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無限の魔法使い  作者: 志野 勇希
2.転生
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9.アリスと再会


この辺りの路地には、何件か食べ物の露店も出ている。

金物屋も含めて、冒険者ギルドの人が買い物に来たりもしているんだろう。

露店で売っている多くは農作物だが、たまにパンのように加工食品もあるようだ。

露店を見ていると、見知った野菜や果物もあるのだが、すぐに食べられるものと言うのは限られている。

「果物か、パンだな。」


果物や野菜なんかの露店は、町の外の農村から来ているので、この村に住んでいる人ではない。

だからって宿に泊まってお金をかけるのも勿体ないと思っているのが、自分の露店の横に野宿する。

なのでこの時間になっても閉店はしないようだ。

でもこの町の住人と思われるパン屋なんかは、この時間になると閉店の準備を始めている。

何となく、夜にでも店員に話しかければ買える果物よりも、今しか買えないパン屋の方が良さそうな気がするのでパンにしよう。


パンの露店も、野菜なんかの露店と同じく荷車で販売している。

荷車の上に、平べったいナンのようなパンが20~30枚ほど置かれている。

ハエとかも飛んでいるので衛生的な売り方じゃないし、閉店準備に店員の人が素手でパンをまとめているしで、さらに食欲を無くすが、まあ食べる事はできそうだな。

店員は、30代くらいの痩せた感じの男性だが、目付きが余り良くない感じだ。

閉店準備をしながら、近づいた俺をあからさまな嫌な顔をした後、無視して閉店の作業の続きをしている。


「パンを2つ売ってください。」

「‥‥。」

無視かよ。

「パンを2つ売ってください。」

「しつこいな。浮浪児が俺にしゃべりかけるな。殺すぞ。」

マジか‥‥。これはあまり近付かない方がいいな。

こういう態度は、良く取られる。ハルトは買い物した事はないようだが、露店に近づくだけでこういう事を言われるか、ひどい場合問答無用で殴られる事もある。


俺はこのパン屋を諦めて、他のパン屋がないか周りを見渡すが、パン屋はこの店しかなさそうだ。

もう、パンの口になってたんだけど‥‥仕方ないか。


先ほどのパン屋の隣に、デカいナシっぽい果物が売っている。小ぶりのメロンくらいの大きさがある。これは、腹いっぱいになりそうだ。

ハルトの記憶でも、そのまま食べられる果物っぽいし、味も悪くない。まあ、ハルトが食べた記憶があるは食べ残しの種の部分だけなのだが‥‥。

ここの店員は、やさそうそうな50代か60代くらいの女性だ。

隣のパン屋でのやり取りも見ていたようだ。


「すみません。2つ売ってください。」

「はい、いいですよ。2つで銅貨2枚ですよ。」

親切そうなおばさんは、優しく笑いならが言ってくれた。

俺は用意しておいた、銅貨2枚を店員さんに渡し、デカなしを受け取った。

「ありがとうございます。」

「まあ、丁寧な子だね。また買いに来てね。」

「はい。」


このナシはデカくて俺の体では、片腕に1個しか持てないので抱えるように2つのナシを持って路地に向かう。

ふと見ると、さっきのパン屋の店員がこっちを凝視していた。

お金持っていないと思ってた子供が、お金持ってすぐ隣で買い物してたから、ムカついたんだろうな。

あんまり売れてなさそうだったし、悔しかったのかな?


