アリーヤ視点(2)
男たちの乱暴もやまない生活が半年以上も続いた。
あたしたちは、ただの生ある人形だった。
何人もの女達が、死んでいった。
数が減ると、またどこからか補充が来た。
もう、限界だった。
そんな時だった。
ハルト様が来てくれたのは。
最初は、何が起こったのか分からなかった。
あたしの足は、もう二度と歩けるはずはなかった。
折れた足が、ゆがんでつながったからだ。
もう、戻せないのも分かってた。
助けが来るなんて事が、無いのも分かってた。
後は、今まで死んでいった女達と同じように、死ぬだけだと分かってた。
死ぬまでここで生きているだけだと分かってた。
でも、歩けるようになった。
清潔な服を用意してくれて、体も洗って貰って、ベッドで寝て、
お腹いっぱいの食事が食べれた。
もう死ぬだけだと分かってたはずなのに、すべてが分らなくなった。
クシェルは、みんなに「助かったんだ」って説明してるけど、
何を言ってるのは分からなかった。
あれから、なんだか分からないうちに2番目の宿場に行って、
そこからアイカの町に戻って来た。
旅の途中で、盗賊達が全滅したのを聞いた。
あの子達の仇はもう打たれた事を知ったんだ。
クシェルも唇を噛んでいた。悔しかったはずだ。
冒険者ギルドで、お目にかかる事なんて無いだろうと思ってた、
ギルドマスターにお会いする事が出来た。
お話をしてくださり、何があったのか聞かれた。
ハルト様の言ってた事をお話したのだが、話半分だったのになぜか納得されてた。
クシェルと、ファギーと3人で、これからどうするか話し合った。
クシェルが、
「ハルト様もこの町にいるという話です。ハルト様にお会いしよう。」
と言った。
それには賛成だ、ハルト様がいなかったらあたしらが生きてる事なんてない。
ちゃんとお礼が出来るならしたい。
でも、クシェルの考えてるのは違ったようだ。
「ハルト様にお仕えしたいと思ってる。
これはあたしだけの気持ちかもしれないけど、あたしはあそこでもう死んでいた。
それを救ってくれたハルト様にすべてを捧げたいと思ってる。」
「あたしも気持ちも同じだな。それに、もう冒険者として戦う事なんて出来ないよ。」
あたしが同意するとファギーも、
「うん、あたしもだ・・・それに、もしもハルト様にお仕え出来ればすごい事だよね。」
確かに、魔法使い様にお仕えするなんてとんでもない事だ。
それに思い至ったたら、とんでもない望みを話してるんだと気が付いた。
「・・・それは望み過ぎなのかもしれないわね。
でも、なにかのお役立ちたいという気持ちはお伝え出来ればと思うの。」
クシェルも思い至ったようで、そんな事を言った。
「ギルドマスターにハルト様と連絡を付ける方法を聞いてみるね。」
ギルドマスターに話を聞くと、ハルト様は露店の店員を募集しているとの事だった。
それならば、あたしらにも出来る事がある!
ギルドマスターに、応募したい事を伝え、またハルト様にお会いする事ができた。
そして、ハルト様にお話しをさせていただき、そばにお仕えする事を許可いただいた。
ハルト様の家には、あの時にあたしが囮にし、
一緒に盗賊の所に捕まっていたリルとも再開する事が出来た。
リルも、マディもハルト様を、心から信頼しているようだった。
2か月ほど前に救われたそうだ。
リルの話を聞くと、すっごい贅沢な暮らしをしているらしい。
あたし達にも個室が与えられ、ハルト様と同じご飯を食べ、新しい事を教えてもらっている。
今まで覚えたかった、文字も教えてもらう事が出来た。
難しいけど、計算も教えてもらっている。
料理も思ってたよりもずっと楽しい事が分った。
あれはマディが楽しんでるからだろうな。
マディは料理だけ作ってれば幸せって感じの人だ。
でも、すごい研究熱心でハルト様からの信頼も厚い。
アリスやジャック、ミーアもすっごいいい子だ。
ジャックはいろいろやり過ぎてて見ててほほえましいが、相当やんちゃだな。
でも、ミーアの事を本当に大事にしてるのが良く分る。
ミーアはハルト様の事をジャックよりも信用してそうなので、ジャックも救われないわね。
・・・クシェルが妹をかわいがっていたのを思い出すな。
クシェルも、見ていて思うんだろうな。
ジャックの事は、特に目をかけているようで、良く叱っている。
クシェルとしては、ほっておけない弟のように思ってるんだろうな。
いえ・・あたしらの年齢なら子供かな。
アリスは、お姉さん気質の小さなクシェルみたい。
ハルト様の事が大好きなのがよく分る。
解体の事を一番知ってるので、あたしらよりも解体がうまい。
あたしらが狩った獣なんて全部で数えるくらいだから、
1日10匹近い数の解体している、アリスとは比べるのもおこがましいな。
とうとう、ハルト様に護衛の仕事をを仰せつかった。
戦闘は無いという事だったが、あたしは震えた・・怖くって。
それに気が付いたのか、ハルト様はあたし達にすごい剣を用意してくれた。
ここで使ってた包丁や解体で使っててたナイフもすごかったけど、
作っていただいた剣は格別だった。
しかも、あたしの要望を聞いていただいて、短く軽くしていただいた。
この剣は引いても押してもないのに、触れるだけで切れるんだ。
細身なのに硬さもすごく、どんなに振ってもしなる事さえない。
ハルト様が言うには、エストックって剣の種類に似ているそうだ。
この剣があれば、獣でも人でも当たれば、力を入れなくても切り落とせる。
あたしは力はないけど、当てるのだけは得意だから・・・。
それに、投てき用の武器迄作ってくれた。
ハルト様に心配をかけてるんだと思うと申し訳ない。
恐ろしいが、護衛任務しっかりさせていただこう。
護衛任務という事で同行したのだが、実際にはまったく戦闘もなく、
常にハルト様はあたし達を気遣ってくれ、守ってくれている。
それに、お休みの海は楽しかった。
バーベキューも美味しかったし、あのジュースのなんておいしい事か!
でも、ハルト様が作ってくださるので、お代わりを言い出せずに1杯しか飲めなかった。
ハルト様に、マディが作り方を教えて貰ってたから、マディが覚えたら作って貰おう。
ウィダスの食材を使ったら、今の食事もさらにおいしくなるって話だったんだけど、
今よりおいしくなるってなに!?今よりおいしい物があるの!?
あたし本当に、生きてるのかな?
あの足を折った時に本当は死んでしまったのかもしれない。
そして、夢を見てるんだ。でも、この夢は幸せな夢だな。
この幸せな夢が覚めないようにに、夢の中で努力しよう。
出来る事ならなんでもしよう。