44.アイカへの帰路(2)
「俺も、穴に落ちた奴の救出に行って、やっと帰って来れたと思って家に帰ったら、
俺の宿屋の中にも裸の男たちがごろごろ転がってて同じ事件だ。
たまったもんじゃないよ。」
「お互いに、不運が重なったんですね。」
「あんたらは、裸の大量殺人鬼には合わなかったのか?」
「ええ。夜のうちにウィダスに入ってましたので。」
「夜ってなんでまた。」
「私についてた護衛達が、不穏な動きをしてましたので、不意を突いて移動してたんです。」
「ああ。あの護衛の奴らも裸の大量殺人鬼にやられてたな。
今朝までいた、冒険者の大集団に連れられてどこかに移動しちまったけどな。」
「いろいろご迷惑をおかけしたみたいですね。宿代の方は少し色を付けさせてもらいます。」
「ああ。それはありがたいな。荷引きの奴はこっちで処理しておいたので、
新しいやつ探すなら手配してやろうか?」
「お気遣いありがとうございます。でも、新しい護衛の方々もいるので大丈夫です。
今晩は、宿の方に泊っても大丈夫です?」
「ああ。あんたが先約だからな。」
「では、明日も早くに出ますので、残りの分を先にお支払いしておきますね。」
「ああ。なにかあったら声かけてくれ。」
ケニーさんは宿代に色を付けて、支払いを終わらせみんなで部屋に入る。
「どう思いますか?」
「はい?店主の事ですか?」
「いろいろ怪しいのに、あの態度って言うのがちょっと不審な気がしてます。」
「う~ん。あんなもんじゃないですかね。
農民はあまり難しい事を考えないようにしてるんです。
それに事なかれ主義といいますか、我関せずといいますか、
自分に関係ない事に対しては、たいして興味もなく、犯罪者であっても同じ対応なんですよ。」
「そうなんだ・・。でも、例えば俺達の情報を売ったらお金になるとかだったら?」
「すぐに売るでしょうね。」
「なるほど。俺達にレスリーからの懸賞金が掛かってない事を祈るのみですね。」
まあ、大丈夫か。
レスリー派も、大人しく冒険者村に移動したみたいだしな。
宿屋の部屋に入ると、掃除はしてくれていたみたいで、昨日の襲撃の後は片付けられていた。
「クシェル達は、明日の朝まで家に戻ってていいよ。」
「あの・・ハルト様、夕飯はどうされるのですか?」
「ああ。そうだね。
夕飯マディに作って貰って、持ってきて貰ってもいいかな?
俺と、ケニーさんの分だけでいいから。それ終わったらクシェル達は家に戻ってて。
明日の朝迎えに行くから。」
「はい。かしこまりました。」
俺は、亜空間を開けてクシェル達を家に戻す。
クシェル達が戻ったら、ケニーさんとマディの作ったご飯を食べる。
クシェル達は、もう家に戻って貰って亜空間の入り口も閉じてしまっている。
「本当に、ハルトさんの所のごはんはおいしいですね。」
「調味料が豊富ですからね。後は肉の処理もいろいろ工夫しているので。」
「なるほど。でも、ダメですね・・・。
こんなおいしい物に慣れてしまうと元の生活に戻れなくなる。」
「ははは。そうかもですね。露店の方もそういう方向で考えてたりします。」
「なるほど。最初は高いと思ってても生活の必需品になると、
金額にかかわらず購入するしかないですからね。」
「安い料理とか、店舗をいくつか出すとかいろいろ考えてはいるんで、
その辺で生活に困窮しない程度になればと思ってます。」
「という事は、人員はもっと必要になるという事ですか?」
「そうですね。それに下処理をする為の工場が欲しいと思ってます。」
「それで人員を増やして生産量を上げると・・・。
その工場の確保と人員の確保ですが、私の方でやらせていただけませんか?」
「あ・・それは助かりますけど。なんでです?」
「いえ。前にお話ししていた内容ですと、
ハルトさんは肉の消費を主に考えてられるという事でした。
それならば、店舗の運営は私の方でやった方がいいのかと思いまして。
私が雇い主にならないと、店の店員への指示が難しくなる可能性があるので。」
「俺の方は面倒が減るのでうれしいです。」
「ええ。経営していくなら、人事権は私が持ってないと、
アメもムチも与えられないですから。」
確かに、その通りだろうな。
ある程度の人事権が無いと、言う事を聞かせる事さえ難しくなるからな。
夕飯を食べ終わり、そのまま就寝する。
サーチでも、俺らの泊っている宿屋にはなにも変化なく、
襲撃なんかがある感じでもなさそうだ。
冒険者村に向かった150人の方は、冒険者村に到着したようだ。
1番目の宿場からも、集団が到着したようで、散らばってたやつらも終結したみたいだな。
レスリーがどういう意図で、
あいつらを、冒険者村に戻すという指示を出したのか分らないのが不安だな。
商業ギルドだけでなく、冒険者ギルドにも手を回せるのか、それとももっと上なのか。
俺が、冒険者ギルドに報告しただけでは、討伐隊が出ないって事があり得るのか?
公に、討伐を止める方法・・・。
もっと重要な事件が起これば盗賊なんて後回し・・とかか?
早朝クシェル達を迎えに行き、一緒に2番目の宿場を出発する。
昨日一緒だった商人達も、全員一緒に1番目の宿場に向かう。
街道沿いにも、冒険者村にも異常はなさそうだ。
今日も、順調に移動出来そうだな。
俺は、荷車に揺られながら街道を進んで行く。
「ファギー疲れない?大丈夫?」
「はい。これくらいの荷物全然大丈夫ですよ。」
「ファギーは体力あるね~。」
「そうですよ!この力が自慢なのです。」
ファギーは、クシェル達の中で体力的に一番優れている。
剣技ではクシェルの方が秀でていて、アリーヤは斥候なので速さや隠密になるのかな。
「ファギーの武器って、昔っから片手剣なの?」
「う~ん。まだ鉄製の武器が買えなかった時には、こん棒みたいなの振り回してました。」
「そう!ファギーって、その辺のなんでも武器にして振り回しちゃうのよ!」
アリーヤが話に入って来た。