このナシが2つもあれば、アリスと2人で今晩と明日の朝ご飯にもなるかな。


俺は、ナシを2つ抱えていつもの路地に向かう。途中じゃまだったので、人目に付かない所で亜空間に収納しておいた。

向かっているのは、今朝俺が目覚めた場所だ。アリスと出会ってからはここで過ごしていた。

食堂が近くにあり、そこが繁盛しているのかごみの量も多く、食べられるものも比較的多い。

もうごみを漁るような生活をする気はないので、ここにこだわる必要はないのだが、わざわざ新しい路地を探す気もないしな。

早めに、お金を貯めて住む所を探さないとだな。


俺が路地に入った時にはもう日が沈み、薄ぼんやりとした夜になっていた。

路地だし、夜になると真っ暗になりそうだな。

なんて思いながら、今朝寝てた場所に行くと、人が座り込んでた。

三角座りで、頭を下に向けて寝ているようだ。


「アリス?」

「ハルト!?」

俺が声をかけるとアリスは立ち上がり、俺に走り寄って来て抱き着こうとするが直前で躊躇して顔を覗き込みながら、

「誰?」

「ハルトだよ。」


「ハルトの知り合い?」

「いや‥‥ハルトだよ。」

「ハルトじゃない。」

ドキッとした‥‥。ハルトじゃない‥‥けどハルトでもある。

ハルトの記憶はあるけど、乗り移った俺はハルト本人とは言い難いのかもしれない。


「髪も違うし、顔も違う」

あ、そっか‥‥髪洗って切ったんだっけ。

「髪の毛切ったんだよ。それで髪も洗って綺麗にしてきた。よく見てハルトだよ。」


アリスに近づいて顔を寄せる。アリス、泣いてたのかな?なんか泣いた後のような感じだな。

アリスは、俺の顔をジーと見て‥‥。

「‥‥本当に‥‥ハルトだ。」

アリスはそういうと、俺に抱き着いてきた。

「ハルト~。ハルト~。‥‥よかった‥‥死んじゃったと思ったの。」

アリスは抱き着きながら大泣きだ。


「ごめんね。朝に布かけてくれたのに、なにも言わずに居なくなってしまって。」

「ハルトがすっごい震えてて‥‥。前に死んだ子の最後が同じような事になってて‥‥。

慌てて、何か温かくなるの探して、食堂の横にあった布拾って着てかぶせて‥‥。ご飯も急いで集めて‥‥。

それでもまだ震えてて、もっとご飯を探しに行って‥‥。戻ってきたら居なくって‥‥。

死んで衛兵に連れていかれたと思たの‥‥。うぁ~ん。よかったよ~。」


ほんとにごめん‥‥。大分心配かけちゃったみたいだ。

先に声かけておけばよかった。


町中で死体を見るのは珍しくない。町の通りでも死んでる人がいたり、路地で死んでいる人もいる。

アリスが言うように、死体は衛兵が巡回する時に見つけたりすると、回収され荷車に積まれて町の外に運ばれる。

路地の奥なんかでも死んでいるので、そういうのは路地トイレの掃除の人が一緒に運んでいく。

捨てる所は一緒らしい。


「アリス、ありがとう。あの時布かけてくれてなかったら、本当にダメだったかもしれない。助かったよ。」

「よかったぁ~。うわああああん。」


アリスは俺に抱き着いたまま、ず~っと泣き続けた。

俺は、背中をポンポンと叩きながら、泣き止むまで待った。


しばらくして少し落ち着いたみたいで、壁にもたれるように2人で座り、アリスの頭を抱いてあげる。

「よかった‥‥。ハルト居なくならないで‥‥。」

しばらくして、静かになったと思ったら、そのまま寝ちゃってた。

俺は、アリスを膝枕する感じに体制を変えて、マント代わりにしてた麻布をかけてあげる。

さて‥‥。ナシは夕飯のつもりだったけど、朝食になりそうだな。


アリスは、俺よりも1つ年上の6歳だ。

今日はこんな感じだったけど、いつもはしっかりしてて、引っ張って行ってくれるタイプで、かなり活発な子だ。

体力も俺よりもあって、俺が疲れた時には一人で食事を探して持って来てくれる。

いつも一緒に寝て、俺のお姉ちゃんのようにふるまっている。


こんな環境だから、親密になったらず~っと一緒に居ようとするのは仕方ないよね。

親の愛情もちゃんと受けてなくて、信じられる大人なんて居ない。それどころか害される心配ばっかり。

食事もまともに取れず、こんな臭い路地に寝るだけの生活。

ガリガリに痩せて、次々に知り合いが亡くなっていくような環境。


明日は、アリスも連れて行かないとだな。

連れて行かない方が、アリスには安全なんだろうけど、また心配かけそうだしな。

それに、町に居るからって安全な訳じゃない。

俺と一緒に居た方が、外だったとしても安全だろう。


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