴かせてくれ。
食材はキッチンに置いているので、自由に使ってくれ。
無くなれば補充しておくので、好きなだけ食っていいからな。」
俺は、そう言い残して亜空間の入り口を作って家に帰る。
奴隷商店を潰す作業自体は、思いのほか早く終わった。
首輪の問題や、獣人達に抵抗される可能性も考慮していたが、非常にすんなりと従ってくれた。
明日、行った時にどんな話が聞けるかで、そう動くのか考えて行こう。
それほど急ぐ話でもなくなったしな。
今日は、もうそろそろ寝るとするか・・・。
アリスの寝ているベッドに潜り込み、朝までの数時間を寝る事にする。
翌朝は、いつもよりもゆっくり目だ。
今日は、露店はお休みなので7時頃に用意して出かける。
獣人達の所には、昼過ぎなので、それまでにやる事をやってしまおう。
クシェル達3人に声をかけて、冒険者ギルドに向かう。
大銅ランクへのランクアップだ。
それと、ブラントさんが空いているようなら、稽古も付けて貰えればいいなと思ってる。
その為だけでなく、今後町に出る時には、昨日作った鎧を着て、
武器の携帯をしてもらえるように話している。
あと3人にはランクアップの為に、こうもりと盗賊から奪った装備品を持って行って、
ギルドに納品してもらう。
今回の納品で、大銅ランクにはなるだろう。
「俺は、ブラントさんの所に行ってるので、納品終わって、
ランクアップしたらブラントさんの所に来てね。」
「はい。分かりました。」
俺は、ブラントさんの居る訓練場に移動する。
「ブラントさん。」
「おお、ハルトか。昨日は・・・何か動いたのか?」
「夜中に少し散歩しただけです。」
「・・・何も上がって来てはないが・・・殺しては無いんだろうな?」
レスリーの安否だよね。
「もちろんです。伝言しただけで会ってもないですよ。」
ブラントさんは、俺をあきれるように見て、盛大にため息をついた。
「あ・・そうそう。先日話してた稽古、今日見て貰ってもいいですか?」
「ん?銅ランクの奴らだったか?」
「今納品して、大銅ランクに上がってるはずです。」
「ああ。いいぞ。」
「それで、装備品も一通り完成してるんで、かなり手ごわいと思います。
気合入れてやって貰えればと思ってます。」
「おお!それは楽しみだな・・・。俺でも手こずるって言うのか?」
「武器は、木刀でやるなら勝てないかもですよ!」
「なるほど・・・面白い!大銅ランクごときで俺に勝てなくなるような装備か・・・。」
丁度、クシェル達がやって来た。
「ハルト様。無事大銅ランクになりました!」
「おめでとう!」
「ありがとうございます。あたしたちが、大銅に成れるなんて・・・。」
冒険者を何年もやってたのだから、感慨深いんだろうな。