46.アイカへの帰路(4)
「俺が買ってみてやる!」
少しお酒の入った冒険者が横から入り、ノリで買ってくれるようだ。
「おお~。」
「ねえちゃん1個くれ。」
「はい。どうぞ。」
アリーヤは、大銅貨1枚貰いシカ肉焼きを渡す。
その冒険者は、シカ肉を素手で持ってかぶりつく。
「なんだ!これ!・・・うめえ!こんなうまいもん初めて食った。」
冒険者は、ガツガツとシカ肉を食べきると、
「おい!ねえちゃんもう1個くれ!」
「はい。どうぞ。」
大銅貨1枚貰い、シカ肉焼きを渡す。
その冒険者は、すぐさまシカ肉にかぶりつき食べだした。
様子を見ていた、他の冒険者もポツポツと購入をしてくれる。
1つでも食べた冒険者は、感嘆の声と共に有り金を使って、お代わりをどんどん頼んでくる。
「おい。これはここの宿場でいつも売ってるのか?」
「いえ。たまたまここで売ってるだけで、もう少ししたらアイカの冒険者ギルド前に、
露店を出す予定です。」
「冒険者ギルド前に出るのか!俺、絶対また買いに行くぞ!」
「ええ。ぜひお願いします。」
さすがに、誰でも買える金額でもないし、人数がそもそもそんなにいないので、
用意したシカ肉は少し余ったけど、十分に売れる感触を掴んだので成果あったと思う。
冒険者相手でも売れそうだな。
少し余ったシカ肉が勿体ないので、
細かく切ってお金が無くて恨めしそうにしていた冒険者に1つづつ配ってみた。
「うめぇ!酒飲まずに金置いておけばよかった!」
「マジで、これうますぎるぞ。」
試食も十分な感触だな。
売れそうだ。
今回の販売でいくつか課題も見えたな。
・冒険者が素手で食べるのは良いのだが、汚い手で食べて病気になると困るな。
・入れ物も無かったので、俺が急造したからいいけど、これも事前に用意しておかないとだな。
・下ごしらえは、マディに頑張って貰ったけどこれはもちろん事前に用意しておきたい。
・焼くのにはそれなりの練習はいるが、販売は誰でも出来そうだな。
人を雇うのは、まずは販売要員からだな。
・宣伝用には、子供を1~2人雇って叫ばせる感じにすれば足りるか。
値段的にはこれくらいでも思いのほか売れるんだな。
ここに居るのが、護衛として雇われるという事で大銅ランク以上なのでそれもあるのかも。
翌朝、商隊の出発前にテントを返却してみんなと一緒に出発する。
今回は、アイカの町で商隊と別れて南の門に行く予定なので、
俺も荷台に乗らずに歩きで進み、商隊よりも遅くなるように調整している。
もう周りには不審な動きもなさそうなので、このまま順調に進む事が出来るだろう。
街道の周りは畑地帯になっており、農民が畑から収穫をしていたりするのが見える。
俺の歩くペースで進んでるので、ゆっくりコミュニケーションを取りながら進んで行く。
クシェル達が、冒険者だった頃の話や、冒険者になる前の話。
ケニーさんが、行商人んから始めて、アイカでお店を持つに至った経緯なんかの話だ。
俺の話もするが、この2か月とその前がつながらなさすぎるので、この2か月の話だけしている。
後は、計算が苦手な3人に、ケニーさんが分かりやすい計算の考え方なんかを教えてくれてた。
いろいろ話しているうちに、アイカの町が見えて来たので、
右折し川沿いに進んで南門に向かう。
南門に入る時には、クシェル達がいるのはよろしくないので、
川沿いで周りから見えなくなった所でクシェル達は家に戻って貰う。
俺とケニーさんの2人で、南門に向かう。
「ロベルトさんお久しぶりです。」
「ん?ハルトか、おかえり。」
「紹介しますね、この人がケニーさんです。」
「何度か門ではお会いしましたけど、ちゃんとお話するのは初めてですね。
ケニー商会会頭のケニーと言います。」
「おお。あんたがそうだったのか、ハルトから聞いてるよ。
獲物の買い取りしてくれてるって。」
「はは。今は買い取り出来てないんですけどね。」
「ん?そうなのか?」
「毒薬の販売が禁止になったので、俺の取って来た獲物の買い取りが出来なくなったんです。」
ロベルトさんにも話は行ってたみたいで、
「ああ。あれか。突然のお達しだったしな。それは災難だったな。
で、今度はウィダスに貿易って事か?」
「西の街道に盗賊が出るって事で、俺が護衛で行ってきました。」
「なるほどな・・・。ハルトの護衛とは贅沢だな。」
「ええ。その通りですね。」
「ロベルトさん。ウィダスのお土産が少しあるんですけど、
ハーリさんの所に届けておきますね。」
「お!お土産か、楽しみだな。ハーリも喜ぶだろう。」
「じゃあ、手続きおねがいします。」
「ああ。」
ケニーさんのギルド証と、俺のギルド証を確認してもらい門に入る。
久しぶりの、アイカの町だ。
1週間ほどだったけど、懐かしい気がする。
これからまだ事後処理がいろいろあるので忙しいが、とりあえず・・・ただいまだな。