9.初めての露店(2)
今の時間はギルドの出勤ラッシュなのか、しばらくすると今度は、
「ハルト!なにしてるんだ?」
「あ。ブラントさん。」
「露店してます。」
「なんか、ギルドマスターと話してたあれか。」
「1個買っていきませんか?」
「・・・そうだな。1個くれ。」
「まいどありです~。」
ブラントさんはシカ肉を受け取って、豪快にかじり付く。
「!!うめえ!なんだ・・うめえ!おい!うめえ!」
「でしょ~。いくらでも買ってくれていいんですよ~。」
「ああ。もう1個くれ。」
結局ブラントさんは、4つもシカ肉食ってからギルドに入って行った。
と思ったら交代で、ギルドマスターが走って来た。
「ハルト!なんだこれ!うますぎるぞ!まさかお前。」
俺の耳元に口を寄せ、
「魔法でなんかしやがったのか?」
「いいえ。そのままの味ですし、そんな魔法知りません。」
「このうまさはなんだ。俺は貴族様の食事も食った事あるんだぞ。
それなのに、こっちの方が格段にうまいって。」
「いいでしょ~。露店を許可して良かったでしょ?」
「・・・ああ確かに・・これがいつでも食えるって言うのはいいな。」
「今日は、200食だけ用意しているんで、売切れたら締めて帰る予定ですけどね。」
「こんなうまさじゃ、200なんてすぐに売り切れるんじゃないのか?」
「まあ、初日ですからね。」
確かに、ギルドマスターやブラントさん、昨日の冒険者なんかと話しているうちに、
もう50食は売れたんじゃないかな。
買ってくれる人数は少ないけど、1人当たりの消費量が多い。
客単価が高いってやつだな。
良い傾向なんだけど、客の持ち金が少ないはずなのに、これでは危険もはらんでるんだよな。
・・・もうちょっと様子見るか。
あと、昼までは営業したいなあ。
無くなったら誰かに走って貰って明日用に準備している、
シカ肉を取って来て貰うって言うのもありかもな。
東門が開くまで、何人かの冒険者が興味を持って買いに来てくれたが、
東門が開くとぱったりと客足が止まった。
冒険者の出発時間が終わったので、次は外に出ない冒険者が集まる、
7時くらいまで一旦止まりそうだな。
「あれ?ハルトさんじゃないですか?」
見ると、何となく見覚えあるけど・・・誰だっけ?
「バーナードです。熊の時の。」
ああ!俺が冒険者ギルドに登録する為に、狩った熊をギルドまで運んでくれた冒険者だ。
「ああ!お久しぶりですね。」
「何してるんですか?」
「ここの露店の営業してます。よかったら食べていきませんか?」
「おいしそうな匂いですね。分かりました1つください。」
シカ肉を渡して、お金を受け取る。
バーナードはシカ肉を頬張ると、
「うまい!すっごいうまい!」
「そうでしょ~。これから毎日売ってますので、買ってくださいね~。」
「おお!そうなんですか。これはうまいな。帰ってからの楽しみが増えたな。」
「そういえば、今日はお1人なんですか?」
バーナードさんは少し暗い顔をして、
「ええ。この間魔獣に見つかってしまって・・・。
パーティーメンバーの内1人が死んで、1人は足をケガしちまってな。
もう1人は、見舞いに行ってるんで、今日は俺1人なんだよ。」
「そうですか・・・。残念でしたね。」
「まあ、全滅までしなかったのが奇跡みたいなもんでな。
アリの魔獣数匹に見つかっちまったんだ。」
「アリの魔獣に・・・。」
「あいつが抑えてくれなかったら、全員死んでただろうな。」
「ケガされている方はどうしてるんですか?」
「ああ。あいつはもう戦いは無理だろうって事だから、パーティーからは外れて、
他の仕事を探してる所だ。まだ、完治してる訳でもないしな。」
「そうですか。銀ランクまでなったのに勿体ないですね。」
「そうだな。今は座ってても出来るような仕事を探している所だ。」
「う~ん。例えばですが、うちの露店の護衛なんて仕事出来ると思いますか?」
「露店の護衛か?・・・戦えねえからな・・。
でも、銀ランクにケンカ売る奴はそうそういねえだろうしな。
行けるかもしれないし、行けないかもしれないな。
雇ってくれるのか?」
「護衛か、売り子かで良ければ雇う事は可能ですよ。」
「おお!それはうれしい話だな。
例え銀とは言え冒険者崩れに仕事なんてないんで、本当に助かる。」
これからの人員は、ケニーさんにお願いする形なので、そっちで仕切って貰わないとだな。
「ケニー商会で雇えると思うので、来れるようになったら、ケニー商会に来てください。」
そう言いながら、ケニーさんの方をみる。
「そうですね。護衛が出来そうなら専属でもいいのですが、
難しそうなら売り子として雇う形になりますね。」
「分かった。ありがと!今からちょっと行って話して来る。
明日からとかは無理かも知れねえが、早いうちに顔を出させるよ。」
「あ・・朝5時半から昼くらいなら、ここに居るかもしれないのでこっちでもいいですよ。
仕事の内容も見れるだろうと思うし、アリーヤのやってる仕事をやってもらうので。」
「分かった。」
バーナードは、そのまま走って貧民街の方に向かって行った。