ケニー視点
ハルトさんに会ったのは、たまたまだった。
薬剤師に会いに、王国側の農村に向かった帰りだった。
黒マダラヘビの頭と魔法の宿った部位をを冒険者ギルドで仕入れて、
薬剤師に麻痺魔法薬を作ってもらう。
最近始めた商売だ。
レスリー商会と言う大手の商会のみが行っていて、需要は多く麻痺毒は人気の毒だ。
ただ、魔法薬を作るには腕のいい薬剤師が必要なので、参入事が難しい商売だ。
私がケニー商会を開く前に、行商でよくお世話になっていた農村の薬剤師に作って貰っている。
ご高齢で、無理言って作っていただいているので、
それほど頻繁にはお願いは難しいのだが、作って貰えるだけで十分だ。
一般的な薬剤師と言うのは、体が弱く働けずに薬剤師になるしかなかったと言うのが多い。
だが、まれに代々の薬剤師の家系で、魔法薬の作り方を知っており、
作る為の技術もあり人がいるのだ。
このご老人も、昔は貴族様の所で薬剤師をやっていたが、
仕えていた貴族様が没落されて流れて来たのだそうだ。
こういった巡り合わせが、行商のメリットだ。
そんな事を思いながら、平原を荷車でアイカに向かっていると、
女の子が一人で採取を行っていた。
この辺りは、平地でも獣が出るので危険な場所だが、
口減らしに子供に採取に行かせるという習慣もあり、
そういった不幸な子供達の1人だろうと思って何となく見ていた。
でも、その子供は髪の毛もきれいにしており、比較的服装もきれいだった。
少し違和感を覚えて、よく見るとそばの木に、ヘビが吊るされている!
さっきまで、取引で見ていた黒マダラヘビじゃないか!
見間違いではない。
あの女の子が狩ったとは思えないので、近くに親達がいて見張りに使ってるのかな?
少し危険はあるのだが、もしもヘビ専門の冒険者パーティーなら、
今後安く仕入れる事が出来る可能性がある、こういった巡り合わせは無駄にはすまい。
私は、歩いてその子に近づいていく。
女の子1人だと思っていたのだが、男の子も一緒にいたようだ。
男の子の方はかなり警戒しているようだ。
そうだろうな、こんな平原で大人に会うと警戒するのは当然だ。
出来るだけ敵意が無いように見せながら、事情を聞くとその男の子が狩ったと言うじゃないか。
嘘をついているようにも思えない。
話をすると、教養があるようだし計算も出来る事に驚いた。
・・・これがハルトさんに初めて会った時だったな。
あの時の巡り合わせが無ければ、私は毒をこんなに売って荒稼ぎする事も無かったし、
レスリーに目を付けられる事もなかった。
大銀のフランシスに命を狙われる事も、ハルトさんが魔法使いだと知る事も。
あの時、アリスちゃんを見つけなかったらと思う事もあるし、
今のありえないような、状況の変化にすごく興奮している私もいる。
本当にギリギリの状況だ、
一歩間違ったら大銀で魔法使いのハルトさんに殺されるかもしれない。
レスリーにも命は狙われてるのだろう。
貴族さまからも暗殺者を差し向けられ、私の名前を直接出されるような状況になっている。
でも、この状況はすごいチャンスもはらんでいる事も分かっている。
ハルトさんは、本当に規格外の強さを持っている人だ。
この人を裏切らなければ、私は死ぬ事がないんじゃないかと思うほどに。
それに、毒はもう売れなくなってしまったけど、リルさんという薬剤師の方がいる。
彼女は代々の薬剤師の家系で、魔法薬も作れるという話だった。
薬草にもかなり精通していて、かなり掘り出し物の薬剤師だ。
本来は、貴族様に仕えていてもおかしくないほどの知識を持っているんじゃないだろうか。
いや、親が貴族付きだったりしているのかもしれないな。
さらに、この方はハルトさんから聞いたと言う、料理による継続的治療や、
栄養素と言う考え方など、聞いた事も無いような薬学を知っていた。
ハルトさんは本当に規格外だが、それを理解して薬学に落とし込んでいる、
リルさんもかなりの天才だと思われる。
それに、露店にあの食事。
あれは、この町をひっくり返すほどの衝撃になるのではないだろうか。
最初に話を持ってこられた時には、露店なんて・・。と思っていたが、
あの料理を食べた瞬間震えた。
あれは始めれば、確実に儲かるそしてすごい商売に発展する。
その上、誰にもまねが出来ないと来ている。
いつまでも、独占出来る上に一度食べるともうあの味は忘れられない。
さらに、リルさんの継続的治療の知識も入っており、食べれば食べるほど健康になるそうだ。
ハルトさんは、他にも貴族の間で流行りだしたという、ヘビ皮の財布も手掛けたと聞いた。
あれも、物を売るという行為だけでなく、それに伝承を付けた新しい売り方だ。
ヘビ皮の財布を持っているとお金が溜まるって、
噂付きで商品を売るなんて今までにも無かった。
露店も、露店で温かい商品を売るというのも、あんなおいしい物を売るのも、
平民向けに肉を売るのも初めての試みだ。
さらに、ハルトさんには、音楽の才能もあるようだ。なんて多才なんだ。
楽器があそこまで見事に使えて、さらに聞いた事も無いようなリズムの音楽。
完成度も高く、あれは即興なんかでは出来ない。
あの歌い方も聞いた事の無い歌い方だった。
やはり、ハルトさんは魔法使いってだけじゃない。
何を隠しているのか詮索しないという約束はしましたが、分らない事だらけの方ですね。
まず、間違いなく年齢が5歳じゃないでしょうね。
魔法使いとしても、伝説級のレベルの方だとは思いますが・・。
それに魔法使いの家系でもなさそうで、魔法に対する知識もそれほど多くなさそうだ。
これで魔法使いって言うのが信じられないほどに。
昔のおとぎ話にある、若返りの宮廷魔術師の話も思い出したが、
それにしては知らない事が多すぎる。
逆に、知ってる事も多すぎるんだ。
あと、考えられるのは・・・。
この王国以外の私の知らない国から来たのか・・・海の向こうからかもしれないな。
ハルトさんの魔法力なら、海の境界の向こうからも移動出来るのかもしれない。
発想も、教育も、魔法力もなにもかも違いすぎる。
これは確かに、考えても答えは出ない問題ですね。
でも、この国はハルトさんにひっくり返されるんでしょうね。
いえ・・もしかしたら、もっと大きなレベルでひっくり返されちゃうのかもしれませんね。
武力や魔法なんかではなく、知識や考え方で。
それは、商人として心躍りますね。
ハルトさんからは離れられないですね。
この胸の高鳴りは、抑えられそうにありません。
どんな危険であっても、あの方の傍は常に楽しそうですからね。