16.魔法の回復薬の実験
「アリーヤ、ファギー、俺はちょっと行って来るんで、後よろしくね。
何かあったら、ギルドに駆け込んで、ブラントさんかギルドマスターに言うんだよ。」
「はい。分かりました。」
「じゃあ、行きましょうか。」
俺と、バーナード達3人は俺の倉庫まで歩いて移動する。
ケガをした人のペースが遅かったが、俺の歩くのも遅いので俺的には別段問題ない。
倉庫に着くと、椅子を勧めて少し待って貰う。
家に一旦帰って、リルにレモン入り魔法の回復薬を作って貰って、一緒に倉庫に移動する。
「初めまして。リルと言います。」
「俺の仲間の薬剤師です。」
「薬剤師・・・。初めまして、フェルトです。」
「ケガを見せていただけませんか?」
「ああ・・・。」
そう言って、足に巻いてあった布を取りケガを見せてくれた。
ケガは・・・ふさがってない・・それどころか、黄色く膿んでしまっていた。
血も流れており、止血も併せて布を巻いていたようだ。
手当は、布を巻くだけって所か・・・消毒もちゃんと出来てなかったようだな。
リルは、手早く井戸から水を汲み、布に浸して傷部分を洗い流す。
フェルトも、かなりの痛みで顔をしかめて耐えている。
ケガの部分の膿や血を、ある程度きれいにした所で、
リルが持ってきていた魔法薬をケガにかける。
魔法薬の効能で、ケガが見る見るふさがっていき、膿もきれいになっていく。
血は止まり、皮膚が再生し傷口はふさがる。
「!!。魔法薬!ちょっと待て!そんな高い物買えない!」
フェルトが慌てて、止めようとする。
確かに、魔法の回復薬って言えば1本で大銀貨1枚はするからな。
日本円で言えば10万ほどか。
平民の給料が1週間で銀貨1枚程度なので、1か月4枚という事は、
2か月半って所か。
銀ランクなので、倍くらいは稼げてたと思うから、それでも1か月強くらいか。
「大丈夫ですよ。ちょっと実験も兼ねているので、無料で使わせてもらってます。」
「無料!!」
「ええ。回復薬の新薬なので、今回は実験に付き合って貰うって事で、
無料にさせてもらいます。」
「い、いいのかよ・・・こんな高価な物。」
「ええ。それにこれから働いてもらうのに、こんなケガしてたら、働いて貰えませんからね。」
「ありがとう。ハルトさん。」
「いえ。まあ、その分頑張ってもらいますけどね。」
「リル。どう?効能が低かったりはしない?」
「ええ。効能としては同じくらいですね。」
「じゃあ、後は日持ちだけ確認したら売り物になりそうだね。」
「そうですね。」
「あ・・・。でも、魔法の回復薬って飲んで使うイメージだったんだけど、
傷に直接かけるんだね。」
「ええ。回復薬に使う薬草は、食べるとお腹を壊すので、
飲んで使う事は無いですけど・・・。」
「あ・・・。そうなんだ。」
「最高級の回復薬は飲んで使うって聞いた事はありますので、そちらの話かもしれませんね。」
「最高級とかって言うのもあるんだね。」
「ええ。私も最高級薬の作り方は知りません。」
それは、是非知りたいな。
とりあえず、血は止まって傷は塞がったが、太ももから下が完全に再生する訳ではない。
何本も魔法薬を使えば、少しずつ再生するそうなのだが、
1本だけでは傷がふさがるだけのようだ。
だが、それでも苦しんでいた元の状態よりは格段に良くなり、十分に話が出来る状態になった。
「今回は、露店の護衛兼売り子って事だけど、大丈夫ですか?」
「ああ。ぜひお願いします。」
「護衛だけって訳にはいかなさそうだけど、売り子出来ますか?」
「う・・・。ああ。何でもやる。嫁も子供もいる身だからな。稼がないといけないんだ。」
なるほど・・・家庭持ちか。
ケニーさんは、商会にいるみたいだな。
「分かりました。ケニーさんに会いに行ってください。
実際の雇い主は、ケニーさんになるので、話たら通じるはずです。
ケニー商会に行けば会えると思います。
俺は、露店の様子を見て来たいので、一緒にはいけませんが。」
「はい。魔法薬本当にありがとうございます。」
「いえ。気にしないでください。
あと、今後も実験に付き合って貰ってもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。何でも言ってください。」
と、その前に、
「ちょっと待っててください。」
俺は、倉庫の2重壁の裏に入り、木で松葉杖を2本作製する。
これがあれば1人でも動けるだろう。
脇に当てる部分には、革を張って柔らかくしておいてあげる。
それを持って、2重壁から出てフェルトに渡す。
「これ使ってください。」
「なんですか?」
使い方を説明すると、
「おお・・。これは歩きやすい。両手は塞がるが1人でもなんとか歩ける。」
バーナードも喜んでいるようで、
「やっぱりハルトさんに相談して良かった。
ハルトさんありがとう!フェルト!お前も良かったな!」
「ああ。」
「では、ケニーさんの所で契約してきてください。」
「はい。ありがとうございます。」
リルには家に帰るように話して、俺は露店に向かう。